早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

対所得税法 上告棄却

10月17日付けで以下の決定通知がされました。いわゆる三下り半というやつです。

ありがとうございました。

 

裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定。

 

第1 主文

1 本件上告を棄却する。

2 本件を上告審として受理しない。

3 上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。

第2 理由

1 上告について

 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告の理由は、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。

2 上告受理申立てについて

 本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。

 

令和6年10月17日 最高裁判所 第一小法廷

対所得税 上告理由書

 

 

 

令和6年(行サ)第89号 

各更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求上告事件

上告人 sakurahappy

被上告人 国

 

上記令和6年(行サ)第89号各更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求上告事件について、上告人は次のとおり上告理由書を提出する。

 

最高裁判所 御中

 

上  告  理  由  書

 

令和6年8月2日              

 

上告人 sakurahappy         印

 

当理由書の要旨

 本件は平成22年税制改正における扶養控除と特定扶養控除の一部廃止につき憲法14条1項適合性を問うものである。この改正では子ども手当制度の創設と高校無償化制度の創設に伴なって扶養控除と特定扶養控除の一部が廃止されたが、扶養控除の廃止等の対象範囲と子ども手当等の支給対象範囲に差異があることにより、早生まれの子を扶養する納税者に不利益が生じることとなった点について、上告人は扶養控除等の廃止対象の年齢規定が一部憲法14条1項に違反していると主張したが、原判決では違憲ではないと判断している。

 平成22年改正の扶養控除等の見直しには明示された立法目的がないため、立法目的をどのように解釈するかが重要となるが、上告人は「扶養控除から子ども手当への切替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切替えを実現するための所得税法側の措置として、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じること」であると主張したが、原判決では「高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図る事にある」と解釈し、扶養控除又は特定扶養控除から子ども手当又は就学支援金への切替えまで目的とするものではないと説示した。

しかしながら原判決の立法目的の解釈は立法経緯を無視したもので相当とはいえず、また仮にその解釈が正しいとした場合は、逆に正当な立法目的がないにもかかわらず手段が講じられたことになるので、その旨を指摘する。

第1 本件事案の概要と原判決の判断

1 本件事案の概要

 平成22年度税制改正において、子ども手当の創設に伴なって16歳未満の扶養控除が、高校無償化制度の創設に伴なって19歳未満の特定扶養控除が廃止になった。その際、早生まれの子を扶養している納税者について、子が16歳の時に子ども手当が支給されないにもかかわらず扶養控除もなく、子が19歳の時に就学支援金が支給されないにもかかわらず特定扶養控除がない。

 これは手当等の支給対象と扶養控除等の廃止対象が一致していないためである。子ども手当の支給要件児童は15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間であるのに対し、扶養控除が廃止となる子はその年の12月31日時点で15歳以下であるから、期間のずれによって早生まれの子には扶養控除なく子ども手当もない期間が生じているのである。なお就学支援金と特定扶養控除の関係も同様である。

2 上告人の原審での主張

 そうすると「控除から手当への転換」として行われた扶養控除等の廃止は、その範囲に過剰な廃止があり、その部分は改正の趣旨・目的に反している。それは改正の目的と関連性のない手段であるから、所得税法2条1項34号の2に定められた控除対象扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢15歳の者」が含まれていない部分と、同法2条1項34号の3に定められた特定扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢18歳の者」が含まれていない部分は憲法14条1項に反していると上告人は主張していた。

3 原判決の判断

 しかし原判決では、平成22年改正の立法目的を高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ることにあると解釈し、

それ以上に、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではないとし、控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢規定は、所得税所得再分配機能の向上に資するものといえるから、立法目的との関連で著しく不合理とはいえないとして排斥した。

第2 原判決の立法目的の解釈根拠と誤り

1 平成22年改正の経緯等(乙8)

扶養控除は、自己と生計を一にする一定の所得金額以下の親族(扶養親族)を有する場合に、その人数等に応じて納税者の担税力調整を行う趣旨で設けられているが、この扶養控除などの所得控除制度は、課税対象となる所得から一定額を差し引くものであり、この制度による税負担軽減額は、基本的には、この一定額に各々の納税者に適用されている限界税率を乗した額となる。

 したがって、累進税率を採用している所得税においては、高所得者に適用される限界税率が高いことから、所得控除制度による高所得者の負担軽減額は相対的に大きくなる一方で、低い税率の適用される低所得者の負担軽減は相対的に小さくなる。

 平成22年度税制改正大綱においては、このように高所得者に有利な面がある所得控除について、一律の税額控除に変えれば、限界税率の低い低所得者ほど所得比で見た負担軽減効果が大きな仕組みになり、あるいは、手当に変えれば、定額の給付であることから相対的に支援の必要な人に実質的に有利な支援を行うことができるとされ、所得税改革の方向性の一つとして、所得税所得再分配機能の回復等の観点から、所得控除から税額控除や手当等への転換を進めること(「控除から手当へ」)が挙げられた。

 平成22年改正においては、こうした所得税改革の方向性を踏まえ、支え合う社会づくりの第一歩として、子どもの養育を社会全体で支援するとの観点から、子ども手当の創設とあいまって、年少扶養親族に対する扶養控除が廃止されるとともに、公立高等学校の授業料の無償化等に伴い、16歳以上19歳未満の特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分が廃止された。

2 「控除から手当へ」の考え方とは

 「控除から手当へ」の考え方がどのようなものかについては平成22年税制改正大綱に示された所得税改革の方向性から解することができ、そこには「所得控除から税額控除・給付付き税額控除・手当へ」というようにいくつかの方法が述べられている。そして「所得控除から税額控除へ」「所得控除から給付付き税額控除へ」「所得控除から手当へ」は、いずれも支援の必要な人に実質的に有利な支援を行うように方法を変更することが趣旨であり、各方法については以下のとおりである。

 まず「所得控除から税額控除へ」の転換については、所得控除を一律の税額控除に変えれば、限界税率の低い低所得者ほど所得比で見た負担軽減効果が大きい仕組みになるというものである。この仕組みは支援の対象を変更せず個々の納税者に適用される所得控除を税額控除に置き換えることであって、仮にこの仕組みが採用された場合、まさに納税者の所得控除を税額控除に置き換えること、つまり実質的に引き換えということができる。

 次に「所得控除から給付付き税額控除へ」の転換については、税額控除を基本として、控除額が所得税額を上回る場合、控除しきれない額を現金で給付するといった制度である。この仕組みも支援の対象に変更はなく、所得が少なく所得控除の恩恵が受けられない者も含め個々の納税者に適用される所得控除を税額控除または定額給付に置き換えることであって、こちらもまた実質的に引き換えということができる。

 そして「所得控除から手当へ」の転換については給付付き税額控除の部分を税制とは別の制度で対応するもので、支援の方法を変更する考え方は同じであり、支援の対象を変更する趣旨はない。

 このように同列にあげられた上記3つの方法の考え方は基本的に同じで、支援対象を変更する趣旨はなく、支援方法の変更ということができる。

 なお、支援の対象を変更するということは、例えば、中高生への支援をやめて高校生への支援に集中させるというような場合、中学生に対する支援の必要性が失われたことから所得(資金)を高校生の保護者に移動して支援を強化するというような目的が必要となるので、もし立法するのであれば、当然正当な目的が必要となることはいうまでもない。

3 原判決が特定した立法目的

 原判決では上記の立法経緯から平成22年改正の立法目的を「高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ることにある」としている。

4 採用された立法手段

 手当への移行を進め、支援の必要性が大きい者に実質的な支援を行うために採用された立法手段は、12月31日時点で16歳未満の親族を扶養していた時に適用されていた扶養控除を廃止し、15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間の子を養育する者に子ども手当を支給することと、12月31日時点で16歳以上19歳未満の親族に適用されていた特定扶養親族の上乗せ控除を廃止し、高校生に就学支援金を支給することである。

5 立法手段の分析

 手当て等の支給と所得税や個人住民税の扶養控除等の見直しを合わせて実現した立法手段には「支援方法(法的取扱い)の変更」と「支援対象(区別)の変更」がされている。

 まず「支援方法の変更」であるが、それまで所得控除によって税を軽減するという方法であったものが、手当や支援金の支給という方法に変わっている。これはまさに立法目的を達するための手段であるということができる。

 一方「支援対象の変更」については、それまで12月31日時点で16歳未満の子を養育する者を対象に税の軽減で支援してきたものを、15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間の子を養育する者を対象に手当の支給で支援するように変更し、また12月31日時点で16歳以上19歳未満の子を養育する者を対象に税の軽減で支援してきたものを、高校生を対象に就学支援金を支給するように変更している。

 この変更によって12月31日時点で16歳未満の子には、中学生のほか、早生まれの高校1年生に相当する子が含まれるが、15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間の子は中学生のみであり、早生まれの高校1年生に相当する子は含まれないので、支援の対象から排除されることになった。

 このように支援の対象範囲が縮小されて、早生まれの高校1年生に相当する子を扶養する者は、扶養控除による支援も手当による支援も受けられなくなったが、この者らに対する支援は必要性を欠くというような立法事実はなく、この者らに対する支援を排除する正当な立法目的も存在しない。

6 年齢規定の立法目的

 控除対象扶養親族が16歳以上と定められた経緯は、資料「地方税法等の改正(698頁)」によると「扶養控除をどのように見直すかという点について、所得税・個人住民税共通の問題として、一般扶養控除のうち、年少扶養控除の対象者については、子ども手当の支給対象者と重なるため、民主党マニフェストの内容を踏まえると、負担がネットで増加することはありませんが、成年扶養控除の対象者については、子ども手当の支給対象者ではないため負担が増加することから、成年扶養控除については存続すべきであるという意見」が採用されたことからである。

 つまり、子ども手当が支給されない扶養親族の控除を残し、手当てが支給される扶養親族の控除を廃する趣旨で所得税法2条34の2の年齢規定は定められたということができる。

