提出した控訴理由書を公開します。
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事件番号 令和6年(行コ)第29号
各更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件
控訴人 sakurahappy
被控訴人 国(処分をした行政庁:川崎北税務署長)
上記事件について、控訴人は次のとおり控訴理由を述べる。
東京高等裁判所第4民事部イ係 御中
控 訴 理 由 書
令和6年3月21日
控訴人 sakurahappy 印
はじめに
本書では、まず原判決の内容を整理し、立法目的の特定をはじめとした誤りを指摘する。そして前提となる考え方を整理した上で、改めて本件年齢規定の立法目的を示し、立法手段との関連性から本件年齢規定に憲法14条1項の違反がある旨を述べる。なお、新たな主張の要点は以下の通りである。
新たな主張の要点
平成22年税制改正の目的は以下であるとの主張に変更する。
「平成22年税制改正の目的は、扶養控除から子ども手当への切り替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切り替えを実現させるための所得税法側の措置として、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族を特定扶養親族の対象外とするように講じることである。」
なお原審では同じ学年の早生まれと遅生まれを比較した場合の不利益を主張していたが、本書では同年に出生した早生まれと遅生まれを比較した場合の不利益を主張し不合理を明らかにする。
第1 原判決の整理
まず原判決の内容を整理するため、平成22年の税制改正の内容(立法手段)とその立法目的、そして立法目的と立法手段の関連性について原判決から引用する。
1.平成22年税制改正について
平成22年法律第6号による改正前の所得税法においては、扶養控除の対象となる扶養親族につき年齢の制限はなく、特に年齢16歳以上23歳未満の扶養親族を「特定扶養親族」とした上で扶養控除額の上乗せをする旨が定められていたが、平成22年法律第6号による改正により、扶養控除の対象となる扶養親族(控除対象扶養親族)が年齢16歳以上の者になるとともに、扶養控除額の上乗せがされる特定扶養親族が年齢19歳以上23歳未満の者となった(以下、この改正を「平成22年改正」という)。(原判決2頁20行目)
2.原判決が認定した立法目的
原判決では「平成22年改正の立法目的は、高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税の所得再分配機能の回復等を図ること。」(原判決10頁17行目)であるとした。
なお、税制における所得再分配機能については、学術上「累進所得税などにより高所得者には重く課税し、低所得者には軽く課税または免税することを通じて、資本主義経済の下で分配された所得や資産の格差(貧富の格差)の拡がりを是正すること(甲32号)」と定義されており、そうすると所得税の所得再分配機能の回復を図ることとは、課税を通じて格差の是正を図ることであり、給付によって国民生活の安定を図ることまでは含まれない。
3.原判決が否定した立法目的
原判決では、「それ(前記の目的)以上に、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。そして、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に照らしても、前記のような、「控除から手当へ」という、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえれば、かかる解釈が扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではない。」として原告の主張(正確には原告の意図していない主張)を否定している。
この1文目については解釈が固定できない。なぜなら「それ以上に目的はない」とはせず「~まで目的とするものではない」としているが、「それ(所得税の所得再分配機能の回復等)以上(の目的)」と後半に記載された目的が同列ではないし、原判決のいう所得税の所得再分配機能等に格差の是正以上の意味があると解された場合は、最後に何を否定しているのか明らかといえないからである。例えば「扶養控除の廃止までは目的だが手当の支給は目的ではない」とも解せるし、「一般的な納税者に対して引き換えは目的だが、特殊な事情のある個別の納税者にまで正確に控除と手当てを引き換えることまでは目的としていない」とも解せるほか、認定した目的が格差の是正だけであるなら「控除から手当へ」転換することは目的としていないとも解すことができる。
そこで控訴人は「様々な事情を持つ全ての納税者に対し控除と引き換えに手当を支給することまで目的とするものではない」と解釈し主位的主張をするが、「控除から手当へ」の転換をねらったものではないと解釈した場合の予備的主張を第5の章で行う。
