早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

対所得税 上告理由書

 

 

 

令和6年(行サ)第89号 

各更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求上告事件

上告人 sakurahappy

被上告人 国

 

上記令和6年(行サ)第89号各更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求上告事件について、上告人は次のとおり上告理由書を提出する。

 

最高裁判所 御中

 

上  告  理  由  書

 

令和6年8月2日              

 

上告人 sakurahappy         印

 

当理由書の要旨

 本件は平成22年税制改正における扶養控除と特定扶養控除の一部廃止につき憲法14条1項適合性を問うものである。この改正では子ども手当制度の創設と高校無償化制度の創設に伴なって扶養控除と特定扶養控除の一部が廃止されたが、扶養控除の廃止等の対象範囲と子ども手当等の支給対象範囲に差異があることにより、早生まれの子を扶養する納税者に不利益が生じることとなった点について、上告人は扶養控除等の廃止対象の年齢規定が一部憲法14条1項に違反していると主張したが、原判決では違憲ではないと判断している。

 平成22年改正の扶養控除等の見直しには明示された立法目的がないため、立法目的をどのように解釈するかが重要となるが、上告人は「扶養控除から子ども手当への切替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切替えを実現するための所得税法側の措置として、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じること」であると主張したが、原判決では「高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図る事にある」と解釈し、扶養控除又は特定扶養控除から子ども手当又は就学支援金への切替えまで目的とするものではないと説示した。

しかしながら原判決の立法目的の解釈は立法経緯を無視したもので相当とはいえず、また仮にその解釈が正しいとした場合は、逆に正当な立法目的がないにもかかわらず手段が講じられたことになるので、その旨を指摘する。

第1 本件事案の概要と原判決の判断

1 本件事案の概要

 平成22年度税制改正において、子ども手当の創設に伴なって16歳未満の扶養控除が、高校無償化制度の創設に伴なって19歳未満の特定扶養控除が廃止になった。その際、早生まれの子を扶養している納税者について、子が16歳の時に子ども手当が支給されないにもかかわらず扶養控除もなく、子が19歳の時に就学支援金が支給されないにもかかわらず特定扶養控除がない。

 これは手当等の支給対象と扶養控除等の廃止対象が一致していないためである。子ども手当の支給要件児童は15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間であるのに対し、扶養控除が廃止となる子はその年の12月31日時点で15歳以下であるから、期間のずれによって早生まれの子には扶養控除なく子ども手当もない期間が生じているのである。なお就学支援金と特定扶養控除の関係も同様である。

2 上告人の原審での主張

 そうすると「控除から手当への転換」として行われた扶養控除等の廃止は、その範囲に過剰な廃止があり、その部分は改正の趣旨・目的に反している。それは改正の目的と関連性のない手段であるから、所得税法2条1項34号の2に定められた控除対象扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢15歳の者」が含まれていない部分と、同法2条1項34号の3に定められた特定扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢18歳の者」が含まれていない部分は憲法14条1項に反していると上告人は主張していた。

3 原判決の判断

 しかし原判決では、平成22年改正の立法目的を高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ることにあると解釈し、

それ以上に、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではないとし、控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢規定は、所得税所得再分配機能の向上に資するものといえるから、立法目的との関連で著しく不合理とはいえないとして排斥した。

第2 原判決の立法目的の解釈根拠と誤り

1 平成22年改正の経緯等(乙8)

扶養控除は、自己と生計を一にする一定の所得金額以下の親族(扶養親族)を有する場合に、その人数等に応じて納税者の担税力調整を行う趣旨で設けられているが、この扶養控除などの所得控除制度は、課税対象となる所得から一定額を差し引くものであり、この制度による税負担軽減額は、基本的には、この一定額に各々の納税者に適用されている限界税率を乗した額となる。

 したがって、累進税率を採用している所得税においては、高所得者に適用される限界税率が高いことから、所得控除制度による高所得者の負担軽減額は相対的に大きくなる一方で、低い税率の適用される低所得者の負担軽減は相対的に小さくなる。

