早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

所得税法上、早生まれの扶養控除が不公平であることを提訴

地方税法に続き、所得税の方も提訴いたしました。

こちらが訴状になります。

事件番号は、令和4年(行ウ)193号 同197号

担当は民事第38部です。

 

 

           訴    状

                        令和4年5月10日

 東京地方裁判所 御中

 

     原      告   sakurahappy

     被      告   国               

     同代表者法務大臣   古   川   禎   久   

     処 分 行 政 庁  川 崎 北 税 務 署 長   

 

更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求事件

訴訟物の価額  12万8646円

ちょう用印紙額    2000円

 

第1 請求の趣旨

  1. 川崎北税務署長が令和3年12月24日付けで原告にした平成29年分と令和2年分の所得税及び復興特別所得税の更正の請求に対してその更正をすべき理由がない旨の通知処分をいずれも取り消す。
  2. 訴訟費用は被告の負担とする。

 との判決を求める。

 

第2 請求の原因

1 事案の概要

 原告は,平成29年12月31日時点で15歳の扶養親族を控除対象扶養親族とせずに行った平成29年分の所得税等の確定申告について,控除対象扶養親族とすべきであるとし,令和2年12月31日時点で18歳の扶養親族を特定扶養親族とせずに行った令和2年分の所得税等の確定申告について,特定扶養親族とすべきであるとして,それぞれ更正の請求をしたところ,川崎北税務署長(以下「処分行政庁」という。)から,更正すべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各処分」という。)を受けた。

 本件は,所得税法第85条3項のうち,19歳未満の控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢判定をその年の12月31日の現況によるとした規定によって,同じ学年に属する子を扶養していても4月2日から1月1日生まれの子を扶養した場合と1月2日から4月1日生まれの子を扶養した場合で扶養控除や特定扶養親族の適用が異なることは憲法14条1項に違反しており,同じ学年に属する子を扶養する場合は同じ扱いとするべきであるから,扶養親族が12月31日時点で15歳であっても,その年の1月1日から3月31日の間に15歳に達したものは控除対象扶養親族とし,同じく18歳であっても,その年の1月1日から3月31日の間に18歳に達したものは特定扶養親族であるとして行った原告の更正の請求に対して,本件各処分の取消しを求める事案である。

2 関係法令の定め

  1.  所得税法(平成29年分については,平成29年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)第2条第1項34号は,扶養親族は,居住者の親族でその居住者と生計を一にするもののうち,合計所得金額が48万円以下である者をいう旨規定し,また,同項34条の2は,控除対象扶養親族は,扶養親族のうち,年齢16歳以上の者をいう旨規定し,そして,同項第34号の3は,特定扶養親族は,控除対象扶養親族のうち,年齢19歳以上23歳未満の者をいう旨を規定している。
  2.  所得税法第84条1項は,居住者が控除対象扶養親族を有する場合には,その居住者のその年分の総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額から,その控除対象扶養親族1人につき38万円(その者が特定扶養親族である場合には63万円とする。)を控除する旨を規定している。
  3.  所得税法第85条3項は,同法第84条の場合において,その者が居住者の特定扶養親族又はその他の控除対象扶養親族に該当するかどうかの判定は,その年12月31日の現況による旨を規定している。
  4.  平成22年度等における子ども手当の支給に関する法律(平成22年法律第19号)第3条は,子ども手当の支給対象を15歳に達する日以後最初の3月31日までの間にある者と規定している。
  5.  高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成22年法律第18号)第3条は,高等学校等就学支援金が高等学校の生徒等に支給する旨を規定し,同第5条は,その者が高等学校等に在学する月について,月単位に支給される旨を規定している。

3 提訴に至るまでの経緯

  1.  原告は,平成29年と令和2年において給与所得者であり,平成14年2月〇〇日生まれの三男と生計を一にしていた。
  2.  原告は,三男を平成29年分では控除対象外の扶養親族とし,令和2年分では一般の控除対象扶養親族としてそれぞれ確定申告をした。
  3.  原告は,令和3年10月15日に三男を平成29年分では一般の扶養親族として,令和2年分では特定扶養親族としてそれぞれ更正の請求をした。(甲1号証,甲2号証)
  4.  処分行政庁は,令和3年12月24日に原告に対して更正すべき理由がない旨の各通知処分をした。(甲3号証,甲4号証)
  5.  原告は,令和4年2月1日,処分行政庁に対し,更正すべき理由がない旨の通知処分の取消しを求める審査請求を提起したが,3ヵ月経過しても裁決はされていない。(甲5号証)
  6.  原告は,令和4年5月10日,本件訴えを提起した。