4.立法目的と立法手段の関連性について
原判決では本件年齢規定について「平成22年改正により、本件年齢規定に基づき扶養控除がされるようになったことで、18歳以下の子を扶養する子育て世帯において、扶養控除の一部廃止に伴う不利益が生じることとなったが、その不利益は、低所得者が高所得者に比して小さく、一方で、上記世帯において、子ども手当や就学支援金制度による定額給付拡充の恩恵を受けられることとなったから、本件年齢規定は、所得税の所得再分配機能の向上に資するものといえ」る(原判決11頁11行目)として立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえないとしている。
5.小括
原判決では、平成22年改正の目的は所得税の所得再分配機能の回復等を図ることであり、本件年齢規定は所得税の所得再分配機能の向上に資するものであるから著しく不合理であることが明らかであるとはいえず憲法14条1項に違反するものではないとしている。
第2 原判決が認定した立法目的の誤り
原判決の最大の誤りは、立法目的の認定である。
まず「租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なもの」であることとした昭和60年大法廷判決に照らすと、扶養親族の年齢で取扱いを区別するのであれば、その年齢で区別した目的が何かを示し正当性を審査するべきといえる。そうでなければ、正当な目的のない区別によって一部の納税者に不当な税を強いることになるからである。
さて本件は年齢規定の憲法適合性を問うものであるが、本件年齢規定について原判決では、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではなく、立法目的は、所得税の所得再分配機能の向上等であって、それ以上の目的はないとしている。
しかしながら本件年齢規定のひとつである控除対象扶養親族の年齢規定は、16歳未満の子を扶養する納税者と16歳以上の親族を扶養する納税者を区別する規定なのであって、原判決の認定した立法目的ではこの年齢で区別する理由(目的)が示されていない。
この点、徴税効率の観点から、特殊な事情がある納税者に対して控除と手当を引き換えるものではないとしても、所得税法では扶養親族等の年齢規定はその親族の年齢から属性や性質をみなして区別するという方式が採用されていることを踏まえると、「控除から手当へ」の転換が進められて子ども手当の創設にあいまって扶養控除が見直されたこと(甲6号)や、税制調査会で「15歳以下のところは、扶養控除は廃止して手当に変える」と説明がされていたこと(甲24号32頁)、また子ども手当が15歳に達する日以後の最初の3月31日までと規定されていること、これらの事実から、控除対象扶養親族が16歳以上と定められたのは、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族の扶養控除を廃するためであったことは否定できないし、この年齢による区別を説明できる合理的な理由が他に存在しない。
そうすると所得税法2条34の2の控除対象扶養親族の規定の趣旨(目的)は、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族の扶養控除を廃止して、そうではない扶養親族については従来通り控除対象とすることであるし、また特定扶養親族の年齢規定についても同様に、同法2条34の3で特定扶養親族の年齢規定が改定された趣旨(目的)は、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族の上乗せ控除を廃止することであるといえる。
なお、原判決の立法目的についての説明には原告主張の見落とし、理由の不備、理由の食い違いがあるので付言する。
・原告主張の見落とし
原判決は、原告の主張する立法目的として「子ども手当の支給対象である扶養親族に対する扶養控除を廃止し、就学支援金の支給対象である扶養親族に対する扶養控除額の上乗せ部分を廃止すること」としている(原判決10頁22行目)が、原告の主張は「所得控除から手当へ」の観点から、子ども手当の創設とあいまって子ども手当支給要件の年齢に相当する親族に対する扶養控除を廃止することと(令和5年4月10日付原告準備書面5頁24行目)、高校無償化に伴い高等学校就学支援金の支給対象の年齢に相当する親族に対する扶養控除の上乗せ控除を廃止すること(同6頁14行目)であって、全ての納税者に対して控除と手当を引き換えにすることまでが目的である旨は主張していない。
・理由の不備
原判決は平成22年改正の目的に、所得税の所得再分配機能の回復等を図ること以上の目的はないとしている。そして「それ(原判決が示した立法目的)以上の目的」として「個別の納税者に対して控除と手当を引き換えること」を示し、そのような目的はないとしているが、その理由は、なくても扶養控除の趣旨と整合しないことはないとしているにとどまり、それ以上の目的自体を否定する理由は付記されていない。もっとも徴税効率の観点から特殊な事情を持つ納税者にまで応じる目的はないと解されるが、そうであれば、年齢から支給対象をみなして控除を廃する目的まで否定することはできないというべきである。