7 上告人の立法目的の解釈

 上記立法経緯を踏まえれば、立法目的がないにもかかわらず支援対象が変更されたと解するよりも、支援対象を変更する趣旨はなく、子ども手当の支給対象と整合性を合わせるため、控除対象扶養親族の年齢を規定したが、早生まれの子の年齢に対する配慮を欠いてしまったことから所得控除の廃止対象と子ども手当の支給対象に不一致が生じてしまい、結果的に支援対象に差異が生じてしまったものと解するのが合理的である。

 であるから、上告人は、控除対象扶養親族の年齢規定の設定目的は「支援方法を扶養控除から子ども手当に変更するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童と見なされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じること」であるとし、特定扶養親族の年齢規定の改正目的は、「支援方法を特定扶養控除から就学支援金に変更するための所得税法側の措置として就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養控除を控除対象外とするように講じること」と解し、控除対象扶養親族に1月2日から4月1日に出生したもので15歳の者が含まれていない部分と特定扶養親族に1月2日から4月1日出生したもので18歳の者が含まれていない部分は立法目的と関連性がないので違憲であると主張している。

8 原判決の立法目的の解釈の問題点

ところが原判決では、控除対象扶養親族の年齢規定の目的を示しておらず、この規定は所得税所得再分配機能の向上に資するものであるとしており、上告人の示した立法目的はないと断じている。しかし、そうであるなら正当な立法目的がないにもかかわらず支援対象を変更したということになるから、控除対象扶養親族に1月2日から4月1日に出生したもので15歳の者が含まれていない部分と特定扶養親族に1月2日から4月1日出生したもので18歳の者が含まれていない部分は、正当な目的がなく支援を廃されたものということになるので違憲というべきである。

結局のところ、本件は支援対象の変更を行った立法手段が、正当な立法目的のないものであったか、それとも立法目的に関連性がないものであったかであって、原判決の立法目的解釈でも上告人の解釈でも違憲であるということができる。

第3 令和6年税制改正大綱との不整合

控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢規定については、令和6年税制改正大綱に令和8年の改正(以下「令和8年改正」という)として次のように記されている。

「児童手当については、所得制限が撤廃されるとともに、支給期間について高校生年代まで延長されることとなる。

これを踏まえ、16歳から18歳までの扶養控除について、15歳以下の取扱いとのバランスを踏まえつつ、高校生年代は子育て世帯において教育費等の支出がかさむ時期であることに鑑み、現行の一般部分(国税38万円、地方税33万円)に代えて、かつて高校実質無償化に伴い廃止された特定扶養親族に対する控除の上乗せ部分(国税25万円、地方税12万円)を復元し、高校生年代に支給される児童手当と合わせ、全ての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充しつつ、所得階層間の支援の平準化を図ることを目指す。」

とすると、この予定されている扶養控除等における年齢規定の見直しの目的は、高校生年代に支給される児童手当と合わせ、全ての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充することと、所得階層間の支援の平準化を図ることであると解される。

しかし、原判決は平成22年改正での年齢規定は所得税所得再分配機能の回復に資するものと解釈しているので、そうであるならその目的に変更がない以上、令和8年改正でも年齢規定を変更する理由が存在しなくなる。これは原判決が控除対象扶養親族を16歳以上とした規定の目的と特定扶養親族を19歳以上23歳未満と規定した目的を示していないことによる矛盾である。

無論、令和8年改正は児童手当の延長に伴った措置で、高校生年代に児童手当(旧:子ども手当)を支給するからその年代を扶養する際の控除額を減らすものであり、児童手当の支給対象と扶養控除の変更対象の関係は明らかで、控除対象扶養親族の年齢規定に関すれば、平成22年改正も令和8年改正でも児童手当(旧:子ども手当)が支給されない年齢としたことは明らかである。

あいにく令和8年に予定されている扶養控除等の見直しにおいても早生まれの子を扶養する者に不利益が生じてしまう。不利益が生じる構図は同じであるから、本件の判決理由はその不利益をも正当化できる必要があるが、所得税所得再分配機能の向上だけを立法目的とするならば正当化はできず、早生まれの子を扶養している者が支援の対象から除外されて「高校生年代に支給される児童手当と合わせ、全ての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充すること」という目的が達成できないことは明らかである。

第4 結語

原判決では「本件年齢規定について、徴税の便宜や所得税法の各規程の整合性の観点から、暦年を基準として規定したことは、立法府の政策的、技術的な裁量的判断であって、基本的に尊重せざるを得ないものであ」るとしているが、徴税の便宜についてそもそも被上告人は主張しておらず、根拠も示していないし、早生まれの子の年齢を考慮することは、むしろ関連法との整合性を取ることであって、なんら整合性を損なうものでもなく暦年課税の考え方から外れるものでもない。いくら立法府の裁量を尊重すべきといっても、それは正確な資料を根拠にした立法府の主張が前提であって、無条件に裁判所が斟酌すべきではないし、正当な目的もなく支援の対象から除外する、もしくは目的と関係のない支援の除外は、昭和60年大法廷判決に照らしても不当な排除であって憲法14条1項に反するというべきである。

以上のとおり、原判決は立法目的の解釈や立法手段の認識を誤ったもので、本件区別は正当な立法目的のない支援対象の変更である、もしくは立法目的と立法手段の合理的関連性がない支援対象の排除に相当し、不合理な差別であることが明白であることから憲法14条1項に反するものであり、違憲な規定によって課税された部分は納税の義務を有さないとして是正することが相当というべきである。

 よって相当の裁判を求める。

おわりに

 生年月日は、性別や人種と同じように優劣のない個人属性のひとつである。また子の誕生日が1月2日から4月1日の間にあることは、親の不備でも過失でも欠陥でも不具合でもない。そして子ども手当終了年の差異も就学年の差異も国が定めたものであり、納税者の事情によるものは一切ないから、早生まれであることだけを理由に、公平に扱うべき待遇の対象外になるのは平等原則に反し理不尽である。

 思うに子どもは親にとってだけでなく国にとっても宝である。誕生日は無条件にお祝いする日であって、国が不公平な扱いをする誕生日などあってはならないと確信する。

 

以上

 

対所得税 上告受理申立て理由書

 

 

令和6年(行ノ)第97号 

行政上告受理申立て事件

申立人 sakurahappy

相手方 国

 

上記令和6年(行ノ)第97号行政上告受理申立て事件について、申立人は次のとおり上告受理申立て理由書を提出する。

 

最高裁判所 御中

 

上 告 受 理 申 立 て 理 由 書

 

令和6年8月2日              

 

申立人 sakurahappy        印

 

当理由書の要旨

 本件は平成22年税制改正における扶養控除と特定扶養控除の一部廃止につき憲法14条1項適合性を問うものである。この改正では子ども手当制度の創設と高校無償化制度の創設に伴なって扶養控除と特定扶養控除の一部が廃止されたが、扶養控除の廃止等の対象範囲と子ども手当等の支給対象範囲に差異があることにより、早生まれの子を扶養する納税者に不利益が生じることとなった点について、申立人は扶養控除等の廃止対象の年齢規定が一部憲法14条1項に違反していると主張したが、原判決では違憲ではないと判断している。

 平成22年改正の扶養控除等の見直しには明示された立法目的がないため、立法目的をどのように解釈するかが重要となるが、申立人は「扶養控除から子ども手当への切替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切替えを実現するための所得税法側の措置として、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じること」であると主張したが、原判決では「高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図る事にある」と解釈し、扶養控除又は特定扶養控除から子ども手当又は就学支援金への切替えまで目的とするものではないと説示した。

 本理由書では、立法目的の解釈を含む原判決には、昭和60年大法廷判決および令和2年第1小法廷判決に相反する判断がされていることを指摘する。

第1 本件事案の概要と原判決の判断

1 本件事案の概要

 平成22年度税制改正において、子ども手当の創設に伴なって16歳未満の扶養控除が、高校無償化制度の創設に伴なって19歳未満の特定扶養控除が廃止になった。その際、早生まれの子を扶養している納税者について、子が16歳の時に子ども手当が支給されないにもかかわらず扶養控除もなく、子が19歳の時に就学支援金が支給されないにもかかわらず特定扶養控除がない。

 これは手当等の支給対象と扶養控除等の廃止対象が一致していないためである。子ども手当の支給要件児童は15歳になってから次の3月31日までであるのに対し、扶養控除が廃止となる子はその年の12月31日時点で15歳以下であるから、期間のずれによって早生まれの子には扶養控除なく子ども手当もない期間が存在するのである。なお就学支援金と特定扶養控除の関係も同様である。

 そうすると「控除から手当への転換」として行われた扶養控除等の廃止は、その範囲に過剰な廃止があり、その部分は改正の趣旨・目的に反している。それは改正の目的と関連性のない手段であるから、所得税法2条1項34号の2に定められた控除対象扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢15歳の者」が含まれていない部分と、同法2条1項34号の3に定められた特定扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢18歳の者」が含まれていない部分は憲法14条1項に反していると申立人は主張する。

2 原判決の判断

 しかし原判決では平成22年改正の立法目的を、高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ることにあると解釈し、

それ以上に、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではないとし、控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢規定は、所得税所得再分配機能の向上に資するものといえるから、立法目的との関連で著しく不合理とはいえないとして排斥した。

第2 上告受理申立て理由1

 原判決では「租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、憲法14条1項の規定に違反するものということはできない」とした昭和60年大法廷判決(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁)を引用し判断基準としている。ところが原判決は、以下で述べるとおり、この判断の枠組みとは異なる判断をしていることから、民事訴訟法318条1項の上告受理申立て理由があり、破棄を免れない。

1 年齢規定の立法目的がないこと

 平成22年改正で法的取扱いが区別されるのは、所得税法2条1項34号の2に定められた控除対象扶養親族の年齢規定と同法2条1項34号の3に定められた特定扶養親族の年齢規定によるものである。となると扶養控除対象扶養親族の年齢を16歳以上に規定したことと特定扶養親族の年齢を19歳以上に変更したことの目的を特定し、目的審査と手段審査をしなければならない。ところが原判決は、年齢規定の目的を特定せず、本件年齢規定は、所得税所得再分配機能の向上に資するものであるから、平成22年改正の立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえない旨を説示している。

