令和6年(行ノ)第97号
行政上告受理申立て事件
申立人 sakurahappy
相手方 国
上記令和6年(行ノ)第97号行政上告受理申立て事件について、申立人は次のとおり上告受理申立て理由書を提出する。
最高裁判所 御中
上 告 受 理 申 立 て 理 由 書
令和6年8月2日
申立人 sakurahappy 印
当理由書の要旨
本件は平成22年税制改正における扶養控除と特定扶養控除の一部廃止につき憲法14条1項適合性を問うものである。この改正では子ども手当制度の創設と高校無償化制度の創設に伴なって扶養控除と特定扶養控除の一部が廃止されたが、扶養控除の廃止等の対象範囲と子ども手当等の支給対象範囲に差異があることにより、早生まれの子を扶養する納税者に不利益が生じることとなった点について、申立人は扶養控除等の廃止対象の年齢規定が一部憲法14条1項に違反していると主張したが、原判決では違憲ではないと判断している。
平成22年改正の扶養控除等の見直しには明示された立法目的がないため、立法目的をどのように解釈するかが重要となるが、申立人は「扶養控除から子ども手当への切替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切替えを実現するための所得税法側の措置として、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じること」であると主張したが、原判決では「高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税の所得再分配機能の回復等を図る事にある」と解釈し、扶養控除又は特定扶養控除から子ども手当又は就学支援金への切替えまで目的とするものではないと説示した。
本理由書では、立法目的の解釈を含む原判決には、昭和60年大法廷判決および令和2年第1小法廷判決に相反する判断がされていることを指摘する。
第1 本件事案の概要と原判決の判断
1 本件事案の概要
平成22年度税制改正において、子ども手当の創設に伴なって16歳未満の扶養控除が、高校無償化制度の創設に伴なって19歳未満の特定扶養控除が廃止になった。その際、早生まれの子を扶養している納税者について、子が16歳の時に子ども手当が支給されないにもかかわらず扶養控除もなく、子が19歳の時に就学支援金が支給されないにもかかわらず特定扶養控除がない。
これは手当等の支給対象と扶養控除等の廃止対象が一致していないためである。子ども手当の支給要件児童は15歳になってから次の3月31日までであるのに対し、扶養控除が廃止となる子はその年の12月31日時点で15歳以下であるから、期間のずれによって早生まれの子には扶養控除なく子ども手当もない期間が存在するのである。なお就学支援金と特定扶養控除の関係も同様である。
そうすると「控除から手当への転換」として行われた扶養控除等の廃止は、その範囲に過剰な廃止があり、その部分は改正の趣旨・目的に反している。それは改正の目的と関連性のない手段であるから、所得税法2条1項34号の2に定められた控除対象扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢15歳の者」が含まれていない部分と、同法2条1項34号の3に定められた特定扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢18歳の者」が含まれていない部分は憲法14条1項に反していると申立人は主張する。
2 原判決の判断
しかし原判決では平成22年改正の立法目的を、高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税の所得再分配機能の回復等を図ることにあると解釈し、
それ以上に、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではないとし、控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢規定は、所得税の所得再分配機能の向上に資するものといえるから、立法目的との関連で著しく不合理とはいえないとして排斥した。
第2 上告受理申立て理由1
原判決では「租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、憲法14条1項の規定に違反するものということはできない」とした昭和60年大法廷判決(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁)を引用し判断基準としている。ところが原判決は、以下で述べるとおり、この判断の枠組みとは異なる判断をしていることから、民事訴訟法318条1項の上告受理申立て理由があり、破棄を免れない。
1 年齢規定の立法目的がないこと
平成22年改正で法的取扱いが区別されるのは、所得税法2条1項34号の2に定められた控除対象扶養親族の年齢規定と同法2条1項34号の3に定められた特定扶養親族の年齢規定によるものである。となると扶養控除対象扶養親族の年齢を16歳以上に規定したことと特定扶養親族の年齢を19歳以上に変更したことの目的を特定し、目的審査と手段審査をしなければならない。ところが原判決は、年齢規定の目的を特定せず、本件年齢規定は、所得税の所得再分配機能の向上に資するものであるから、平成22年改正の立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえない旨を説示している。
2 原判決の立法目的の解釈とその誤り
原判決における立法目的の解釈は、所得税の所得再分配機能の向上だけを改正の目的とし、取扱いの区別を規定する要件の設置目的については無いものとしている。そして年齢規定に基づき扶養控除が適用されれば所得税の所得再分配機能が向上することになるから立法目的の達成に資する旨を説示している。