 

4 原告の主張

 はじめに,一般的には1月1日から4月1日までに生まれた者を早生まれというが,本件において取扱いの差異があるのは4月2日から翌年の1月1日に生まれた者を扶養する納税者と1月2日から4月1日に生まれた者を扶養する納税者であるため,本書では4月2日から翌年1月1日に生まれた者を遅生まれと表し,1月2日から4月1日までに生まれた者を早生まれと表す。

(1)不公平税制の指摘

 所得税法における扶養控除は,昭和25年に生計を一にする親族を扶養している納税者の税負担を軽減するために設けられた制度である。そして平成元年の改正では,教育費を含む種々の支出がかさむ世代の所得者の税負担の軽減を図る見地から,高校入学から大学卒業を念頭に,一定の年齢の扶養親族について扶養控除の割増控除を設けることとされ,扶養親族が16歳以上23歳未満の子は特定扶養親族として所得控除額を上乗せする制度となった。その後,平成22年度の改正では「所得控除から手当てへ」等の観点からと子ども手当の創設にあいまって,15歳以下の年少扶養親族に対する扶養控除を廃止し,また高校の実質無料化に伴い,16歳から18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除額の上乗せ部分が廃止となっている(甲6号証)。なお,子ども手当制度は平成24年より児童手当制度として引き継がれている。

 ところで,所得税法はその年の12月31日の現況から扶養親族を認定しているが,その扶養親族が15歳以下の年少扶養親族か,16歳から18歳の控除対象扶養親族か,19歳から22歳の特定扶養親族かについても,その年齢の判定をその年の12月31日の現況としているため,早生まれの扶養親族は,その年の12月31日の時点で高校1年生であっても15歳であるから控除対象扶養親族ではなく控除対象外の扶養親族となり,同様に大学1年生の時は18歳であるから特定扶養親族ではなく一般の控除対象扶養親族となっている。

 そのため扶養する子が同じ学年であっても遅生まれと早生まれでは,扶養控除の扱いが異なるため,扶養者の課税額が異なっている。

 具体的には,その年の12月31日時点で高校1年生の子を扶養しているケース(本件平成29年分)では,その子が遅生まれである場合は年齢が16歳であるため,38万円の扶養控除が適用されるが,早生まれである場合は年齢が15歳であるため扶養控除が適用されず,税率20%とした場合の所得税額は7万6000円,復興特別所得税額は1596円高くなる。またその年の12月31日時点で大学1年生の子を扶養しているケース(本件令和2年分)では,その子が遅生まれである場合には年齢が19歳であるため,63万円の扶養控除が適用されるが,早生まれである場合は年齢が18歳であるため扶養控除額は38万円になるので,税率20%とした場合の所得税額は5万円,復興特別所得税は1050円高くなる。

 等しきものを等しく扱い,等しからざるものを等しからざるように扱うというのが租税公平負担の原則であるが,同じ学年に属する子を扶養する親は,扶養に要する支出が同等であるのだから等しく扱うべきであり,子の誕生日の違いで異なる扱いをすることに合理性はない。

 この扱いの差異は,後述する判断の枠組みに照らすと違憲違法であるほか「租税法律主義の当然の帰結である課・徴税平等の原則は,憲法14条の課・徴税の面における発現であると言うことができる。」とした大阪高裁判決(大阪高判昭和44年9月30日判時606号19頁)いわゆるスコッチライト事件判決を踏まえても,等しく扱うべきものを等しく扱うという租税の水平的公平負担原則に反しており,憲法14条1項に反するというべきである。

 