2 原判決の立法目的の解釈とその誤り

原判決における立法目的の解釈は、所得税所得再分配機能の向上だけを改正の目的とし、取扱いの区別を規定する要件の設置目的については無いものとしている。そして年齢規定に基づき扶養控除が適用されれば所得税所得再分配機能が向上することになるから立法目的の達成に資する旨を説示している。

 しかし昭和60年大法廷判決は「憲法14条1項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら上記規定に違反するものではないと解される。」とも判示していることを踏まえると、区別が合理性を有するかで判断するのであるから、区別の目的自体を審査すべきである。

原判決の解釈では、所得税所得再分配機能の向上につながればどのような区別・差別も目的達成に資するものとなる。具体例をあげると、扶養親族を性別のような属性で区別し、一方の性別のみの扶養控除を廃するという手段が採用されたとしても所得再分配機能は向上するから、この手段は著しく不合理とはいえないということになる。つまり、原判決の解釈では、どのような差別も正当化できてしまうということである。

しかしながら法的取扱いを区別する手段には必ず目的が存在するので、上記の例であれば、性別で区別した目的が審査されるべきであることはいうまでもなく、その審査をしないのは違憲立法審査権の放棄にほかならない。勿論、昭和60年大法廷判決でも、租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであるかを判断するとしているのであるから、原判決の解釈は昭和60年大法廷判決に明らかに相反するというべきである。

そうすると、もし原判決の解釈のとおり、控除対象扶養親族の年齢を16歳以上として、16歳未満の親族と16歳以上の親族を区別した目的が存在しないのであれば、正当な目的のない区別ということになるから違憲であるし、立法経緯からすると子ども手当が支給されない扶養親族の扶養控除を残すために年齢規定を定めているのだから、子ども手当が支給されないにもかかわらず扶養控除が廃された部分は目的と手段の間に関連性がなく違憲というべきである。

なお、付言すると年齢規定が所得再分配機能の向上に資するというが、資するかどうかは年齢規定の有無で判定ができるのであり、年齢規定があろうがなかろうが扶養控除等は廃止することで所得再分配機能は向上する。そうすると、年齢規定が所得再分配機能の向上に資するということはできない。であれば、この観点からも年齢規定は立法目的と関連性がないというべきである。

第3 上告受理申立て理由2

 本件は所得税法上の取扱いの区別の違憲性を問うものであるが、16歳以上を控除対象扶養親族、19歳以上23歳未満を特定扶養親族と改正したのは、地方税法における個人住民税も同様である。申立人は個人住民税について同様の訴訟を提起しており令和6年8月2日時点で横浜地方裁判所第1民事部に係属中である。(令和4年(行ウ)第9号)

 所得税も個人住民税も扶養控除等の年齢規定によって早生まれの子を扶養している場合に不利益が発生していることは同じである。そうすると共通する年齢規定を採用しているのであるから共通した目的があることになる。個人住民税の規定は所得税法と税体系上の整合性をとる方針であるという側面もあるが、共通した立法手段には共通した立法目的があり、年齢規定はまさに共通した立法手段にあたるので、この立法手段を採用した立法目的を審査せず、それぞれ別の立法目的だけがあるものと解釈して審査すれば、同じ規定にもかかわらず一方が違憲、一方が合憲というような事態も生じてしまう。

 この点、所得税も個人住民税も寡夫控除の所得要件の憲法適合性が争われた裁判(所得税側:令和4年1月12日東京高裁判決 令和3年(行コ)166号 令和3年5月27日東京地裁判決 令和元年(行)236号、個人住民税側:令和2年10月12日最高裁第1小法廷判決 令和2年(行ツ)56号(以下、「令和2年第1小法廷判決」という) 令和元年10月9日東京高裁判決 平成30年(行コ)250号 平成30年7月11日横浜地裁判決 平成29年(行ウ)51号)では共通の立法目的を採用して整合性を合わせている。

 本件では平成22年改正の目的を所得税所得再分配機能の向上としているが、累進課税ではない個人住民税においては所得税所得再分配機能はないので、他の目的があるものと解釈せざるを得ないことになり、原判決の解釈では前述したように同じ法的取扱いの区別をもたらす年齢規定が所得税と個人住民税で目的が違うことになるから、前述したように違憲か合憲かの判断が異なる可能性が生じてしまう。

 実際のところ資料「地方税法等の改正(698頁)」によれば、「扶養控除をどのように見直すかという点について、所得税・個人住民税共通の問題として、一般扶養控除のうち、年少扶養控除の対象者については、子ども手当の支給対象者と重なるため、民主党マニフェストの内容を踏まえると、負担がネットで増加することはありませんが、成年扶養控除の対象者については、子ども手当の支給対象者ではないため負担が増加することから、成年扶養控除については存続すべきであるという意見」が採用されたのが事実である。そうすると、所得税も個人住民税も子ども手当の支給要件児童ではない扶養親族の控除を維持する、すなわち子ども手当支給要件児童の扶養控除を廃するように税法側の措置をすることが目的であることが明らかで、中学生以下の子育て世帯に対する支援の方法を所得控除から子ども手当の支給に変えることであり、そしてまた特定扶養親族の年齢規定の見直しも高校無償化に伴うものであるから、これもまた高校生の子育て世帯の支援の方法を所得控除から就学支援金の支給に変えることである。

 とすれば、所得税も個人住民税も扶養控除の見直しにおける控除対象扶養親族の年齢規定と特定扶養親族の年齢規定を定めた手段には、共通の目的があるのであって、これを覆い隠して立法目的を解釈することはできないというべきであり、寡夫控除に関する判例と異なる判断をしていることから、民事訴訟法318条1項の上告受理申立て理由があり、破棄を免れない。

第4 結語

 以上のとおり、原判決の判断は、立法目的の解釈を誤り昭和60年大法廷判決と令和2年第1小法廷判決の判例およびその判例が支持する下級審の裁判例に相反するものであるから、本件申立てを受理した上で、原判決を破棄し、更に相当の裁判を求める。

 

以上

 

対所得税 控訴審判決

令和6年5月23日に東京高等裁判所で判決言い渡しがありました。

結果は控訴棄却、つまり敗訴です。

これに対して、6月10日上告及び上告受理申立てを行いました。

いよいよ最高裁です。

 

遅くなりましたが、以下、判決文の抜粋を転載します。

関係ないですが、「るる主張する」という表現は初めて見ましたが、なんか可愛いですね。

 

当審における控訴人の補助的主張に対する判断
(1) 控訴人は、平成22年度改正の立法目的は、扶養控除から子ども手当への切り替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童と見なされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切替えを実現するための所得税法側の措置として就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養控除を控除対象外とするように講じることである旨主張する。
 しかし、平成22年改正の立法目的は、高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ることにあるのであって、それ以上に個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給すること(扶養控除又は特定扶養控除から子ども手当又は就学支援金への切替え)までを目的とするものではない(引用に係る原判決「事実及び理由」(補正後のもの。以下「原判決」という。)第3の2(3))。
 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
(2)控訴人は、同年に出生した早生まれの子を扶養する納税者は遅生まれの子を扶養する納税者と比較して扶養控除又は特定扶養控除の適用開始が遅れる不利益を被るところ。本件年齢規定は、その代替となる給付もなく扶養控除または特定扶養控除を廃止したものであるから、仮に平成22年改正の立法目的を原判決のように解したとしても、立法目的との間に合理的関連性がなく、憲法14条1項に違反する旨主張する。
 しかし、前記(1)のとおり、平成22年改正は、個別の納税者に対し、扶養控除又は特定扶養控除の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給すること(扶養控除又は特定扶養控除から子ども手当又は就学支援金への切替え)までを目的とするものではない。また控訴人が主張する早生まれの子を扶養する納税者の不利益は、結局のところ、子ども手当等の支給要件については「15歳に達する日以後の最初の3月31日までの間」と定められているのに対し、所得税法(暦年を課税年度とし、課税標準の計算も暦年単位で行っている。)が、一般の控除対象扶養親族又は特定扶養親族に該当するかの判定を「その年12月31日の現況」により一律的に行う旨規定したこと(同法85条3項)に起因するものであるところ、本件年齢規定について。徴税の便宜や所得税法の各規程の整合性の観点から、暦年を基準として規定したことは、立法府の政策的、技術的な裁量的判断であって、基本的に尊重せざるを得ないものであり、控訴人主張の諸点を考慮しても、平成22年改正の立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかとまでは認められない(原判決第3の2(4))。
 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
(3)その他、控訴人はるる主張するが、原審における主張を繰り返すものか、独自の見解を述べるものであって、上記1の認定判断を左右するのものではない。
第4 結論
 そうすると、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。


結論
 したがって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

 

国からの控訴答弁書

国から控訴答弁書が届きました。

 

特に反論はなく、原判決の判断は相当であると述べています。

 

ところで、この答弁書の執筆者、要するに国側の担当者は3月まで東京地裁で裁判官をしていた方です。判検交流ってやつですね。

 

東京地裁の裁判官が書いた判決文に不服があって控訴しても、東京地裁の裁判官だった方が弁護して東京高裁の裁判官が判断するのです。

 

ぜんぜん勝てる気がしません。

もう答弁書控訴審の判決文に見えてきます。

 

でも提出した控訴理由書に、有効な主張はなかったって事なのでしょうね。

 

さて、上告理由書の建て付けでも考えるとしますか。

 

 

対所得税 控訴理由書

提出した控訴理由書を公開します。

全部読むには20分ぐらいかかります。

 

 

事件番号 令和6年(行コ)第29号 

各更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件

控訴人 sakurahappy

被控訴人 国(処分をした行政庁:川崎北税務署長)

 

上記事件について、控訴人は次のとおり控訴理由を述べる。

 