 平成22年度税制改正大綱においては、このように高所得者に有利な面がある所得控除について、一律の税額控除に変えれば、限界税率の低い低所得者ほど所得比で見た負担軽減効果が大きな仕組みになり、あるいは、手当に変えれば、定額の給付であることから相対的に支援の必要な人に実質的に有利な支援を行うことができるとされ、所得税改革の方向性の一つとして、所得税所得再分配機能の回復等の観点から、所得控除から税額控除や手当等への転換を進めること(「控除から手当へ」)が挙げられた。

 平成22年改正においては、こうした所得税改革の方向性を踏まえ、支え合う社会づくりの第一歩として、子どもの養育を社会全体で支援するとの観点から、子ども手当の創設とあいまって、年少扶養親族に対する扶養控除が廃止されるとともに、公立高等学校の授業料の無償化等に伴い、16歳以上19歳未満の特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分が廃止された。

2 「控除から手当へ」の考え方とは

 「控除から手当へ」の考え方がどのようなものかについては平成22年税制改正大綱に示された所得税改革の方向性から解することができ、そこには「所得控除から税額控除・給付付き税額控除・手当へ」というようにいくつかの方法が述べられている。そして「所得控除から税額控除へ」「所得控除から給付付き税額控除へ」「所得控除から手当へ」は、いずれも支援の必要な人に実質的に有利な支援を行うように方法を変更することが趣旨であり、各方法については以下のとおりである。

 まず「所得控除から税額控除へ」の転換については、所得控除を一律の税額控除に変えれば、限界税率の低い低所得者ほど所得比で見た負担軽減効果が大きい仕組みになるというものである。この仕組みは支援の対象を変更せず個々の納税者に適用される所得控除を税額控除に置き換えることであって、仮にこの仕組みが採用された場合、まさに納税者の所得控除を税額控除に置き換えること、つまり実質的に引き換えということができる。

 次に「所得控除から給付付き税額控除へ」の転換については、税額控除を基本として、控除額が所得税額を上回る場合、控除しきれない額を現金で給付するといった制度である。この仕組みも支援の対象に変更はなく、所得が少なく所得控除の恩恵が受けられない者も含め個々の納税者に適用される所得控除を税額控除または定額給付に置き換えることであって、こちらもまた実質的に引き換えということができる。

 そして「所得控除から手当へ」の転換については給付付き税額控除の部分を税制とは別の制度で対応するもので、支援の方法を変更する考え方は同じであり、支援の対象を変更する趣旨はない。

 このように同列にあげられた上記3つの方法の考え方は基本的に同じで、支援対象を変更する趣旨はなく、支援方法の変更ということができる。

 なお、支援の対象を変更するということは、例えば、中高生への支援をやめて高校生への支援に集中させるというような場合、中学生に対する支援の必要性が失われたことから所得(資金)を高校生の保護者に移動して支援を強化するというような目的が必要となるので、もし立法するのであれば、当然正当な目的が必要となることはいうまでもない。

3 原判決が特定した立法目的

 原判決では上記の立法経緯から平成22年改正の立法目的を「高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ることにある」としている。

4 採用された立法手段

 手当への移行を進め、支援の必要性が大きい者に実質的な支援を行うために採用された立法手段は、12月31日時点で16歳未満の親族を扶養していた時に適用されていた扶養控除を廃止し、15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間の子を養育する者に子ども手当を支給することと、12月31日時点で16歳以上19歳未満の親族に適用されていた特定扶養親族の上乗せ控除を廃止し、高校生に就学支援金を支給することである。

5 立法手段の分析

 手当て等の支給と所得税や個人住民税の扶養控除等の見直しを合わせて実現した立法手段には「支援方法(法的取扱い)の変更」と「支援対象(区別)の変更」がされている。

 まず「支援方法の変更」であるが、それまで所得控除によって税を軽減するという方法であったものが、手当や支援金の支給という方法に変わっている。これはまさに立法目的を達するための手段であるということができる。