(2)不公平な高等学校等就学支援金制度の指摘

 地方税法の扶養控除の考え方は,所得税法と同じで互いに整合性が取られており,地方税法では,一般の扶養親族に対する扶養控除額は33万円,特定扶養親族に対する扶養控除額は45万円である。平成22年の税制改正では,子ども手当制度と高等学校等就学支援金制度の創設に伴って,所得税法地方税法の扶養親族と特定扶養親族についての改正が行われている。また創設された高等学校等就学支援金制度は,平成26年の制度改正によって所得要件が設けられ,市県民税の課税標準額から就学支援金の支給可否や支給額を決定している。具体的には,全日制高校の場合,課税標準額の6%から市町村民税の調整控除の額を引いた金額が30万4200円以上になると就学支援金は支給対象外となり,同金額が15万4500円以上になると私立学校等の加算金の支給対象外となる。ところが,算定の基礎となる課税標準額は,扶養控除額が反映されたものであり,高校2年生の就学支援金の算定にあたっては,前年の12月31日時点で,遅生まれの子は16歳,早生まれの子は15歳となるため,遅生まれの子を持つ納税者の課税標準額は33万円の扶養控除額が反映されることに対し,早生まれの子を持つ納税者の課税標準額は扶養控除がないため課税標準額が高くなり,その結果,支給の可否や支給額が不利となっている(甲12号証,甲13号証)。

 これは,追加で設置された所得要件によって顕在化した不公平ではあるが,高等学校等就学支援金制度は地方税の賦課が当然に公平であることを前提に設計されているにもかかわらず,地方税法は,遅生まれと早生まれで異なる扱いをしていることが原因である。

 このように高校2年生の生徒の親の収入や環境が全く同じであっても,生徒の誕生日の違いによって就学支援金を受けられなかったり,減額されたりすることは明らかに不合理であり,このような結果をもたらす地方税法の扶養控除の規定は,不合理な差別を禁止した憲法14条1項に反している。そして,地方税法所得税法の扶養控除の規定は不離一体であり,どちらも高等学校等就学支援金の創設に伴って同じように改正されたことを踏まえると,両法は根本的に同様の不合理を抱えているというべきである。

 

(3)区別と法的取扱い差異の明確化

 本件決定の憲法適合性を検討するにあたって,まず区別とその法的取扱いの差異を明確化する。

 まず,本件における区別は,所得税法85条3項で控除対象扶養親族か特定扶養親族かの判定をその年12月31日の現況によるものと規定していることにより,以下の①と②の2つが区別されている(以下,「本件区別」という)。

①その年12月31日時点で高校1年生に相当する親族を扶養している納税者を,その扶養親族が遅生まれか早生まれかで区別している。両者の親族は同じ学年に属し,扶養のための支出は同等であるにもかかわらず,前者が38万円の扶養控除を適用して課税額が算出されるのに対し,後者は適用しないで算出される。

②その年12月31日時点で大学1年生に相当する親族を扶養している納税者を,その扶養親族が遅生まれか早生まれかで区別している。この両者も親族が同じ学年に属し,扶養のための支出は同等であるにもかかわらず,前者が25万円の扶養控除額の上乗せ部分を適用して課税額が算出されるのに対し,後者は適用しないで算出される。

 以上の本件区別は,上記以外にも次のような不利益をもたらしている。

 ひとつは,扶養する子が高校卒業後に浪人や留年なしで4年制大学を卒業し社会人になった場合,遅生まれであれば,高校生から大学生の間の7年間が控除対象扶養親族となり,そのうち4回は特定扶養親族となるが,早生まれであると,高校生から大学生の間の7年間のうち6年間しか控除対象扶養親族になれず,そのうち3年間しか特定扶養親族になれないことである。

 もうひとつは,扶養する子が高校卒業後に浪人や留年をしたり大学院に進学したりするような場合,例えば1年浪人したケースを考えると,遅生まれであれば高校生・浪人・大学生の8年間が控除対象扶養親族となるが,早生まれであるとこの8年間のうち7年間しか控除対象扶養親族になれないことである。

 

(4)判断の枠組み

憲法14条1項は,すべて国民は法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において差別されない旨を明定している。この平等の保障は,憲法の最も基本的な原理の一つであって,課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶものである。しかしながら,国民各自には具体的に多くの事実上の差異が存するのであって,これらの差異を無視して均一の取扱いをすることは,かえって国民の間に不均衡をもたらすものであり,もとより憲法14条1項の規定の趣旨とするところではない。すなわち,憲法の右規定は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,何ら右規定に違反するものではないのである。

