早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

対地方税 原告第1準備書面

地方税(住民税)の原告の反論です。

 

令和4年(行ウ)第9号 課税処分取消請求事件

原   告 sakurahappy

被   告 川崎市

処分行政庁 川崎市

 

原告第1準備書面

 

                         令和4年7月25日

 

横浜地方裁判所第1民事部合議B係 御中

 

              原        告   s a k u r a h a p p y

 

目次

第1 被告の主張に対する認否

第2 原告の反論

1 年齢と学年の関係について

2 平成22年度税制改正地方税法の扶養控除の見直しがされた際の立法目的について

3 平成22年度税制改正での扶養控除に関する改正について

4 所得税法上の規定と暦年課税方式との整合性について

5 学年の始まりと扶養親族区分の判定について

6 平成20年名古屋高裁判決の解釈について

7 本件区別の解消方法について

 

第1 被告の主張に対する認否

 1 「1 法令の定め」について

認める。

 2 「2 地方税法が特定扶養親族該当性の判断基準日を前年の12月31としたことは,その立法目的は正当であって,また,立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえないこと」について

(1)「(1)立法目的が正当であること」について

立法目的が正当であるという結論自体については認めるがその余は争う。理由は後述する。

(2)「(2)」について

否認ないし争う。理由は後述する。

 3 「3 本件処分は適法であり,原告の請求は棄却されるべきであること」について

否認ないし争う。理由は後述する。

 

第2 原告の反論

1 年齢と学年の関係について

 地方税法は年齢によって扶養親族の判定を行うこととしているが,被告は「高校1年生,大学1年生が原告の主張する年齢とは限らない」(被告第1準備書面5頁5行目),「原告の主張は『同じ学年に属する』という一面のみを過大にとらえるものであって,適切ではない」(被告第1準備書面5頁18行目)と主張する。また「原告の主張によれば,必然的に控除対象扶養親族及び特定扶養親族の認定に関して,現に同一学年に属するか否かを判定する必要が生じる」(被告第1準備書面33頁12行目)と主張するが,これに対し以下に反論する。

年齢という客観的な要件に基づいて控除対象扶養親族や特定扶養親族の対象を判断する地方税法の規定は合理性があり,16歳から18歳の控除対象扶養親族と特定扶養親族は高校入学から大学卒業までを念頭に設置されたものなので,標準的に高校生に相当すると考えられる16歳から18歳までの扶養親族を控除対象扶養親族とし,標準的に大学生に相当する19歳から22歳までの扶養親族を特定扶養親族とすることは合理的である。ゆえに浪人や留年などし,例えば19歳で高校3年生の場合もあるが,このような個人の事情があっても19歳という年齢から客観的に特定扶養親族と判断すべきである。

原告の「同じ学年に属する子は同じ扱いにすべきである」との訴えは,正確には「1年を4月2日から翌年の4月1日とした場合に誕生日が同じ年にある子は同じ扱いにすべきである」ということであり,換言すれば,「3月31日を基準日とした場合に同じ年齢の子は同じ扱いにすべきである」ということである。したがって16歳から18歳までの控除対象扶養親族及び19歳から22歳までの特定扶養親族の認定については3月31日を基準日とした年齢に基づいて行うべきであるというだけで,確認のための書類の提出は不要であり,租税の効率的徴収を阻害することはないというべきである。

2 平成22年度税制改正地方税法の扶養控除の見直しがされた際の立法目的について

被告は「地方税法における(平成22年度税制改正の)扶養控除の見直しは,所得税における見直しとは趣旨・目的は異なっているものである(被告第1準備書面29頁9行目)」と主張しているが,これに対し以下に反論する。

ある裁判例をあげるが,昭和56年の税制改正において財源面での制約を考慮しつつ,必要な範囲で寡婦に認められている措置を中低所得の父子世帯の父親にも及ぼすという観点から所得税法地方税法寡夫控除の制度が創設されたが,ひとり親世帯の性別によって扱いが異なることの違憲性が争われた裁判がある。所得税に対する判決は,令和元年(行ウ)第236号東京地方裁判所令和3年5月27日判決,令和3年(行コ)第166号東京高等裁判所令和4年1月12日判決,地方税に対する判決は,平成29年(行ウ)第51号横浜地方裁判所平成30年7月11日判決,平成30年(行コ)第250号東京高等裁判所令和元年10月9日判決,令和2年(行ツ)第56号最高裁判所令和2年10月12日判決である。