東京高等裁判所第4民事部イ係 御中

 

     控  訴  理  由  書

 

          令和6年3月21日

              

        控訴人 sakurahappy 印

はじめに

本書では、まず原判決の内容を整理し、立法目的の特定をはじめとした誤りを指摘する。そして前提となる考え方を整理した上で、改めて本件年齢規定の立法目的を示し、立法手段との関連性から本件年齢規定に憲法14条1項の違反がある旨を述べる。なお、新たな主張の要点は以下の通りである。

新たな主張の要点

平成22年税制改正の目的は以下であるとの主張に変更する。

「平成22年税制改正の目的は、扶養控除から子ども手当への切り替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切り替えを実現させるための所得税法側の措置として、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族を特定扶養親族の対象外とするように講じることである。」

なお原審では同じ学年の早生まれと遅生まれを比較した場合の不利益を主張していたが、本書では同年に出生した早生まれと遅生まれを比較した場合の不利益を主張し不合理を明らかにする。

 

第1 原判決の整理

 まず原判決の内容を整理するため、平成22年の税制改正の内容(立法手段)とその立法目的、そして立法目的と立法手段の関連性について原判決から引用する。

1.平成22年税制改正について

平成22年法律第6号による改正前の所得税法においては、扶養控除の対象となる扶養親族につき年齢の制限はなく、特に年齢16歳以上23歳未満の扶養親族を「特定扶養親族」とした上で扶養控除額の上乗せをする旨が定められていたが、平成22年法律第6号による改正により、扶養控除の対象となる扶養親族(控除対象扶養親族)が年齢16歳以上の者になるとともに、扶養控除額の上乗せがされる特定扶養親族が年齢19歳以上23歳未満の者となった(以下、この改正を「平成22年改正」という)。(原判決2頁20行目)

2.原判決が認定した立法目的

 原判決では「平成22年改正の立法目的は、高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ること。」(原判決10頁17行目)であるとした。

 なお、税制における所得再分配機能については、学術上「累進所得税などにより高所得者には重く課税し、低所得者には軽く課税または免税することを通じて、資本主義経済の下で分配された所得や資産の格差(貧富の格差)の拡がりを是正すること(甲32号)」と定義されており、そうすると所得税所得再分配機能の回復を図ることとは、課税を通じて格差の是正を図ることであり、給付によって国民生活の安定を図ることまでは含まれない。

3.原判決が否定した立法目的

 原判決では、「それ(前記の目的)以上に、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。そして、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に照らしても、前記のような、「控除から手当へ」という、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえれば、かかる解釈が扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではない。」として原告の主張(正確には原告の意図していない主張)を否定している。

 この1文目については解釈が固定できない。なぜなら「それ以上に目的はない」とはせず「~まで目的とするものではない」としているが、「それ(所得税所得再分配機能の回復等)以上(の目的)」と後半に記載された目的が同列ではないし、原判決のいう所得税所得再分配機能に格差の是正以上の意味があると解された場合は、最後に何を否定しているのか明らかといえないからである。例えば「扶養控除の廃止までは目的だが手当の支給は目的ではない」とも解せるし、「一般的な納税者に対して引き換えは目的だが、特殊な事情のある個別の納税者にまで正確に控除と手当てを引き換えることまでは目的としていない」とも解せるほか、認定した目的が格差の是正だけであるなら「控除から手当へ」転換することは目的としていないとも解すことができる。

 そこで控訴人は「様々な事情を持つ全ての納税者に対し控除と引き換えに手当を支給することまで目的とするものではない」と解釈し主位的主張をするが、「控除から手当へ」の転換をねらったものではないと解釈した場合の予備的主張を第5の章で行う。

4.立法目的と立法手段の関連性について

 原判決では本件年齢規定について「平成22年改正により、本件年齢規定に基づき扶養控除がされるようになったことで、18歳以下の子を扶養する子育て世帯において、扶養控除の一部廃止に伴う不利益が生じることとなったが、その不利益は、低所得者高所得者に比して小さく、一方で、上記世帯において、子ども手当や就学支援金制度による定額給付拡充の恩恵を受けられることとなったから、本件年齢規定は、所得税所得再分配機能の向上に資するものといえ」る(原判決11頁11行目)として立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえないとしている。

5.小括

 原判決では、平成22年改正の目的は所得税所得再分配機能の回復等を図ることであり、本件年齢規定は所得税所得再分配機能の向上に資するものであるから著しく不合理であることが明らかであるとはいえず憲法14条1項に違反するものではないとしている。

第2 原判決が認定した立法目的の誤り

 原判決の最大の誤りは、立法目的の認定である。

まず「租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なもの」であることとした昭和60年大法廷判決に照らすと、扶養親族の年齢で取扱いを区別するのであれば、その年齢で区別した目的が何かを示し正当性を審査するべきといえる。そうでなければ、正当な目的のない区別によって一部の納税者に不当な税を強いることになるからである。

さて本件は年齢規定の憲法適合性を問うものであるが、本件年齢規定について原判決では、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではなく、立法目的は、所得税所得再分配機能の向上等であって、それ以上の目的はないとしている。

しかしながら本件年齢規定のひとつである控除対象扶養親族の年齢規定は、16歳未満の子を扶養する納税者と16歳以上の親族を扶養する納税者を区別する規定なのであって、原判決の認定した立法目的ではこの年齢で区別する理由(目的)が示されていない。

この点、徴税効率の観点から、特殊な事情がある納税者に対して控除と手当を引き換えるものではないとしても、所得税法では扶養親族等の年齢規定はその親族の年齢から属性や性質をみなして区別するという方式が採用されていることを踏まえると、「控除から手当へ」の転換が進められて子ども手当の創設にあいまって扶養控除が見直されたこと(甲6号)や、税制調査会で「15歳以下のところは、扶養控除は廃止して手当に変える」と説明がされていたこと(甲24号32頁)、また子ども手当が15歳に達する日以後の最初の3月31日までと規定されていること、これらの事実から、控除対象扶養親族が16歳以上と定められたのは、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族の扶養控除を廃するためであったことは否定できないし、この年齢による区別を説明できる合理的な理由が他に存在しない。

そうすると所得税法2条34の2の控除対象扶養親族の規定の趣旨(目的)は、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族の扶養控除を廃止して、そうではない扶養親族については従来通り控除対象とすることであるし、また特定扶養親族の年齢規定についても同様に、同法2条34の3で特定扶養親族の年齢規定が改定された趣旨(目的)は、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族の上乗せ控除を廃止することであるといえる。

なお、原判決の立法目的についての説明には原告主張の見落とし、理由の不備、理由の食い違いがあるので付言する。

・原告主張の見落とし

原判決は、原告の主張する立法目的として「子ども手当支給対象である扶養親族に対する扶養控除を廃止し、就学支援金の支給対象である扶養親族に対する扶養控除額の上乗せ部分を廃止すること」としている(原判決10頁22行目)が、原告の主張は「所得控除から手当へ」の観点から、子ども手当の創設とあいまって子ども手当支給要件の年齢に相当する親族に対する扶養控除を廃止することと(令和5年4月10日付原告準備書面5頁24行目)、高校無償化に伴い高等学校就学支援金の支給対象の年齢に相当する親族に対する扶養控除の上乗せ控除を廃止すること(同6頁14行目)であって、全ての納税者に対して控除と手当を引き換えにすることまでが目的である旨は主張していない。

・理由の不備

 原判決は平成22年改正の目的に、所得税所得再分配機能の回復等を図ること以上の目的はないとしている。そして「それ(原判決が示した立法目的)以上の目的」として「個別の納税者に対して控除と手当を引き換えること」を示し、そのような目的はないとしているが、その理由は、なくても扶養控除の趣旨と整合しないことはないとしているにとどまり、それ以上の目的自体を否定する理由は付記されていない。もっとも徴税効率の観点から特殊な事情を持つ納税者にまで応じる目的はないと解されるが、そうであれば、年齢から支給対象をみなして控除を廃する目的まで否定することはできないというべきである。

・理由の食い違い

 納税者の特殊な事情に応じてまで控除と手当の引き換えはないにしても、支給対象とみなされる者の控除を廃することは「控除から手当へ」の転換のための措置であり、この転換がなければ人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に適合しなくなる。ところが原判決は所得税所得再分配機能の回復等以上の目的はないとしながら、「控除から手当へ」という、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえれば扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではないとしている。

 そうすると原判決の説示は、平成22年改正に「控除から手当へ」転換するための措置を講じる目的はないが、それでも扶養控除の趣旨に適合しなくならないのは平成22年改正で「控除から手当へ」の措置を講じて転換しているからであるということになり理由が食い違っているといわざるをえない。

第3 原判決のその他の問題

 その他、原判決の問題(不当な部分)について以下に示す。

1.立法目的が「等」と表現されていること

 立法目的として「所得税所得再分配機能の回復を図ること」としている。しかし、「等」としているのは他にも目的があるということであり、それらを明らかにしなければ目的の正当性は判断できない。しかも「それ(所得税所得再分配機能の回復等)以上の目的はない」とも表現しており、等が何かを明らかにしなければ、「ない」とされる目的も明らかにならず、正確な解釈ができないため「等」を使った目的は適切ではない。

2.広範な立法目的では違憲審査が意味をなさないこと

 広範な立法目的を特定すると違憲審査が意味をなさないが、所得税は従来、所得再分配機能を備えており、その機能を回復させるという目的は広範すぎるというべきである。また平成22年改正による効果は納税者全体にかかるものではなく、一部の納税者に限定して所得税所得再分配機能の回復をねらうものであるから、立法目的と立法手段が釣り合っていないというべきである。

3.子ども手当や就学支援金の支給は学術上の所得税所得再分配機能と関係ないこと

 原判決では「子ども手当や就学支援金制度による定額給付拡充の恩恵を受けられることとなったから、本件年齢規定は、所得税所得再分配機能の向上に資する」として立法目的と手段の関係を述べているが、学術上の定義によれば所得税所得再分配機能に給付部分は含まれていないから、定額給付拡充の恩恵と所得税所得再分配機能の回復は関係がなく、理由と結論が食い違っている。