 租税は,今日では,国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがつて,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであるとすれば,租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である。(昭和55年(行ツ)第15号 最高裁判所大法廷昭和60年3月27日判決)」(以下「昭和60年大法廷判決」という。)とした昭和60年大法廷判決に照らすと,まず立法目的が正当でなければ違憲であり,また立法目的が正当である場合は,当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかであれば違憲というべきである。

 

(5)立法目的の正当性について

 平成22年度の税制改正にて扶養控除が見直しされた件につき,その立法目的の正当性について検討する。平成22年度の税法改正における扶養控除の見直しは,同年に創設された子ども手当(現行の児童手当)制度と高校の実質無償化制度に伴って行われたものであり,次の2つが改正の趣旨である。

 まず,創設された子ども手当制度が15歳に達する日以後最初の3月31日まで,すなわち中学校を卒業するまでの子に子ども手当を支給するものであるため,扶養親族が子ども手当の支給対象である場合には,その子に対する扶養控除を廃止すること。そして,創設された高校の実質無償化制度が,高等学校を卒業する年の3月分まで支給するものであるため,扶養親族が就学支援金の支給対象である場合に,その者に対する扶養控除額の上乗せ部分を廃止することである。(甲6号証)

 このように平成22年度に改正された扶養控除の見直しに関する立法目的は,子ども手当が支給される子を扶養する場合は,扶養控除の軽減措置を廃し,また高等学校等就学支援金が支給される子を扶養する場合は,扶養控除額の上乗せによる軽減措置を廃して,租税負担を調整することと解され,正当なものといえる。

 

(6)立法目的と立法手段との関連性について

 次に立法目的と立法手段の関連性について検討する。

 平成22年度の改正で扶養控除対象外となったのは,その年の12月31日時点で15歳以下の扶養親族であるが,そのうちその年の1月1日から3月31日の間に15歳に達した者は,12月31日の時点で既に中学校を卒業しており子ども手当の支給対象外である。そうすると12月31日時点で15歳以下の者のうち,その年の1月1日から3月31日の間に15歳に達した者を扶養控除の対象外とする部分については「子ども手当の支給対象者の扶養控除の軽減措置を廃して租税負担を調整する」という立法目的との間に合理的関連性がない。

 また平成22年度の改正で特定扶養親族の上乗せ部分が廃止となったのは,その年の12月31日時点で16歳から18歳の扶養親族である。しかし,その年の1月1日から3月31日の間に18歳に達した者は,12月31日の時点で既に高校を卒業しており就学支援金の支給対象外である。そうすると,その年の1月1日から3月31日の間に18歳に達した者を特定扶養親族と認めない部分については「高等学校等就学支援金が支給される親族を扶養する場合は,扶養控除額の上乗せによる軽減措置を廃して,租税負担を調整する」という立法目的との間に合理的関連性がない。

 このように,平成22年度に改正された所得税法の扶養控除の規定のうち,その年の1月1日から3月31日の間に15歳に達した者を扶養控除対象親族として扱わず控除対象外とした部分と,その年1月1日から3月31日までに18歳に達した者を特定扶養親族として扱わない部分は,明らかに立法目的と立法手段の間の合理的関連性を欠くのであって,立法手段の相当性(著しく不合理か否か)を検討するまでもなく,憲法14条1項に反するというべきである。

 

(7)その他の観点について

 上記の通り昭和60年大法廷判決に照らすと本件区別が憲法14条1項に反することは明らかであるが,その他の観点からの考察を論じ,主張を補充する。

 

 A.本件区別が租税負担能力の差異に応じたものかについて

 租税公平負担原則は,租税負担能力が等しきものに等しい負担を,等しからざるものに等しからざる負担を課すこととされるので,本件区別が租税負担能力の差異に応じたものかどうかについて検討する。租税負担能力とは,租税を負担できる能力であり,その指標は,収入(所得)・支出(消費)・資産(財産)の3つであるので,その年の12月31日時点で高校1年生を扶養する納税者を,その子が遅生まれと早生まれで区別した場合について,それぞれの指標を比較する。なお大学1年生に相当する子を扶養する場合も同様である。

 まず収入については,所得税はその年の1月1日から12月31日までの所得に対して課税される暦年課税制度であるため,その年の所得で比較することになるが,扶養する子が遅生まれの高校1年生か早生まれの高校1年生かによって扶養者の所得が影響されることはないため,収入面からは同等の租税負担能力を有するといえる。