 寡夫控除の制度は昭和56年の税制改正でまず所得税法に設置され,地方税法については所得税との税体系上の整合性をとり翌昭和57年度の個人住民税から設置されている。上記裁判では立法目的の正当性と立法手段の関連性が違憲判断材料となったが,裁判所は所得税法地方税法寡夫控除が「必要な範囲で寡婦に認められている措置を中低所得の父子世帯の父親にも及ぼす」という同じ立法目的で設置されたものと認め,地方税法所得税の税体系上の整合性をとることについては立法目的として扱っていない。

 なお,地方税法に対する訴訟である平成30年(行コ)第250号の第2回口頭弁論では,裁判長が控訴人と被控訴人に立法事実の調査を命じているが,被控訴人の訴訟代理人である伊藤義文弁護士(当訴訟の被告代理人)がその対象を確認したところ,裁判長は所得税法上の寡夫控除創設の立法事実でよい旨を回答している。このように裁判所は,立法経緯や立法趣旨について所得税法地方税法で区別せずに審理しているのである。

もっとも,平成22年度税制改正の概要(甲5)によっても扶養控除の見直しについての立法目的が所得税法地方税法が同一であることが明らかであるが,上記裁判例を踏まえれば「地方税法における扶養控除の見直しは,所得税における見直しとは趣旨・目的は異なっているものである」との被告の主張は当を得ないというべきである。

そうすると本件が問題とする立法目的は,被告の主張する「地方税法における個人住民税は『地域社会の会費』という基本的性格を有することから, 従来から控除の項目及び額については所得税の範囲内としており,所得税との税体系上の整合性や地方公共団体の税源充実の観点,国民に与える影響をも踏まえ, 個人住民税においても扶養控除が見直されたもの」ではなく,「『所得控除から手当へ』等の観点から,子ども手当の創設とあいまって,年少扶養親族に対する扶養控除を廃止することと,高校の実質無償化に伴い,16~18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分を廃止すること」である。

3 平成22年度税制改正での扶養控除に関する改正について

被告は「地方税法34条8項及び314条の2第8項が前年の12月31日の現況によると定めていることは, 扶養控除の見直しによって変更されたものではない(被告第1準備書面28頁11行目)」とし,平成22年度税制改正での扶養控除の見直しの立法目的との関連性を否定しているが,これに対し以下に反論する。

平成22年度の税制改正では,地方税法34条8項及び314条の2第8項(改正当時は8項ではなく9項)に,34条1項11及び314条の2第1項11の修正にともなって新たに控除対象扶養親族についての判定も前年の12月31日の現況によるとの規定を追加している。(甲14号証)

この改正では,前述の立法目的を達成するための手段として前年12月31日時点での年齢が16歳未満の扶養親族を控除対象外にし,16歳以上19歳未満の扶養親族を特定扶養親族から控除対象扶養親族にしており,そのために34条1項11及び314条の2第1項11に控除対象扶養親族の定義の追加と特定扶養親族の定義の変更を行い,34条8項及び314条の2第8項は特定扶養親族も含め年齢判定の基準日をこれまで通り前年の12月31日にしたまま控除対象扶養親族を加えている。

ところが立法目的を達成するには16歳から18歳の控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢判定基準日の変更が必要であるところ,34条1項11と8項及び314条の2第1項11と第8項の一部不作為を含めた改正によって,前年12月31日時点で扶養している親族のうち,前年1月1日から3月31日に15歳になった親族は既に児童手当(子ども手当)が支給されてないにもかかわらず控除対象外の扶養親族とされ,前年1月1日から3月31日に18歳になった親族は既に高等学校就学支援金の対象外であるにもかかわらず特定扶養親族ではなく控除対象扶養親族とされ,立法目的との関係で一部合理的関連性のない部分が生じることとなったのである。

以上のように,34条1項11と8項及び314条の2第1項11と第8項の一部不作為を含めた改正は,扶養控除の見直し(立法目的)との関連でその手段の合理的関連性の有無を判断されるべきである。

4 所得税法上の規定と暦年課税方式との整合性について

被告は「所得税法が暦年課税方式をとっていることから,その期間に扶養している親族がある場合に所得から一定の金額を控除するとしたものであり,それが扶養控除の制度であるから, 暦年課税方式との関係で見れば,扶養親族の有無の判定は当該年の末日である12月31日の現況に基づいて行うというのが整合的である。」(被告第1準備書面29頁20行目)と主張しているが,これに対し以下に反論する。