 一方「支援対象の変更」については、それまで12月31日時点で16歳未満の子を養育する者を対象に税の軽減で支援してきたものを、15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間の子を養育する者を対象に手当の支給で支援するように変更し、また12月31日時点で16歳以上19歳未満の子を養育する者を対象に税の軽減で支援してきたものを、高校生を対象に就学支援金を支給するように変更している。

 この変更によって12月31日時点で16歳未満の子には、中学生のほか、早生まれの高校1年生に相当する子が含まれるが、15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間の子は中学生のみであり、早生まれの高校1年生に相当する子は含まれないので、支援の対象から排除されることになった。

 このように支援の対象範囲が縮小されて、早生まれの高校1年生に相当する子を扶養する者は、扶養控除による支援も手当による支援も受けられなくなったが、この者らに対する支援は必要性を欠くというような立法事実はなく、この者らに対する支援を排除する正当な立法目的も存在しない。

6 年齢規定の立法目的

 控除対象扶養親族が16歳以上と定められた経緯は、資料「地方税法等の改正(698頁)」によると「扶養控除をどのように見直すかという点について、所得税・個人住民税共通の問題として、一般扶養控除のうち、年少扶養控除の対象者については、子ども手当の支給対象者と重なるため、民主党マニフェストの内容を踏まえると、負担がネットで増加することはありませんが、成年扶養控除の対象者については、子ども手当の支給対象者ではないため負担が増加することから、成年扶養控除については存続すべきであるという意見」が採用されたことからである。

 つまり、子ども手当が支給されない扶養親族の控除を残し、手当てが支給される扶養親族の控除を廃する趣旨で所得税法2条34の2の年齢規定は定められたということができる。

7 上告人の立法目的の解釈

 上記立法経緯を踏まえれば、立法目的がないにもかかわらず支援対象が変更されたと解するよりも、支援対象を変更する趣旨はなく、子ども手当の支給対象と整合性を合わせるため、控除対象扶養親族の年齢を規定したが、早生まれの子の年齢に対する配慮を欠いてしまったことから所得控除の廃止対象と子ども手当の支給対象に不一致が生じてしまい、結果的に支援対象に差異が生じてしまったものと解するのが合理的である。

 であるから、上告人は、控除対象扶養親族の年齢規定の設定目的は「支援方法を扶養控除から子ども手当に変更するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童と見なされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じること」であるとし、特定扶養親族の年齢規定の改正目的は、「支援方法を特定扶養控除から就学支援金に変更するための所得税法側の措置として就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養控除を控除対象外とするように講じること」と解し、控除対象扶養親族に1月2日から4月1日に出生したもので15歳の者が含まれていない部分と特定扶養親族に1月2日から4月1日出生したもので18歳の者が含まれていない部分は立法目的と関連性がないので違憲であると主張している。

8 原判決の立法目的の解釈の問題点

ところが原判決では、控除対象扶養親族の年齢規定の目的を示しておらず、この規定は所得税所得再分配機能の向上に資するものであるとしており、上告人の示した立法目的はないと断じている。しかし、そうであるなら正当な立法目的がないにもかかわらず支援対象を変更したということになるから、控除対象扶養親族に1月2日から4月1日に出生したもので15歳の者が含まれていない部分と特定扶養親族に1月2日から4月1日出生したもので18歳の者が含まれていない部分は、正当な目的がなく支援を廃されたものということになるので違憲というべきである。

結局のところ、本件は支援対象の変更を行った立法手段が、正当な立法目的のないものであったか、それとも立法目的に関連性がないものであったかであって、原判決の立法目的解釈でも上告人の解釈でも違憲であるということができる。

第3 令和6年税制改正大綱との不整合

控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢規定については、令和6年税制改正大綱に令和8年の改正(以下「令和8年改正」という)として次のように記されている。