 次に支出についても同様で,その年の支出が,遅生まれの高校1年生も早生まれの高校1年生も誕生日の違いによって扶養者の支出が変更になることはないのであるから,支出面からも同等の租税負担能力を有するといえる。

 最後に資産についてであるが,そもそも所得税は暦年課税であり,その年の収入と支出から課税額が決定されるべき性格なので,資産の違いから課税額を変更することは道理ではない。が,その点をおいておくとしても遅生まれより早生まれの高校生や大学生を扶養する納税者の保有資産が大きいことを示す統計は存在しないので,資産の面からも同等の租税負担能力を有しているというべきである。

 なお,遅生まれのほうが養育にかかる期間が長いとの指摘が考えられるが,そのことが資産面にどう影響するかという観点から以下に検討する。

 遅生まれと早生まれでは学齢期の養育期間は同じである。また婚姻から出生まので期間が遅生まれと早生まれで変化することもないので,養育期間の違いはもっぱら乳児期から幼児期である。その間,遅生まれの養育期間が長く,かかる出費も多くなるが,収入を得る期間も同様に長くなるのであるから,その間の家計が赤字でない限り形成される資産は遅生まれの子を養育する者のほうが多いということになる。

 加えて,児童手当は誕生した月から支給されるので,遅生まれの子は児童手当を受ける回数が早生まれの子に比べて多くなりその差は最大11か月分にもなる。そして「平成24年児童手当の使途等に係る調査報告書」(甲7号証)によると,長子が0歳から3歳までの子の児童手当の使途として,子どもの将来のための貯蓄・保険料となるのが46.0%,特に使う必要は無く,全部または一部が残っているが24.9%であることを踏まえると,支給回数の多い遅生まれの子を持つ親のほうの貯蓄額が多くなるといえるし,平均的な家計状況が赤字でないことも明らかである。そうすると資産の観点から比較すれば,早生まれの子を持つ親のほうが遅生まれの子を持つ親よりも租税負担能力が低いというべきであり,早生まれの子を持つ親の課税額が重くなる理由にはなりえない。

 更に,「保活」の実態に関する調査の結果(甲8号証)をみると,早生まれであると4月の入園申し込みに間に合わず保育園に入園しづらい問題が指摘されている。保育園に預けることができなければ就業や収入に影響することになるため,結果として保活の実態という観点からも早生まれの子を持つ納税者の租税負担能力の方が低いというべきである。

 以上のことから,遅生まれより早生まれの親族を扶養する納税者の租税負担が重い現行の制度は,租税負担能力の差異に応じておらず,真逆なのであるから著しく不合理であるというべきである。

 

 B.租税の効率的徴収という観点について

 租税立法においては,効率的な課徴税が要求されることから,扶養親族の年齢判定と効率的徴収の関係を検討する。

 まず所得税は,その年1月1日から12月31日までの収入と支出を基礎に課税額を算出する暦年課税制度である。そして扶養控除は支出を考慮したものであるが,もし1年間のうち誰を何日間扶養していたかを基に扶養控除額を調整していたら税額決定は大変非効率である。そこで現行の制度は,1年のうち,12月31日を基準日として定め,その基準日における扶養関係を課税対象年の扶養関係とみなすことで効率化しているものと解される。一方,その基準日を何日にするかについては,例えば納税者の住所の確定は1月1日が基準日とされているように,12月31日である必然はないが,12月31日を基準日とすることは,その年の最終的な扶養関係を採用して税額算定の基礎にすることであり,その合理性は否定できない。

 次に22歳以下の扶養親族年齢の判定であるが,この基準日をその年の12月31日にしていることで不合理な差別が発生していることは前述したとおりであり,不合理な差別を解消するならば,基準日を翌年の3月31日とすることになる(基準日を翌年の3月31日にするということは,その年の4月1日から翌年の3月31日に達する年齢で判定するということである)。ここで基準日が未来の日付であるという批判は当たらない。なぜなら年齢の判定は,未来の年齢を算出して判定するものではなく,生年月日がどの範囲にあるかを判定するものだからである。例えば,令和3年の課税額決定にあたり12月31日時点で扶養している親族が特定扶養親族かどうかを判定するには,その者の生年月日が平成3年1月2日から平成7年1月1日の間かどうかで判定されることになる。その点,基準日を翌年3月31日とするならば,扶養親族の生年月日が平成3年4月2日から平成7年4月1日の間かどうかで判定することになるが,判定に係る比較作業量は同じである。したがって,年齢判定の基準日をその年の12月31日から翌年3月31日にしても,課徴税の効率は同じなのであり,効率的徴収の観点からは12月31日が基準日である必要はないのである。