暦年課税方式との関係で見れば,扶養親族の有無の判定は当該年の末日である12月31日の時点で扶養している親族とすることは合理的であるといえる。しかし暦年課税方式はその親族の年齢の判定について必ずしも12月31日にすることを要請するものではないし,学校教育法施行規則59条や児童手当法,高等学校等就学支援金法との整合性確保の観点からすれば12月31日が基準日であることは整合性を欠き不合理なのであって,年齢判定の基準日は3月31日が整合的というべきである。結局のところ,年齢判定の基準日を児童手当法や高等学校就学支援金法と整合させることは不合理な差別を生じさせないためであり、すなわち憲法14条1項に要請されるものであるが,扶養親族かどうかの判定日である12月31日と年齢判定の基準日を整合させることは「やらなきゃならぬ等々のことからそうなっている」(甲13号証)というように俗信的なものでしかないのである。

なお,所得税法上の同様の規定についても原告は訴訟を提起しており,現在東京地方裁判所に令和4年(行ウ)第193号同197号として係属中である。

5 学年の始まりと扶養親族区分の判定について

学校教育法施行規則59条は「小学校の学年は,4月1日に始まり,翌年3月31日に終わる」とし,幼稚園や中学校や高等学校等についても59条を準用している。同法が公布施行されたのは昭和23年4月1日であるが,学年の始まりが4月1日に定着したのは明治時代である。

被告は「学校教育法施行規則59条を改正することなどによって,原告の指摘する取扱いの差異は解消されることからすれば,地方税法の規定が著しく不合理であることが明らかとまではいえない」(被告第1準備書面30頁17行目)と主張しているが,子ども手当制度の創設も高等学校無償化制度も学年の始まりを社会的及び法的に定着した4月1日を前提としており,これらの制度の創設に伴って行われた平成22年度の税制改正は,当然4月1日を学年の始まりであることを前提として行われるべきであるから,被告の主張は当を得ないというべきである。

また被告は,本件の判断の枠組みが昭和60年大法廷判決であることを認めているが,被告の主張は不合理な差別の存在を認めるに過ぎず,昭和60年大法廷判決の判断枠組みに照らした主張とはいえないというべきである。

 さらに被告は「扶養親族の判定を,教育課程にあるか否かで分け,さらに,その基準日を教育課程にある場合にのみ前年の12月31日ではなく,3月31日とすることは,課税要件を複雑化し,租税の効率的徴収を阻害するというべきである。」(被告第1準備書面9頁13行目)と主張する。しかしながら,教育課程にあるかの判定が不要であることはもちろんのこと,基準日を変更しても課税要件は後述するように複雑にはなることはなく,扶養親族の生年月日だけで判定できるのである。また学年の始まりが4月1日であることは法的に規定され社会的にも定着しているので,むしろ12月31日時点の年齢で判定するほうが納税者の混乱を招く可能性を否定できないし,現に疑問や不満の声は多く上がっている。加えてコンピューター技術の進んだ現在における大部分の運用では,コンピューターシステムが生年月日から瞬時に扶養親族の区分を判定する仕組みになっており,基準日が変更となっても徴収効率はほとんど変わらないといえるし,この判定にかかる負荷は非常に小さいことも踏まえるべきである。

なお,扶養控除区分が扶養親族の生年月日だけで判定できることに関しては、以下に具体例を挙げて説明する。令和4年度分の住民税を算出するにあたり,前年12月31日時点で扶養している親族がいる場合,現行法では,生年月日が平成18年1月2日から令和3年12月31日の間であれば年少扶養親族,平成15年1月2日から平成18年1月1日の間であれば控除対象扶養親族,平成11年1月2日から平成15年1月1日の間であれば特定扶養親族,昭和27年1月2日から平成11年1月1日の間であれば控除対象扶養親族,昭和27年1月1日以前であれば老人扶養親族と判定しているが,これを立法目的と合理的関連性のある規定にするならば,生年月日が平成18年4月2日から令和3年12月31日の間であれば年少扶養親族,平成15年4月2日から平成18年4月1日の間であれば控除対象扶養親族,平成11年4月2日から平成15年4月1日の間であれば特定扶養親族,昭和27年1月2日から平成11年4月1日の間であれば控除対象扶養親族,昭和27年1月1日以前であれば老人扶養親族と判定すればよいのである。(下表参照)

以上のように基準日を3月31日にしても生年月日のみから容易に扶養親族区分を判定でき,効率的徴収を阻害するということはないのであって,児童手当法や高等学校無償化制度との整合性確保を寛怠にしてまで12月31日にする理由はないのであるから,被告の主張は根拠を欠くというべきである。

6 平成20年名古屋高裁判決の解釈について

被告は,平成20年名古屋高裁判決を引用し「そもそも早生まれの子の方が遅生まれの子に比べて扶養期間が短いのであり,また,特定扶養親族としての扶養控除に関しては,毎年の12月31日の判断基準日において16歳以上23歳未満に該当する年数(回数)は,その誕生日がいつであっても同じであり,早生まれの子についても変わりないのである」との判示内容が本件にも当てはまると主張しているが,これに対し以下に反論する。