また、そもそも子ども手当や就学支援金の支給は平成22年の税制改正によって実現されたものではないから、それらの支給までも税制改正の目的と解するのは誤りである。

4.子ども手当や就学支援金は連携して不利益を補うものではないこと

 原判決では立法目的と立法手段の関連性について、「子ども手当と年少扶養控除の転換」と「就学支援金と特定扶養控除の転換」の政策を分けずに「18歳以下の子を扶養する子育て世帯において、扶養控除の一部廃止に伴う不利益が生じることとなったが、その不利益は、低所得者高所得者に比して小さく、一方で、上記世帯において、子ども手当や就学支援金制度による定額給付拡充の恩恵を受けられることとなった」とし、扶養控除見直しによる不利益は子ども手当と就学支援金で全て解消されているかのように述べられている。

 しかしながら、子ども手当制度と就学支援金制度はそれぞれ独立した制度であり、また就学支援金には「扶養控除を廃止した代わりに支給する」という趣旨はなく、就学支援金は、早生まれの15歳の子を扶養する納税者が被る不利益を補うことを目的としていない。これは就学支援金制度に子ども手当制度や早生まれの扶養控除との関係を考慮して改廃を制限するような取り決めがないことからも明らかである。

 そうすると18歳以下の子を扶養する世帯において扶養控除見直しの不利益が子ども手当と就学支援金の2つの制度の総合的支援によって解消されているかのような原判決の論理は、各制度の趣旨を正解したものではないというべきであり、「子ども手当と年少扶養控除の転換」と「就学支援金と特定扶養控除の転換」を取り交ぜた原判決の理由は当を得ないというべきである。

 また、遅生まれの高校1年生が扶養控除と就学支援金を受けられることに対し早生まれの高校1年生が就学支援金しか受けられないという不公平は総合的支援でも解消していないし、基本的に18歳の早生まれの子は就学支援金の支給対象に相当せず恩恵は受けていないので、そもそも原判決は前提を誤っているというべきである。

5.上位政策の目的と税制改正の目的が切り分けられていないこと

 原判決が特定した立法目的の「所得税所得再分配機能の回復等」には、格差の是正以外にも子ども手当や就学支援金の支給による子育て世帯への定額給付についても述べられており、これらの給付も目的に含まれているように解される。しかし、手当てと就学支援金の支給は子ども手当制度と高校無償化制度の創設によって実現されたもので、これらは扶養控除の見直しを含めて上位の政策目的を達成するための施策であるから、原判決は上位政策の目的と施策、そして平成22年改正の目的を混同しているといわざるをえない。

この点については、原審での原告の主張も不十分であったから、本書第4の4で改めて主張するが、子育て支援の拡充も高校無償化も格差是正も上位政策の目的であって、平成22年改正はこれらの政策を実現するための税制側の措置を講じたものであるから、原判決の目的認定は誤りである。

6.年齢規定が暦年課税と整合的である旨が空理空論であること

 暦年課税をめぐる原判決の説示には誤りがあるため以下に指摘する。

(1)暦年課税の考え方と概算的扶養控除

 暦年課税とはその年の収入からその年の経費を差し引いて課税対象の所得とする考え方である。扶養控除についてはその年に扶養していた人数に応じて概算的に所得控除するものである。

(2)所得税法第85条3項の趣旨

 所得税法第85条3項で扶養親族の判定を「その年の12月31日の現況による」とした趣旨は、徴税効率の観点から、基準日(12月31日)時点の状況がその年の扶養状況であるとみなすというものである。

(3)基準日が12月31日である必要はないこと

 基準日での状況をその年の扶養状況とみなすという考えであるから、その状況は年初や年度末、中間日等でも暦年課税の考え方に反するものではなく、12月31日だけが暦年課税の考え方と整合的ということはないし、実際に基準日として規定されている日付は12月31日に限られていない。

 一例をあげると、暦年課税である地方税法の584条4項では特別土地保有税が非課税となる土地であるかの判定として「1月1日または7月1日の現況によるものとする」と規定している。このように現行法の規定は12月31日以外が基準日であっても暦年課税の考え方を逸していないことを裏付けている。

(4)所得税法85条3項の趣旨を誤っていること

 原判決では「同法85条3項は、一般の控除対象扶養親族又は特定扶養親族に該当するかどうかの判定をその年の12月31日の現況により一律的に行う旨を定めており」としているが、立法経緯を分析しても「一律的に行う」ということまでの趣旨はない。

つまり85条3項は12月31日の現況によって判定することが趣旨であって、それ以上に生年月日等を要件として設置することを制限する趣旨はない。そうすると「本件年齢規定に早生まれの者を含めることによって所得税法85条3項が暦年を基準として規定していることと整合しなくなるのは明らか」という説示は、そもそも85条3項は法律要件にそのような整合性を要求する趣旨がないのであるから当を得ないというべきである。

(5)一律的な年齢での判定も可能なこと

もしも所得税法85条3項に一律的に行う趣旨があるとした場合でも、北陸税理士会が提案しているように控除対象扶養親族は一律的に15歳9ヵ月以上と定める方法(甲33号)も可能であるから、年齢の規定は一律的でなければならないとする主張は、早生まれに対する措置を講じないことを正当化する理由にはならないというべきである。

(6)実務では生年月日の範囲で判定していること

控除対象扶養親族や特定扶養親族の判定は、実務上12月31日時点の年齢ではなく、生年月日がどの範囲に含まれるかで判定(甲20号)しているから「所得税法における諸規定を暦年に基づいて規定することは過誤の減少等につながる」というのは根拠がないというべきである。

(7)現行の規定は過誤の減少効果よりむしろ過誤を誘発していること

原判決は「所得税法における諸規定を暦年に基づいて規定することは過誤の減少等につながり、徴税の便宜に資する」と説示するが、一般の納税者からすれば、子どもが高校生になったのであれば、子ども手当(児童手当)の支給がなくなる年齢になったのであるから扶養控除が適用されると考えるのは当然であり、逆に扶養控除をつけようとして過誤を誘発をしている可能性も否定できないし、その年になって早生まれだけが扶養控除が適用されない事実を知れば不満を抱くのは当然である。

実際に税の専門家であっても早生まれの高校1年生に扶養控除を適用しようとした例(甲34号)もあり、本当に過誤の減少につながっているとはいえないし、前述したように扶養控除の判定は生年月日から判定していて、今日ではコンピューターが生年月日から自動で判定しているから納税者が間違う余地がないというのが実情である。そうすると原判決が説示するような過誤の減少に資することはないばかりか、納税者の混乱と不満を招いており、過誤や現場でのクレーム対応が発生するなど徴税効率が低下する可能性は否定できないというべきである。

(8)条文作成の技術的な問題であること

結局のところ、所得税法85条3項に要件を制限するまでの趣旨はなく、出生の月日を要件に含めたり、月齢を要件にしたり、年齢ではなく生年月日の範囲を要件にするなど、暦年課税の考え方を欠くことなく立法目的が達成されるように条文を作成することは可能であって、原判決が早生まれに対する措置を講じていない理由として挙げたものは、所詮、条文作成の技術的な問題にすぎないから、原判決が述べた理由は当を得ないというべきである。

7.比較検証の方法に誤りがあること

 2つの事柄(待遇)の同一性を比較する際は、他の条件をそろえることが鉄則である。しかし、原判決では「早生まれの者が高等学校卒業後、大学受験のために浪人をした場合や大学で留年した場合、大学卒業後、大学院に進学するなどしてすぐに就職せず、一定額以上の収入を得なかった場合」と「同一学年の遅生まれの者が高校卒業後すぐに大学に進学し、留年せずに大学を卒業した後すぐに就職して一定額以上の収入を得た場合」を比較して同じだとしている。そうなると条件を変えて比較しなければ結果が同じならないということは、両者は同一の待遇ではないということであるから、原判決の比較検証結果は経験則に反するというべきである。

 しかも不利益は4年制の大学を卒業して就職したというケースだけではなく、高卒で就職するケースや短大や専門学校を卒業後に就職するケース等、早生まれと遅生まれで進級進学就職の事情が同じであれば、中学卒業後にすぐに就職するケースを除く全てのケースで不利益は存在するのであり、この不利益は次項の(1)に述べるように扶養期間が長くなっても解消されることはないから、原判決は当を得ないというべきである。

8.早生まれの不利益の認識に誤りがあること

 原判決では、控除対象扶養親族と特定扶養親族に該当する回数につき、早生まれの者の回数が少なくなることの不利益は「所得税法85条3項の規定する基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎないといえ、かかる不利益は、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨から当然に予定されているものといえる」としているが、不利益の認識を誤っているので指摘する。

(1)扶養控除の不利益

 扶養控除の不利益は、子ども手当が支給されない15歳(12月31日時点)の早生まれの子が、その年に扶養控除も適用されないことによって生じるものである。この点、留年や浪人などで1年多く扶養されれば控除の回数は遅生まれと同じになるというが、それは1年多く扶養されることで必要になった扶養控除の適用を受けるだけであって、15歳の時に受けられなかった扶養控除の代替ではない。そうすると一定額の収入を得ずに扶養親族になったからといっても15歳の時の不利益が解消されるわけではないから、原判決の不利益の認識は誤っているというべきである。

(2)特定扶養控除の不利益

 特定扶養親族は、もともと高校入学から大学卒業を念頭に教育費がかかる世代の負担を軽減する趣旨で設けられたが、平成22年改正で高校生の部分を就学支援金に転換したので、大学入学から卒業までの4年間を念頭に教育費の負担軽減を目的としたものであるといえる。