 ちなみに唯一比較作業効率が向上するのは12月30日を基準日とした場合であり,この場合は月日を比較する必要がなく,誕生年が平成3年から平成6年の間であるかを判定するだけである。とはいえ,昨今の電子化により基準日の違いによる課徴税効率の違いはないのが実情である。

 ところで,租税法は個々の事情の変化を当然に予定しているのであるが,年齢という要素は事情の類ではなく,生年月日から導かれるものであり,生年月日は人種や性別のように生まれながらに定められた属性のひとつである。であるとすれば,租税法は同じ属性として扱うことや違う属性として扱うことに配慮が必要であるというべきである。そして,教育課程の子の扶養については,年の変わりではなく年度の変わりで性質が変化することが明らかであり,年齢判定の基準日を3月31日にすることで効率的徴収を阻害することもないのであるから,教育課程の子の扶養親族の判定にあたっては,その子が中学生以下か高校生か大学生かで扶養控除額を変更する制度としている以上,基準日を3月31日とするのが合理的であり,それ以外は合理性を欠くというべきである。

 

 C.類似事例における名古屋高裁の判断について

 類似の裁判例について検討する。

 所得税法の扶養控除の適用において,早生まれの子の扶養者は, 遅生まれの子の扶養者と比較して,扶養控除の権利 を1年分行使できないという不公平な扱いを受けるため,早生まれの子の扶養者は,その子が遅滞なく各教育課程を終え,かつ,各最終学年(卒業年の前年)における12月31日までに特定扶養親族の要件を満たす場合には,その翌年にこれまで短縮されてきた1年分の扶養控除の権利を行使できると解すべきであるとの納税者の主張が,所得税法85条3項(扶養親族等の判定の時期)は「特定扶養親族に該当するかどうかの判定は,その年の12月31日の現況による」と定めており, ここにいう「その年の12月31日」を遅滞なく各教育課程を終えた早生まれの子については「卒業の前年12月31日」をいうものと解することはできないとして排斥された事例があった(平成19年(行ウ)第49号 名古屋地方裁判所平成20年3月5日判決および平成20年(行コ)第16号名古屋高等裁判所平成20年7月9日判決)。(甲9号証,甲10号証)

 この事例では,早生まれの子の場合には社会人になった年に特定扶養親族として認めよという扶養の実態にそぐわない請求であるほか,原告は憲法26条,憲法30条に反すると主張しており,判決は昭和60年大法廷判決に照らしたものではないことに加え,平成22年度の改正前の事案であるので本件とは事情が異なる裁判例である。

 

 D.国会での議論について

 早生まれの子を扶養する納税者が不利益を受けていることは国会でも議論されていることから,議論の内容を検討する。

 平成22年3月1日の財務金融委員会議録(甲11号証)によると,「早生まれの高校生だけが,子ども手当も扶養控除も受けることができない。同じ高校1年生でこういう差別が発生する理由を説明していただきたい。」という佐々木委員の質問に対し古谷政府参考人は次のように答えている。

「平成23年4月以降に高校1年生となる早生まれのお子さんにつきましては1年生になった時点で15歳ということでございますのでその年に年少扶養控除が適用されずに,一方で子ども手当は3月までに支給が終わるということで,4月以降,子ども手当の支給がないということではございます」と不公平であることを認めている。しかし「一方で,高校に入学されますと,高校の実質無償化による経済的利益を受けることも考慮いたしますと,必ずしも高校に入学された時に(略)急に負担がふえるということではないと思われます。」と説明しているが,就学支援金による経済的利益は遅生まれの子も受けるのであり,それによって差別が解消されるものではない。また「22年の子ども手当がそのまま続く前提で考えるとそういったことになるということで,23年以降の子ども手当の問題については今後検討されることになっておると承知しています。」と答弁をしているが,10年以上たった現在も差別は解消されていない。