・理由の食い違い
納税者の特殊な事情に応じてまで控除と手当の引き換えはないにしても、支給対象とみなされる者の控除を廃することは「控除から手当へ」の転換のための措置であり、この転換がなければ人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に適合しなくなる。ところが原判決は所得税の所得再分配機能の回復等以上の目的はないとしながら、「控除から手当へ」という、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえれば扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではないとしている。
そうすると原判決の説示は、平成22年改正に「控除から手当へ」転換するための措置を講じる目的はないが、それでも扶養控除の趣旨に適合しなくならないのは平成22年改正で「控除から手当へ」の措置を講じて転換しているからであるということになり理由が食い違っているといわざるをえない。
第3 原判決のその他の問題
その他、原判決の問題(不当な部分)について以下に示す。
1.立法目的が「等」と表現されていること
立法目的として「所得税の所得再分配機能の回復等を図ること」としている。しかし、「等」としているのは他にも目的があるということであり、それらを明らかにしなければ目的の正当性は判断できない。しかも「それ(所得税の所得再分配機能の回復等)以上の目的はない」とも表現しており、等が何かを明らかにしなければ、「ない」とされる目的も明らかにならず、正確な解釈ができないため「等」を使った目的は適切ではない。
2.広範な立法目的では違憲審査が意味をなさないこと
広範な立法目的を特定すると違憲審査が意味をなさないが、所得税は従来、所得再分配機能を備えており、その機能を回復させるという目的は広範すぎるというべきである。また平成22年改正による効果は納税者全体にかかるものではなく、一部の納税者に限定して所得税の所得再分配機能の回復をねらうものであるから、立法目的と立法手段が釣り合っていないというべきである。
3.子ども手当や就学支援金の支給は学術上の所得税の所得再分配機能と関係ないこと
原判決では「子ども手当や就学支援金制度による定額給付拡充の恩恵を受けられることとなったから、本件年齢規定は、所得税の所得再分配機能の向上に資する」として立法目的と手段の関係を述べているが、学術上の定義によれば所得税の所得再分配機能に給付部分は含まれていないから、定額給付拡充の恩恵と所得税の所得再分配機能の回復は関係がなく、理由と結論が食い違っている。
また、そもそも子ども手当や就学支援金の支給は平成22年の税制改正によって実現されたものではないから、それらの支給までも税制改正の目的と解するのは誤りである。
4.子ども手当や就学支援金は連携して不利益を補うものではないこと
原判決では立法目的と立法手段の関連性について、「子ども手当と年少扶養控除の転換」と「就学支援金と特定扶養控除の転換」の政策を分けずに「18歳以下の子を扶養する子育て世帯において、扶養控除の一部廃止に伴う不利益が生じることとなったが、その不利益は、低所得者が高所得者に比して小さく、一方で、上記世帯において、子ども手当や就学支援金制度による定額給付拡充の恩恵を受けられることとなった」とし、扶養控除見直しによる不利益は子ども手当と就学支援金で全て解消されているかのように述べられている。
しかしながら、子ども手当制度と就学支援金制度はそれぞれ独立した制度であり、また就学支援金には「扶養控除を廃止した代わりに支給する」という趣旨はなく、就学支援金は、早生まれの15歳の子を扶養する納税者が被る不利益を補うことを目的としていない。これは就学支援金制度に子ども手当制度や早生まれの扶養控除との関係を考慮して改廃を制限するような取り決めがないことからも明らかである。
そうすると18歳以下の子を扶養する世帯において扶養控除見直しの不利益が子ども手当と就学支援金の2つの制度の総合的支援によって解消されているかのような原判決の論理は、各制度の趣旨を正解したものではないというべきであり、「子ども手当と年少扶養控除の転換」と「就学支援金と特定扶養控除の転換」を取り交ぜた原判決の理由は当を得ないというべきである。
また、遅生まれの高校1年生が扶養控除と就学支援金を受けられることに対し早生まれの高校1年生が就学支援金しか受けられないという不公平は総合的支援でも解消していないし、基本的に18歳の早生まれの子は就学支援金の支給対象に相当せず恩恵は受けていないので、そもそも原判決は前提を誤っているというべきである。
5.上位政策の目的と税制改正の目的が切り分けられていないこと