 原判決の説明は「原告が主張する早生まれの子を扶養する納税者の不利益は所得税法85条3項の規定する基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎないといえ、かかる不利益は人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨から当然に予定されているものといえる」としている。しかし、この説明では特定扶養控除の回数を論じるのに扶養控除の趣旨の観点に論点がすり替わっている。本来、特定扶養親族を設置した趣旨からすれば、早生まれの子が大学1年で受けられないことも、早生まれの子が適用を受けるには留年や浪人など1年多く扶養されることが当然に必要となるという旨の論理も、道理がないというほかないし、その年の扶養状況に合わせて概算的に所得控除するという暦年課税の考え方からも逸するものである。

9.早生まれの不利益の原因は強いられたものであること

 原判決は早生まれの不利益を「基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎない」と説示しているが、同じ年に出生した早生まれの子が遅生まれの子よりも1年早く就職して収入を得るようになるのは、4月1日以前に出生した子が1学年上になるよう保護者に子の就学を義務付けていることに起因する。(学校教育法施行規則第59条・学校教育法第17条)

 

学校教育法施行規則 第59条 

小学校の学年は、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わる。

※中学校や高等学校等は59条を準用している。

 

学校教育法 第17条

保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。

② 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。

 

 そうすると義務教育課程終了後も遅生まれの子と早生まれの子の進学進級や就職の事情が同じなら早生まれの子は1年早く就職することになるから、早生まれの子の不利益が「基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎない」として断ずるのは誤りであり、被控訴人(国)が同じ年の4月1日以前に出生した子に1年早い就学を義務付けていることに応じた措置が講じられていないことが不利益の原因であるというべきである。

 また子ども手当についても付言すると、子ども手当の支給は「15歳に達する日以後の最初の3月31日まで」と規定されているから、同年に出生した早生まれは遅生まれよりも1年早く手当の支給が終わることになる。不利益の原因は、この扱いの違いに応じた措置を講じていないことであるから、この点からも原判決の不利益の認識は誤っているというべきである。

10.小括

以上のとおり原判決には立法目的の特定をはじめとして多くの誤りがある。そうすると誤った立法目的を前提にした結論は誤りであるから、見直されるべきである。

第4 控訴人の新たな主張

ここからは前提となる考え方を示した上で、新たな主張を述べる。

1.所得税法における年齢規定の考え方

平成22年改正前より所得税法における扶養控除等の年齢規定は、年齢からその性質や属性をみなす方式を採用している。例えば老人扶養親族の控除は老人を扶養する場合にかさむ費用の負担を軽減する目的であるが、実際にかかる費用で判定はせず、年齢が70歳以上の扶養親族は老人としてみなしているし、特定扶養親族の控除(改正前)は高校入学から大学卒業までを念頭に教育費がかさむ世代の負担軽減を目的としたものであるが、実際に学生であるかどうかではなく、その扶養親族の年齢から教育費がかさむ世代であるとみなしている。これは徴税効率の観点から採用されたもので、平成22年改正においても年齢からその性質や属性をみなす方式が採用されたといえる。

2.所得控除の廃止による格差是正とその正当性

累進課税制度である所得税において扶養親族に対する所得控除は富裕層に有利に働くものであるから、扶養控除の廃止は格差是正の効果(所得再分配機能の回復効果)がある。しかしそもそも扶養控除には人的事情に基づく担税力の調整という趣旨があるから格差是正のために扶養控除を廃止すると人的事情に基づく担税力の調整という趣旨を失することになる。

つまり親族を扶養している以上、扶養にかかる費用が発生することで減少する担税力の調整は必要であるから、税額控除や手当等に転換せずに扶養控除を廃止することがあれば、それは正当性を欠くというべきである。

3.所得控除から税額控除や手当への転換の考え方

扶養親族の所得控除から税額控除や手当等に転換する目的は、支援の拡充と格差の是正をねらったものであるが、扶養控除を廃止するにあたっては、扶養親族を有する場合の担税力の調整という趣旨を維持する必要がある。そうすると、控除を廃止する対象と税額控除にしたり手当を支給したりする対象は基本的に一致させる必要が生じる。

なぜならこの対象が一致していないと扶養控除も税額控除や手当もない扶養親族が生じることになり、その親族を扶養する納税者が必要な担税力の調整がされなくなるので、扶養控除の趣旨を欠くことになるからである。

もっとも背景の異なる制度で完全に要件を揃え対象を一致させることは困難であるが、一定の条件を合わせることで両対象の整合を図ることができなければ、そもそも転換自体が成立しない。なぜなら両対象を一致させることを前提とせずに控除から手当への転換が進められると、扶養控除の趣旨と適合しない部分が生じ不当なものとなるからである。

そうすると本件の「控除から手当へ」の転換は、扶養控除から子ども手当への転換が扶養親族の年齢から子ども手当支給要件児童をみなす方法で整合を図れること、そして特定扶養控除から就学支援金への転換も扶養親族の年齢から就学支援金の支給対象生徒とみなす方法で整合を図れること、これらが「控除から手当へ」の転換という考え方の前提となっているということができる。

4.扶養控除の見直しは上位政策実現のための施策である

平成22年改正は、本書第3の5でも述べたように所得税法単独で行われたものではなく、上位政策の実現のための施策として講じられたものである。

当時の政権与党である民主党マニフェスト(甲21号)によると本件に関連する政策は3つある。

(1)政策とその目的

ア.政策1:子ども手当の創設

 まずは子ども手当の創設である。公約では「次代の社会を担う子ども一人ひとりの育ちを応援する観点から、所得税の扶養控除や配偶者控除を見直し、子ども手当を創設する。」としているが、「所得税の扶養控除や配偶者を見直す」という部分は「所得税と個人住民税の扶養控除を見直す」に変更されている(甲24号22頁)。

イ.政策2:教育無償化

次に教育無償化である。公約では「高等学校は希望者全入とし、公立高校の授業料は無料化、私立高校などの通学者にも授業料を補助する。」としている。

ウ.政策3:所得税改革の推進

3つめは所得税改革の推進である。公約では「相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、税額控除、手当、給付付き税額控除への切り替えを行い、下への格差拡大を食い止める。」としている。

(2)講じられた施策

 上記政策を実現するための施策として、15歳に達する日以降の最初の3月31日までの子ども1人あたりにつき月額1万2000円の子ども手当を支給し、公立高校の高校生であれば月額9900円等の就学支援金を支給するとともに、「控除から手当へ」の考え方のもと、扶養控除の一部を子ども手当に切り替え特定扶養控除の一部を就学支援金に切り替えるための所得税法側と地方税法側の見直しが講じられている。

(3)扶養控除と特定扶養控除の見直しの目的

そうすると、平成22年税制改正の目的は、扶養控除から子ども手当への切り替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切り替えを実現させるための所得税法側の措置として、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族を特定扶養親族の対象外とするように講じることである。

5.立法目的の正当性

平成22年改正は、前述したように子育て支援の拡充と教育費負担軽減そして格差の是正をねらいとした上位政策の施策である2つの転換(扶養控除から子ども手当への転換と特定扶養控除から就学支援金への転換)を実現させるための措置を講じることであり、子育て支援の拡充や教育費負担軽減、格差の是正はどれも正当な目的であるからその実現のための扶養控除の見直しも正当なものであるといえるし、従来の担税力の調整という趣旨を持つ扶養控除が廃止されることになっても、子ども手当や就学支援金に転換されることでその正当性は維持されているといえる。

6.立法目的と立法手段との関連性

(1)年少扶養控除の廃止について

まず年少扶養控除の廃止についてである。

子ども手当の支給要件は15歳に達する日以降の最初の3月31日まででと規定されている。そうすると同年に出生した者のうち4月2日以降に出生した者は(生まれた年を1年目として)17年目の3月31日まで支給されるのに対し、4月1日以前に出生したものは16年目の3月31日までしか支給されない。そうすると支給が終わる年の12月31日時点の年齢は、遅生まれが16歳であり早生まれは15歳である。(添付の図「同年に出生した早生まれと遅生まれの子ども(児童)手当と扶養控除の期間比較」参照)

そうすると子ども手当が支給されないとみなされる年齢は、遅生まれが16歳以上であるのに対し早生まれは15歳以上である。

しかし控除対象扶養親族の年齢規定は16歳以上であるから、遅生まれは子ども手当が終了した年から扶養控除が適用されるが、早生まれは手当が終了した次の年まで扶養控除を受けることができない。

このように早生まれの子については、子ども手当が支給されないとみなされる年齢が15歳以上となるから、所得税法2条34の2の控除対象扶養親族の規定に15歳の早生まれの子が含まれない部分は立法目的と関連性がなく憲法14条1項に違反するといえる。

(2)特定扶養控除の一部廃止について

次に特定扶養親族の一部廃止についてである。

就学支援金は高校生に支給されるものであるが、学校教育法の規定により同年に出生したとしても遅生まれの子と早生まれの子では中学校を卒業する年が1年早く、遅生まれの子は出生から17年目の3月31日で卒業させることを保護者に義務付けているのに対し、早生まれの子は16年目の3月31日で卒業させることを義務付けている。そしてほとんどの子が浪人することなく高校に進学するという事実を踏まえれば、高校生(就学支援金を受給している)とみなされる年齢(12月31日時点)は、遅生まれは16歳から18歳であり、早生まれは15歳から17歳である。

そうすると改正前に特定扶養親族とされていた年齢(16歳以上23歳未満)のうち、就学支援金が支給されないとみなされる年齢は、遅生まれが19歳以上であるのに対し早生まれは18歳以上である。

しかし改定された特定扶養親族の年齢規定は19歳以上23歳未満であるから、遅生まれは就学支援金の支給が終了した年から特定扶養控除が適用されるが、早生まれは就学支援金が終了した年に適用されず、1年後になる。

このように早生まれの子については、就学支援金が支給されないとみなされる年齢が18歳以上となるから、所得税法2条34の3の特定扶養親族の規定に18歳の早生まれの子が含まれない部分は立法目的と関連性がなく憲法14条1項に違反するといえる。