しかし昭和60年大法廷判決は「憲法14条1項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら上記規定に違反するものではないと解される。」とも判示していることを踏まえると、区別が合理性を有するかで判断するのであるから、区別の目的自体を審査すべきである。
原判決の解釈では、所得税の所得再分配機能の向上につながればどのような区別・差別も目的達成に資するものとなる。具体例をあげると、扶養親族を性別のような属性で区別し、一方の性別のみの扶養控除を廃するという手段が採用されたとしても所得再分配機能は向上するから、この手段は著しく不合理とはいえないということになる。つまり、原判決の解釈では、どのような差別も正当化できてしまうということである。
しかしながら法的取扱いを区別する手段には必ず目的が存在するので、上記の例であれば、性別で区別した目的が審査されるべきであることはいうまでもなく、その審査をしないのは違憲立法審査権の放棄にほかならない。勿論、昭和60年大法廷判決でも、租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであるかを判断するとしているのであるから、原判決の解釈は昭和60年大法廷判決に明らかに相反するというべきである。
そうすると、もし原判決の解釈のとおり、控除対象扶養親族の年齢を16歳以上として、16歳未満の親族と16歳以上の親族を区別した目的が存在しないのであれば、正当な目的のない区別ということになるから違憲であるし、立法経緯からすると子ども手当が支給されない扶養親族の扶養控除を残すために年齢規定を定めているのだから、子ども手当が支給されないにもかかわらず扶養控除が廃された部分は目的と手段の間に関連性がなく違憲というべきである。
なお、付言すると年齢規定が所得再分配機能の向上に資するというが、資するかどうかは年齢規定の有無で判定ができるのであり、年齢規定があろうがなかろうが扶養控除等は廃止することで所得再分配機能は向上する。そうすると、年齢規定が所得再分配機能の向上に資するということはできない。であれば、この観点からも年齢規定は立法目的と関連性がないというべきである。
第3 上告受理申立て理由2
本件は所得税法上の取扱いの区別の違憲性を問うものであるが、16歳以上を控除対象扶養親族、19歳以上23歳未満を特定扶養親族と改正したのは、地方税法における個人住民税も同様である。申立人は個人住民税について同様の訴訟を提起しており令和6年8月2日時点で横浜地方裁判所第1民事部に係属中である。(令和4年(行ウ)第9号)
所得税も個人住民税も扶養控除等の年齢規定によって早生まれの子を扶養している場合に不利益が発生していることは同じである。そうすると共通する年齢規定を採用しているのであるから共通した目的があることになる。個人住民税の規定は所得税法と税体系上の整合性をとる方針であるという側面もあるが、共通した立法手段には共通した立法目的があり、年齢規定はまさに共通した立法手段にあたるので、この立法手段を採用した立法目的を審査せず、それぞれ別の立法目的だけがあるものと解釈して審査すれば、同じ規定にもかかわらず一方が違憲、一方が合憲というような事態も生じてしまう。
この点、所得税も個人住民税も寡夫控除の所得要件の憲法適合性が争われた裁判(所得税側:令和4年1月12日東京高裁判決 令和3年(行コ)166号 令和3年5月27日東京地裁判決 令和元年(行)236号、個人住民税側:令和2年10月12日最高裁第1小法廷判決 令和2年(行ツ)56号(以下、「令和2年第1小法廷判決」という) 令和元年10月9日東京高裁判決 平成30年(行コ)250号 平成30年7月11日横浜地裁判決 平成29年(行ウ)51号)では共通の立法目的を採用して整合性を合わせている。
本件では平成22年改正の目的を所得税の所得再分配機能の向上としているが、累進課税ではない個人住民税においては所得税の所得再分配機能はないので、他の目的があるものと解釈せざるを得ないことになり、原判決の解釈では前述したように同じ法的取扱いの区別をもたらす年齢規定が所得税と個人住民税で目的が違うことになるから、前述したように違憲か合憲かの判断が異なる可能性が生じてしまう。
実際のところ資料「地方税法等の改正(698頁)」によれば、「扶養控除をどのように見直すかという点について、所得税・個人住民税共通の問題として、一般扶養控除のうち、年少扶養控除の対象者については、子ども手当の支給対象者と重なるため、民主党マニフェストの内容を踏まえると、負担がネットで増加することはありませんが、成年扶養控除の対象者については、子ども手当の支給対象者ではないため負担が増加することから、成年扶養控除については存続すべきであるという意見」が採用されたのが事実である。そうすると、所得税も個人住民税も子ども手当の支給要件児童ではない扶養親族の控除を維持する、すなわち子ども手当支給要件児童の扶養控除を廃するように税法側の措置をすることが目的であることが明らかで、中学生以下の子育て世帯に対する支援の方法を所得控除から子ども手当の支給に変えることであり、そしてまた特定扶養親族の年齢規定の見直しも高校無償化に伴うものであるから、これもまた高校生の子育て世帯の支援の方法を所得控除から就学支援金の支給に変えることである。
とすれば、所得税も個人住民税も扶養控除の見直しにおける控除対象扶養親族の年齢規定と特定扶養親族の年齢規定を定めた手段には、共通の目的があるのであって、これを覆い隠して立法目的を解釈することはできないというべきであり、寡夫控除に関する判例と異なる判断をしていることから、民事訴訟法318条1項の上告受理申立て理由があり、破棄を免れない。
第4 結語
以上のとおり、原判決の判断は、立法目的の解釈を誤り昭和60年大法廷判決と令和2年第1小法廷判決の判例およびその判例が支持する下級審の裁判例に相反するものであるから、本件申立てを受理した上で、原判決を破棄し、更に相当の裁判を求める。
以上