原判決が特定した立法目的の「所得税の所得再分配機能の回復等」には、格差の是正以外にも子ども手当や就学支援金の支給による子育て世帯への定額給付についても述べられており、これらの給付も目的に含まれているように解される。しかし、手当てと就学支援金の支給は子ども手当制度と高校無償化制度の創設によって実現されたもので、これらは扶養控除の見直しを含めて上位の政策目的を達成するための施策であるから、原判決は上位政策の目的と施策、そして平成22年改正の目的を混同しているといわざるをえない。
この点については、原審での原告の主張も不十分であったから、本書第4の4で改めて主張するが、子育て支援の拡充も高校無償化も格差是正も上位政策の目的であって、平成22年改正はこれらの政策を実現するための税制側の措置を講じたものであるから、原判決の目的認定は誤りである。
6.年齢規定が暦年課税と整合的である旨が空理空論であること
暦年課税をめぐる原判決の説示には誤りがあるため以下に指摘する。
(1)暦年課税の考え方と概算的扶養控除
暦年課税とはその年の収入からその年の経費を差し引いて課税対象の所得とする考え方である。扶養控除についてはその年に扶養していた人数に応じて概算的に所得控除するものである。
(2)所得税法第85条3項の趣旨
所得税法第85条3項で扶養親族の判定を「その年の12月31日の現況による」とした趣旨は、徴税効率の観点から、基準日(12月31日)時点の状況がその年の扶養状況であるとみなすというものである。
(3)基準日が12月31日である必要はないこと
基準日での状況をその年の扶養状況とみなすという考えであるから、その状況は年初や年度末、中間日等でも暦年課税の考え方に反するものではなく、12月31日だけが暦年課税の考え方と整合的ということはないし、実際に基準日として規定されている日付は12月31日に限られていない。
一例をあげると、暦年課税である地方税法の584条4項では特別土地保有税が非課税となる土地であるかの判定として「1月1日または7月1日の現況によるものとする」と規定している。このように現行法の規定は12月31日以外が基準日であっても暦年課税の考え方を逸していないことを裏付けている。
(4)所得税法85条3項の趣旨を誤っていること
原判決では「同法85条3項は、一般の控除対象扶養親族又は特定扶養親族に該当するかどうかの判定をその年の12月31日の現況により一律的に行う旨を定めており」としているが、立法経緯を分析しても「一律的に行う」ということまでの趣旨はない。
つまり85条3項は12月31日の現況によって判定することが趣旨であって、それ以上に生年月日等を要件として設置することを制限する趣旨はない。そうすると「本件年齢規定に早生まれの者を含めることによって所得税法85条3項が暦年を基準として規定していることと整合しなくなるのは明らか」という説示は、そもそも85条3項は法律要件にそのような整合性を要求する趣旨がないのであるから当を得ないというべきである。
(5)一律的な年齢での判定も可能なこと
もしも所得税法85条3項に一律的に行う趣旨があるとした場合でも、北陸税理士会が提案しているように控除対象扶養親族は一律的に15歳9ヵ月以上と定める方法(甲33号)も可能であるから、年齢の規定は一律的でなければならないとする主張は、早生まれに対する措置を講じないことを正当化する理由にはならないというべきである。
(6)実務では生年月日の範囲で判定していること
控除対象扶養親族や特定扶養親族の判定は、実務上12月31日時点の年齢ではなく、生年月日がどの範囲に含まれるかで判定(甲20号)しているから「所得税法における諸規定を暦年に基づいて規定することは過誤の減少等につながる」というのは根拠がないというべきである。
(7)現行の規定は過誤の減少効果よりむしろ過誤を誘発していること
原判決は「所得税法における諸規定を暦年に基づいて規定することは過誤の減少等につながり、徴税の便宜に資する」と説示するが、一般の納税者からすれば、子どもが高校生になったのであれば、子ども手当(児童手当)の支給がなくなる年齢になったのであるから扶養控除が適用されると考えるのは当然であり、逆に扶養控除をつけようとして過誤を誘発をしている可能性も否定できないし、その年になって早生まれだけが扶養控除が適用されない事実を知れば不満を抱くのは当然である。
実際に税の専門家であっても早生まれの高校1年生に扶養控除を適用しようとした例(甲34号)もあり、本当に過誤の減少につながっているとはいえないし、前述したように扶養控除の判定は生年月日から判定していて、今日ではコンピューターが生年月日から自動で判定しているから納税者が間違う余地がないというのが実情である。そうすると原判決が説示するような過誤の減少に資することはないばかりか、納税者の混乱と不満を招いており、過誤や現場でのクレーム対応が発生するなど徴税効率が低下する可能性は否定できないというべきである。
(8)条文作成の技術的な問題であること
結局のところ、所得税法85条3項に要件を制限するまでの趣旨はなく、出生の月日を要件に含めたり、月齢を要件にしたり、年齢ではなく生年月日の範囲を要件にするなど、暦年課税の考え方を欠くことなく立法目的が達成されるように条文を作成することは可能であって、原判決が早生まれに対する措置を講じていない理由として挙げたものは、所詮、条文作成の技術的な問題にすぎないから、原判決が述べた理由は当を得ないというべきである。