(3)租税公平負担原則の観点

なお、原判決では「同一学年の早生まれの者と遅生まれの者との間で差異を設けているものではない(原判決12ページ1行目)」としているが、整合を図るべき制度が遅生まれと早生まれを区別して取り扱っている以上、その扱いの違いに合わせて必要な措置を講じないことは「同じものを同じように扱い、違うものをその違いに応じて扱う」という租税公平負担原則に反するというべきであり、平成22年改正はしかるべき区別を怠っているというべきである。

7 本件各区別のうち不合理な部分による課税には納税の義務がないこと

本書では立法目的の主張を変更したが、それでも早生まれの15歳の子の扶養控除を廃して不当に課税された部分と早生まれの18歳の子の特定扶養親族の上乗せ控除を廃して不当に課税された部分はどちらも立法目的との間に合理的関連性がないから、これらの規定は憲法14条1項に反するものである。そうすると憲法に反する規定によって課税された部分については納税の義務がなく、原告が求めた更正の請求には理由があるので、更正すべき理由がない旨の各通知処分は取り消されるべきである。

第5 予備的主張

原判決の「平成22年改正の立法目的は、・・・個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない」について控訴人はその解釈を固定できないので、控訴人はこの説示を様々な事情がある全ての納税者に対して控除による課税額の軽減と給付金を転換することまでは目的としていないと解釈し、これまで指摘や主張をしてきた。

その理由は、平成22年改正の目的として控除から手当への転換政策を実現するための措置を講じるという目的が否定できなかったからであるし、子を扶養する場合に必要な支援には継続性が欠かせないという観点もあったからである。

加えて、扶養控除の見直しと子ども手当創設の結果、早生まれの15歳の子を除き、実質的に子を扶養する個々の納税者の扶養控除が子ども手当に置き換わっているし、またそれが想定と違うという評価もないことから、国が税制改正子ども手当制度の創設によって、実質的に扶養控除が子ども手当に置き換わることをねらいとしていたことを否定することはできないからである。

そうはいっても、原判決の解釈を誤った場合に備え、本章では、「子ども手当は扶養控除の廃止に置き換わるものではないから、平成22年改正にそのような目的はない」と解釈して予備的な主張をする。

1.扶養控除と特定扶養控除の立法目的とその正当性

扶養控除は、憲法25条の生存権を保証するための最低生活費控除であり、昭和25年に親族を扶養している場合に低下する担税力の調整が目的で設置されたものである。

そして特定扶養親族は、平成元年に教育費等の支出がかさむ世代の税負担の軽減を図る見地から、高校入学から大学卒業を念頭に、16歳から22歳までの扶養親族(特定扶養親族)に対して扶養控除に一定額の上乗せする目的で設置されたものである。

どちらも担税力に応じた課税が目的であり正当であることはいうまでもない。

2.立法手段と立法目的との関連性

扶養控除は、扶養している親族がいる場合に所得から一定額を控除し、特定扶養控除は扶養している親族が特定扶養親族である場合は控除額を上乗せするものであり、立法目的と合理的関連性が認められる。

3.平成22年税制改正

平成22年税制改正により、扶養控除の対象となる扶養親族が16歳以上の者になるとともに、扶養控除の上乗せがされる特定扶養親族が年齢19歳以上23歳未満の者となった。

4.失われた合理的関連性

16歳未満の親族の扶養控除がなくなるのは、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の目的を達成することができなくなることであるから、立法目的との合理的関連性が失われたといえる。ただし、「控除から手当へ」の考え方から子ども手当が支給されることにしたので、子ども手当の支給要件児童とみなされる扶養親族に対する扶養控除の廃止は正当な理由が認められる。

しかし、この子ども手当の支給要件児童は15歳に達する日以後の最初の3月31日までと規定されていることから、同じ年に出生しても4月1日以前に出生したものと4月2日以降に出生したもので子ども手当の終了が1年違う。これを12月31日時点の年齢に置き換えると遅生まれは15歳まで子ども手当の支給対象であるから15歳未満の扶養控除の廃止は正当な理由があると言えるが、早生まれは14歳までしか子ども手当の支給対象ではないから15歳の早生まれの子に対する扶養控除が廃止されたことに正当な理由がない。

そうすると平成22年改正で所得税法2条34の2の控除対象扶養親族の規定に15歳の早生まれの子が含まれない部分は、それまでの扶養控除の趣旨と適合せず、合理的関連性が失われたといえるので憲法14条1項に反したものというべきである。

同様に18歳未満の扶養親族の特定扶養控除がなくなるのは、教育費等の支出がかさむ世代の税負担の軽減を図る見地から創設された特定扶養控除の目的を達成することができなくなることであるから、立法目的との合理的関連性が失われたといえる。ただし、高校無償化制度の創設により就学支援金が支給されることとしたので、高校生とみなされる年齢の扶養親族に対する特定扶養控除の廃止は正当な理由が認められる。

しかし、学校教育法によって義務化された子どもの就学年は、早生まれと遅生まれとで異なり、同じ年に出生しても4月1日以前に出生した者と4月2日以降に出生した者で義務教育を終える年が1年違う。その後ほとんどの生徒が高校に進学することを踏まえると、12月31日時点で遅生まれが高校生である標準的な年齢は16歳から18歳となるが、早生まれは15歳から17歳である。そうすると遅生まれは12月31日時点で18歳の時に就学支援金の支給対象であるから18歳未満の特定扶養控除の廃止は正当な理由があると言えるが、早生まれは12月31日時点で18歳の時に就学支援金の支給対象外になるので18歳の早生まれの子に対する特定扶養控除が廃止されたことは正当な理由がない。

そうすると平成22年改正で所得税法2条34の3の特定扶養親族の規定に18歳の早生まれの子が含まれない部分は、特定扶養親族の創設の趣旨に適合せず、合理的関連性が失われたといえるので憲法14条1項に反したものというべきである。

5.原判決の釈明に対する指摘

原判決では上記について「人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に照らしても、前記(2)のような「控除から手当へ」という、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえれば、かかる解釈が扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではない」としている。

しかしながら、前記4で示した通り、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえても、それらが及ばない部分があり、15歳の早生まれの子に対する扶養控除と18歳の早生まれの子に対する特定扶養控除子ども手当や就学支援金の給付がないにもかかわらず廃止されているのが事実であるから、その部分は扶養控除や特定扶養控除の趣旨に適合しなくなっているのは明らかである。

6.小括

 このように扶養控除が子ども手当に置き換わったものでないとすれば、平成22年改正は、従来の扶養控除や特定扶養控除の趣旨に適合しなくなる部分があり、15歳の早生まれの子に対する扶養控除と18歳の早生まれの子に対する特定扶養控除は代替となる給付もないので正当な理由がなく廃止されたものであるため、この部分は明らかに不合理であり憲法14条1項に違反するというべきである。

7.原告の主張を採用しなかった理由

 原判決で、原告の主張した立法目的を採用せず、所得税所得再分配機能の回復等だけが目的であるとしたのは、その解釈で扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではないからとのことだが、前記4ないし5で述べた通り扶養控除や特定扶養控除の趣旨に適合しない部分が存在することは事実であり、かかる解釈では扶養控除の趣旨に適合しなくなるといえる。

 そうすると、原告の立法目的を採用しなかった理由は誤りであることになるから、原判決は立法目的の解釈を誤っているというべきである。

おわりに

 生年月日は、性別や人種と同じように優劣のない個人属性のひとつである。また子の誕生日が1月2日から4月1日の間にあることは、親の不備でも過失でも欠陥でも不具合でもない。そして子ども手当終了の年の差異も義務教育終了の年の差異も国が法律で定めたものであり、納税者の事情によるものは一切ないから、早生まれであることだけを理由に、公平に扱われるべき待遇の対象外になるのは理不尽である。

 本件の不平等は、過去の国会でも何回か追及されているほか、毎年税理士会の建議書にも是正が提案されているが、一向に改善されない不合理であり、昨今SNSでも「早生まれ損」とか「早生まれバグ(不具合の意)」と呼ばれ不満や改善要望が強く叫ばれている。

 少子化問題など子どもをめぐる問題が深刻さを増すなか、国民はいつ子どもを設けても平等に扱われることを当然のことと期待しているし、国もまたそれを保証する責務がある。また国民は、仮に誤って不平等な扱いとなる法律ができても、然るべき仕組みで正当に是正されることも当然に期待しているし、国もまたそれに応える責務がある。だからこそ国民に託された強力な司法の権力は国民のために行使されることを切望していることを述べる。

最後に裁判官をはじめとする裁判所の皆様と被控訴人の皆様に感謝の意を表して本書の主張を終わる。

 

以上

 

 

対所得税判決の感想

 敗訴してしまい応援してくださる方には申し訳ないですが、そうそう違憲判決はでないですね。

 さて、判決理由ですが、基本的に被告の主張を採用した文面になっています。被告の準備書面を読んだ時には、よくわからない文章でしたが、裁判官の取りまとめた文章はさすがですね。

 

以下、対所得税判決の感想を赤色もしくは緑色で書きます。黒色は判決文の理由(抜粋)です。

 

2 争点(2)(本件各通知処分の適法性(本案の争点))について

 

(1)判断枠組み

 

 憲法14条1項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら上記規定に違反するものではないと解される。

 ところで、租税は、国家の財政要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国氏の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とするから、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、親判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうすると、租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、憲法14条1項の規定に違反するものということはできない(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。

 

(原告のコメント)

これは定型文章です。租税法と平等権が争われる裁判の判断基準として必ず引用される大島訴訟の判例です。要するに合理性の基準で判断しますということが書かれています。

 

(2)平成22年改正の経緯等(乙8)

 

 扶養控除は、自己と生計を一にする一定の所得金額以下の親族(扶養親族)を有する場合に、その人数等に応じて納税者の担税力調整を行う趣旨で設けられているが、この扶養控除などの所得控除制度は、課税対象となる所得から一定額を差し引くものであり、この制度による税負担軽減額は、基本的には、この一定額に各々の納税者に適用されている限界税率を乗した額となる。