 令和3年3月24日の文部科学委員会議録(甲12号証)では高校実質無償化の所得制限について早生まれの子どもが不利益になっている点について質疑がされ,萩生田国務大臣は「おっしゃるとおりで,1月から3月に生まれたお子さんだけが,結果的に,所得制限の枠にあったとしてもその対象にならないというのは,これはもう極めて気の毒な話であります」と答弁している。この点について文部科学省は令和4年度から,早生まれの生徒の場合,扶養控除と同額の33万円を課税所得から差し引いた金額を基に支給可否を決定する方針(甲13号証)だというが,子ども手当制度と高等学校等就学支援金制度の創設に伴って改正された地方税法上の扶養控除の見直しに歪みがあるのであって,本来はその歪みを正すべきであり,税法上,遅生まれの子と早生まれの子の扶養控除を平等に扱っていれば,高等学校等就学支援金制度側で課税所得を補正するというような本末転倒の方法をとる必要はない。

 また平成22年度の改正以前の答弁ではあるが,平成11年2月17日の大蔵委員会議録(甲14号証)になぜ12月31日に特定扶養親族の判定を行うのかについて尾原政府委員から答弁がされている。会議録によると「この特定扶養親族の判定をどこでやるかといいますと,(略),年齢の判定はその年の12月31日にやります。なぜ12月31日かといいますと,年分課税でございますから,扶養親族かどうかの判定は1年のところでやらなきゃならぬ等々のことからそうなっているわけでございます。」と説明されている。しかしながら,扶養親族かどうかの判定を12月31日時点で行うことの説明をしているだけで,その扶養親族が特定扶養親族に該当するかの判定を12月31日時点の年齢で行う根拠を説明していない。当時の特定扶養親族が高校入学から大学卒業までを念頭にしていること(甲6号証)を踏まえれば,結局のところ,年分課税制度だからといって,12月31日時点の年齢で特定扶養親族かどうかの判定をすることに合理的な理由はなく,ただ俗信的というほかない。

 

(8)本件区別の解消について

 本件区別は,憲法14条1項に反した差別であるため,解消する必要があるが,扶養控除を改正した趣旨を踏まえると,所得税法85条3項の「その年12月31日の現況による」として扶養控除対象を判定する規定のうち,1月1日から3月31日の間に15歳に達した者を扶養控除対象親族としない部分と,1月1日から3月31日の間に18歳に達した者を特定扶養親族としない部分が違憲違法であるため,1月1日から3月31日の間に15歳に達した者を扶養控除対象親族とし,1月1日から3月31日の間に18歳に達した者を特定扶養親族として扱うことで課税額を算定するという方法によるべきである。なお,いわゆる国籍法違憲判決(最高裁平成19年(行ツ)第164号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁)を踏まえると,本件規定が憲法14条1項に違反するからといって規定全体を無効とするのではなく,区別を生じさせている規定の部分のみが無効になると解されるべきであり,また,いわゆる再婚禁止期間違憲判決(最高裁平成25年(オ)1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁)を踏まえると,条文を修正して解釈することによって憲法14条1項に違反する部分を取り除くことができると解される。そうすると,親族が扶養親族かどうかの判定は,その年の12月31日の現況によるものとしても,その親族が16歳未満の扶養親族に該当するか,16歳から18歳の控除対象扶養親族に該当するか,19歳から22歳の特定扶養親族に該当するかについては,その年の4月1日から翌年の3月31日の間に達する年齢で判定すると解釈すべきである。

 そうであれば,原告の課税額は,更正の請求の通りとなり,平成29年分は課税額マイナス7万7596円,令和2年分は課税額マイナス5万1050円となる(訴訟物の価額である12万8646円は,還付額である7万7596円と5万1050円を合わせた額である)。

 なお,所得税法は過誤納金を還付する制度を備えているため,行政事件訴訟法第31条を準用する必要はない。

 

5 結語

 よって,請求には理由があるので,川崎北税務署長が令和3年12月24日付けで原告にした平成29年分と令和2年分の所得税及び復興特別所得税の更正の請求に対してその更正をすべき理由がない旨の各通知処分をいずれも取り消すとの判決を求める。

 

                           以上