まず平成20年名古屋高裁判決は,特定扶養親族の回数に焦点が当てられているが,本件では子ども手当制度の創設と高等学校無償化制度の創設,そしてそれに伴って改正された所得税法地方税法の扶養控除の扱いによって早生まれの子を扶養する納税者は総合的に不利益を被ることを原告は指摘している。

この点,原告の三男は平成14年2月生まれであるが,例として遅生まれで同学年に相当する平成13年8月生まれの子を扶養する納税者との比較を以下に具体的に示し,理不尽な実態を明らかにする。なお比較の前提として所得水準は令和2年の原告と同等とし,特別復興所得税は無視し,児童手当は月1万円とした。

まず,平成13年8月生まれの子が留年や浪人など遅滞なく令和6年3月に4年制大学を卒業した場合,養育年数は22年8ヵ月であり,児童手当(子ども手当を含む。以下同じ)の受給回数が188回,控除対象扶養親族となるのが13回,特定扶養親族となるのが4回となる。これに対して平成14年2月生まれの子が同じように令和6年3月に4年制大学を卒業した場合,養育年数は22年2か月であり,児童手当の受給回数が182回,控除対象扶養親族となるのが12回,特定扶養親族となるのが3回となる。確かに早生まれの子の養育期間が6ヵ月短いが,児童手当が6万円分少なく,所得税額が20万2000円分多く,住民税額が7万8000円分多いので不利益の合計は34万円である。

次に遅生まれの子は同じように令和6年3月に卒業した場合と,早生まれの子が1年浪人して令和7年3月に4年制大学を卒業した場合を比較する。遅生まれの子については前述した通りであるが,早生まれの子の養育期間は23年2か月であり,児童手当の受給回数は182回,控除対象扶養親族となるのが12回,特定扶養親族となるのが4回となる。そうすると早生まれの子の養育期間が6ヵ月長くなるが,児童手当が6万円分少なく,所得税額が7万6000円分多く,住民税額が3万3000円分多いので,不利益の合計は16万9000円である。

更に早生まれの子が2年浪人して令和8年3月に卒業した場合を比較する。そうすると早生まれの子の養育期間は24年2か月であり,児童手当の受給回数は182回,控除対象扶養親族となるのが13回,特定扶養親族となるのが4回となる。そうすると控除対象扶養親族と特定扶養親族に該当する回数は同じになるが,それでも児童手当分の不利益は解消されず,遅生まれの子に比べて養育期間が長くても6万円の不利益を被ることになる。(甲15号証)

このように,児童手当が中学3年の3月までという仕組みや,平成22年度税制改正が早生まれの子の不利益を考慮していない事から,早生まれの子は遅生まれの子に比べて2学年分長く養育したとしても不利益は解消されないのが事実であって「(早生まれの子が冷遇される理由は)そもそも早生まれの子の方が遅生まれの子に比べて扶養期間が短い」からとする論理は成立しないのである。また,控除対象扶養親族としての扶養控除に関しては,毎年の12月31日の判断基準日において控除対象扶養親族に該当する年数(回数)は,その誕生日によって変わってしまうのであり,早生まれの子は回数が少なくなるのである。

以上から,平成20年名古屋高裁判決の判示内容は,本件に当てはめることができないというべきである。

7 本件区別の解消方法について

被告は「地方税法34条8項及び314条の2第8項において, 『前年の12月31日の現況によるもの』と規定されている以上, 『前年の4月1日から当年の3月31日の間に達する年齢で判定する』とすることは, 法律の文言の解釈を超えるものであって,課税要件法定主義に反し,ひいては憲法30条及び84条に違反するものである。」(被告第1準備書面11頁4行目)と主張しているが,これに対し以下に反論する。

憲法98条は「憲法は国の最高法規であって,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない」と定めており,本件が問題とする立法目的と合理的関連性のない部分は,量的一部違憲としてその効力を有しないというべきである。また,再婚禁止期間違憲判決(最高裁平成25年(オ)1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁)を踏まえれば,違憲部分のみを無効と解釈し,違憲部分の規定に基づいた課税処分を取り消して原告を救済するべきであって,法律の文言の解釈を超えるものとの指摘は当たらない。そして違憲部分を取り除いて解釈した課税要件に従って課税されることになるのであるから課税要件法定主義にも反しないし,憲法30条及び84条に違反するとの指摘も当たらないというべきである。

 

以上