 したがって、累進税率を採用している所得税においては、高所得者に適用される限界税率が高いことから、所得控除制度による高所得者の負担軽減額は相対的に大きくなる一方で、低い税率の適用される低所得者の負担軽減は相対的に小さくなる。

 平成22年度税制改正大綱においては、このように高所得者に有利な面がある所得控除について、一律の税額控除に変えれば、限界税率の低い低所得者ほど所得比で見た負担軽減効果が大きな仕組みになり、あるいは、手当に変えれば、定額の給付であることから相対的に支援の必要な人に実質的に有利な支援を行うことができるとされ、所得税改革の方向性の一つとして、所得税所得再分配機能の回復等の観点から、所得控除から税額控除や手当等への転換を進めること(「控除から手当へ」)が挙げられた。

 平成22年改正においては、こうした所得税改革の方向性を踏まえ、支え合う社会づくりの第一歩として、子どもの養育を社会全体で支援するとの観点から、子ども手当の創設とあいまって、年少扶養親族に対する扶養控除が廃止されるとともに、公立高等学校の授業料の無償化等に伴い、16歳以上19歳未満の特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分が廃止された。

(原告のコメント)

税制改正の解説資料の転載です。私の主張でも引用していますし改めて感想はありません。

 

(3) 平成22年改正の立法目的について

ア 前記(2)のとおり、平成22年改正の立法目的は、高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ることにあるといえ、この立法目的は、正当である。

イ  これに対し、原告は、平成22年改正の立法目的は、子ども手当の支給対象である扶養親族に対する扶養控除を廃止し、就学支援金の支給対象である扶養親族に対する扶養控除額の上乗せ部分を廃止することにあり、このように解しなければ、平成22年改正の立法目的は人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に適合せず、正当性を欠く旨主張する。

 しかし、平成22年改正の立法目的は、前記アのとおりであって、それ以上に、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。そして、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に照らしても、前記(2)のような、「控除から手当へ」という、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえれば、かかる解釈が扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではない。

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

(原告のコメント)

この裁判所が認定した立法目的には不備があるように思います。所得税の改正では増税になるだけで支援を行うのは子ども手当制度の創設と高校無償化制度の創設です。またこの立法目的ではだれを対象に増税するのか定まらず、年少扶養控除の廃止と高校生の特定扶養控除の廃止をした立法手段と関連性がありません。

 ところで、私が注目した文は、こちらです。

個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。

この文は正しいのですが、文の前方にこんな言葉(緑色)が隠れているのではないでしょうか。

平成22年当時の政府の政策は、扶養控除等の廃止と子ども手当制度の創設・高校無償化制度の創設によって、扶養親族が中学校卒業後、高校を3年、大学を4年で卒業することを念頭に、中学生以下に相当する年齢の子の扶養控除と、高校生に相当する年齢の子の扶養控除額の上乗せ部分の廃止し、その部分を子ども手当や就学支援金の支給に転換することで所得再分配機能を回復させることを目的としているが、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。

この緑色の文の部分を立法目的として主張する予定ですが、これが認められれば、結論が変わるような気がします。なぜなら国は遅生まれの扶養親族が中学卒業後、高校を3年、大学を4年で卒業することを念頭に立法しているからです。

 

(4) 本年齢規定のうち早生まれ除外部分が平成22年改正の立法目的との関係で著しく不合理であることが明らかといえるかについて

 

ア  平成22年改正により、本件年齢規定に基づき共養控除がされるようになったことで、18歳以下の子を扶養する子育て世帯において、扶養控除の一部廃止に伴う不利益が生じることとなったが、その不利益は、低所得者高所得者に比して小さく(前記(2))、一方で、上記世帯において、子ども手当や就学支援金制度による定額給付拡充の恩恵を受けられることとなったから、本件年齢規定は、所得税所得再分配機能の向上に資するものといえ、前記(3)の平成22年改正の立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえない。

(原告のコメント)

裁判所が認定した立法目的が正しいのなら、こうなりますね。

ただし上記世帯の部分は「18歳以下の子を扶養する子育て世帯」ではなく「18歳の高校生以下の子を扶養する子育て世帯」ですよね。

イ  これに対し、原告は、本年齢規定のうち早生まれ除外部分について、早生まれの子につき、子ども手当や就学支援金の支給対象外にもかかわらず、一般の控除対象扶養親族や特定扶養親族に該当しない場合があることは、上記立法目的との間で合理的関連性がない旨主張する。

 

 しかし、前記(3)イのとおり、平成22年改正は、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。また、本件年齢規定の文言上、扶養親族が一般の控除対象扶養親族及び特定扶養親族に該当し得る回数につき、同一学年の早生まれの者と運生まれの者との間で差異を設けているものではない。すなわち、例えば、早生まれの者が高等学校卒業後、大学受験のために浪人をした場合や大学で留年した場合、大学卒業後、大学院に進学するなどしてすぐに就職せず、一定額以上の収入を得なかった場合などであれば、その者と同一学年の遅生まれの者が高校卒業後すぐに大学に進学し、留年せずに大学を卒業した後すぐに就職して一定額以上の収入を得た場合と、特定扶養親族に該当する回数は同じになるのであり、こうして見ると、原告が主張する早生まれの子を扶養する納税者の不利益は、所得税法85条3項の規定する基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎないといえ、かかる不利益は、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨から当然に予定されているものといえる。

(原告のコメント)

比較するときは条件をそろえるのが鉄則ですが、条件を変えれば同じになるという理屈が通ってしまうのがこの世界らしいです。しかし抗っても無駄なことは経験済みです。

そして、所得税法においては、暦年を課税年度とし、課税標準の計算も暦年単位で行っていること、同法85条3項は、一般の控除対象扶養親族又は特定扶養親族に該当するかどうかの判定をその年の12月31日の現況により一律的に行う旨を定めており、これが特段不合理とはいえないことからすれば、本件年齢規定について、徴税の便宜や所得税法の各規定との整合性の観点から、暦年を基準として規定したことが、平成22年改正の立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかとまでは認められない

(原告のコメント)

出ましたね「一律的」。所得税法の原文にそんな単語は書いてないですけどね。

前の寡夫控除の裁判で「一律的に所得制限を設けている」って言葉が平然と使われてて日本語的にどうなの?制限したら一律じゃないじゃんと思いましたけどこの世界では市民権を得ている言葉のようです。一律的って書いてあると公平・平等な感じがしますものね。

裁判は言葉遊びだよ by 法学部出身の息子

(なお、原告は、本件年齢規定に早生まれの者を含めなかったとしても徴税コストは抑制されるわけではない、本件年齢規定に早生まれの者を含めても所得税法85条3項との整合性は維持できるなどとも主張するが、所得税法における諸規定を暦年に基づいて規定することは、過誤の減少等につながり、徴税の便宜に資するし、本件年齢規定に早生まれの者を含めることによって所得税法85条3項が暦年を基準として規定されていることと整合しなくなるのは明らかであるから、原告の上記主張は理由がない。)。

(原告のコメント)

「暦年に基づいて規定することは、過誤の減少等につながり」って、前世紀ならともかくコンピューターが生年月日から自動判定する現在では間違う余地がないように思います。たぶんここは意味がないことを知りながらも控訴審で必要以上に噛みつきます。SEなので。

また原審では「整合しないと何か困るのか?」的な反論(正確には徴税上の利益が存在しない事を主張)をしたのですが裁判所としてはどうでもいいようです。裁判所の言うような「一律的」な年齢で早生まれ問題を対応する案も税理士会から提案されているので控訴審で提出しましょう。でもここは問題の本質ではないんだよなぁ。

裁判は言葉遊びかも by 私

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

 

 そのほか、原告は、本件年齢規定のうち早生まれ除外部分の合理性につき、扶養親族が19歳未満である間に平成22年改正が施行された場合、当該扶養親族が早生まれのときは、遅生まれのときと比較して、当該扶養親族が一般の控除対象扶養親族又は特定扶養親族に該当する回数が1回少なくなるとか、本件年齢規定のうち早生まれ除外部分は独立行政法人日本学生支援機構による給付奨学金の家計基準の審査にも影響を及ぼしているなどとも主張するが、かかる主張により、当裁判所の上記判断が左右されるものではない。

(原告のコメント)

早生まれの子を1年多く扶養するというように条件をそろえなければ適用回数が同じになることを判断の根拠にしていながら、早生まれの子を1年多く扶養するという条件であっても切替の影響により実際には1回少なくなっているのが事実であることは根拠にならないそうです。

長年温めてきたこの言葉を使う時がやってきました。「牽強付会である。」

まぁ高裁の裁判官がこの手の反論を聞くことはないんですけどね。

 

 

(5) 小括

 

以上のとおり、本件年齢規定のうち早生まれ除外部分は、憲法14条1項に反しないから、本件が、原告の平成29年分の所得税等との関係で一般の控除対象扶養親族に、令和2年分の所得税等との関係で特定扶養親族にそれぞれ該当しないとしてされた本件各通知処分は、いずれも適法である。

 

3  結論

 

 したがって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

(原告のコメント)

判決理由は大変勉強になりました。少しモヤが晴れたように思います。ありがとうございます。控訴審は一発勝負、頑張ります。

 

最後に、判決を受け、こんな気持ちが強くなりました。

 

「生年月日は、性別や人種と同じように優劣のない個人属性のひとつです。子の誕生日が1月2日から4月1日の間にあることは、親の不備でも過失でも欠陥でも不具合でもなく、早生まれであることだけを理由に、公平に扱うべき待遇の対象外になるのは平等原則に反していると考えます。」

 

ちなみに書いてませんが、争点(1)の本件通知処分の取消し訴訟の適法性については、国の主張は採用されず、原告の主張が採用されました。

これで通知処分の取消し訴訟の原告側に総額主義は採用されないという裁判例ができました。控訴審でこの点を国が覆しにくることはないと思っています。

この点は、税務関係者だと興味のあるところかもしれませんので、そのうち掲載します。