「児童手当については、所得制限が撤廃されるとともに、支給期間について高校生年代まで延長されることとなる。

これを踏まえ、16歳から18歳までの扶養控除について、15歳以下の取扱いとのバランスを踏まえつつ、高校生年代は子育て世帯において教育費等の支出がかさむ時期であることに鑑み、現行の一般部分(国税38万円、地方税33万円)に代えて、かつて高校実質無償化に伴い廃止された特定扶養親族に対する控除の上乗せ部分(国税25万円、地方税12万円)を復元し、高校生年代に支給される児童手当と合わせ、全ての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充しつつ、所得階層間の支援の平準化を図ることを目指す。」

とすると、この予定されている扶養控除等における年齢規定の見直しの目的は、高校生年代に支給される児童手当と合わせ、全ての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充することと、所得階層間の支援の平準化を図ることであると解される。

しかし、原判決は平成22年改正での年齢規定は所得税所得再分配機能の回復に資するものと解釈しているので、そうであるならその目的に変更がない以上、令和8年改正でも年齢規定を変更する理由が存在しなくなる。これは原判決が控除対象扶養親族を16歳以上とした規定の目的と特定扶養親族を19歳以上23歳未満と規定した目的を示していないことによる矛盾である。

無論、令和8年改正は児童手当の延長に伴った措置で、高校生年代に児童手当(旧:子ども手当)を支給するからその年代を扶養する際の控除額を減らすものであり、児童手当の支給対象と扶養控除の変更対象の関係は明らかで、控除対象扶養親族の年齢規定に関すれば、平成22年改正も令和8年改正でも児童手当(旧:子ども手当)が支給されない年齢としたことは明らかである。

あいにく令和8年に予定されている扶養控除等の見直しにおいても早生まれの子を扶養する者に不利益が生じてしまう。不利益が生じる構図は同じであるから、本件の判決理由はその不利益をも正当化できる必要があるが、所得税所得再分配機能の向上だけを立法目的とするならば正当化はできず、早生まれの子を扶養している者が支援の対象から除外されて「高校生年代に支給される児童手当と合わせ、全ての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充すること」という目的が達成できないことは明らかである。

第4 結語

原判決では「本件年齢規定について、徴税の便宜や所得税法の各規程の整合性の観点から、暦年を基準として規定したことは、立法府の政策的、技術的な裁量的判断であって、基本的に尊重せざるを得ないものであ」るとしているが、徴税の便宜についてそもそも被上告人は主張しておらず、根拠も示していないし、早生まれの子の年齢を考慮することは、むしろ関連法との整合性を取ることであって、なんら整合性を損なうものでもなく暦年課税の考え方から外れるものでもない。いくら立法府の裁量を尊重すべきといっても、それは正確な資料を根拠にした立法府の主張が前提であって、無条件に裁判所が斟酌すべきではないし、正当な目的もなく支援の対象から除外する、もしくは目的と関係のない支援の除外は、昭和60年大法廷判決に照らしても不当な排除であって憲法14条1項に反するというべきである。

以上のとおり、原判決は立法目的の解釈や立法手段の認識を誤ったもので、本件区別は正当な立法目的のない支援対象の変更である、もしくは立法目的と立法手段の合理的関連性がない支援対象の排除に相当し、不合理な差別であることが明白であることから憲法14条1項に反するものであり、違憲な規定によって課税された部分は納税の義務を有さないとして是正することが相当というべきである。

 よって相当の裁判を求める。

おわりに

 生年月日は、性別や人種と同じように優劣のない個人属性のひとつである。また子の誕生日が1月2日から4月1日の間にあることは、親の不備でも過失でも欠陥でも不具合でもない。そして子ども手当終了年の差異も就学年の差異も国が定めたものであり、納税者の事情によるものは一切ないから、早生まれであることだけを理由に、公平に扱うべき待遇の対象外になるのは平等原則に反し理不尽である。

 思うに子どもは親にとってだけでなく国にとっても宝である。誕生日は無条件にお祝いする日であって、国が不公平な扱いをする誕生日などあってはならないと確信する。

 

以上