7.比較検証の方法に誤りがあること
2つの事柄(待遇)の同一性を比較する際は、他の条件をそろえることが鉄則である。しかし、原判決では「早生まれの者が高等学校卒業後、大学受験のために浪人をした場合や大学で留年した場合、大学卒業後、大学院に進学するなどしてすぐに就職せず、一定額以上の収入を得なかった場合」と「同一学年の遅生まれの者が高校卒業後すぐに大学に進学し、留年せずに大学を卒業した後すぐに就職して一定額以上の収入を得た場合」を比較して同じだとしている。そうなると条件を変えて比較しなければ結果が同じならないということは、両者は同一の待遇ではないということであるから、原判決の比較検証結果は経験則に反するというべきである。
しかも不利益は4年制の大学を卒業して就職したというケースだけではなく、高卒で就職するケースや短大や専門学校を卒業後に就職するケース等、早生まれと遅生まれで進級進学就職の事情が同じであれば、中学卒業後にすぐに就職するケースを除く全てのケースで不利益は存在するのであり、この不利益は次項の(1)に述べるように扶養期間が長くなっても解消されることはないから、原判決は当を得ないというべきである。
8.早生まれの不利益の認識に誤りがあること
原判決では、控除対象扶養親族と特定扶養親族に該当する回数につき、早生まれの者の回数が少なくなることの不利益は「所得税法85条3項の規定する基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎないといえ、かかる不利益は、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨から当然に予定されているものといえる」としているが、不利益の認識を誤っているので指摘する。
(1)扶養控除の不利益
扶養控除の不利益は、子ども手当が支給されない15歳(12月31日時点)の早生まれの子が、その年に扶養控除も適用されないことによって生じるものである。この点、留年や浪人などで1年多く扶養されれば控除の回数は遅生まれと同じになるというが、それは1年多く扶養されることで必要になった扶養控除の適用を受けるだけであって、15歳の時に受けられなかった扶養控除の代替ではない。そうすると一定額の収入を得ずに扶養親族になったからといっても15歳の時の不利益が解消されるわけではないから、原判決の不利益の認識は誤っているというべきである。
(2)特定扶養控除の不利益
特定扶養親族は、もともと高校入学から大学卒業を念頭に教育費がかかる世代の負担を軽減する趣旨で設けられたが、平成22年改正で高校生の部分を就学支援金に転換したので、大学入学から卒業までの4年間を念頭に教育費の負担軽減を目的としたものであるといえる。
原判決の説明は「原告が主張する早生まれの子を扶養する納税者の不利益は所得税法85条3項の規定する基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎないといえ、かかる不利益は人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨から当然に予定されているものといえる」としている。しかし、この説明では特定扶養控除の回数を論じるのに扶養控除の趣旨の観点に論点がすり替わっている。本来、特定扶養親族を設置した趣旨からすれば、早生まれの子が大学1年で受けられないことも、早生まれの子が適用を受けるには留年や浪人など1年多く扶養されることが当然に必要となるという旨の論理も、道理がないというほかないし、その年の扶養状況に合わせて概算的に所得控除するという暦年課税の考え方からも逸するものである。
9.早生まれの不利益の原因は強いられたものであること
原判決は早生まれの不利益を「基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎない」と説示しているが、同じ年に出生した早生まれの子が遅生まれの子よりも1年早く就職して収入を得るようになるのは、4月1日以前に出生した子が1学年上になるよう保護者に子の就学を義務付けていることに起因する。(学校教育法施行規則第59条・学校教育法第17条)
学校教育法施行規則 第59条
小学校の学年は、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わる。
※中学校や高等学校等は59条を準用している。
学校教育法 第17条
保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。
② 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
そうすると義務教育課程終了後も遅生まれの子と早生まれの子の進学進級や就職の事情が同じなら早生まれの子は1年早く就職することになるから、早生まれの子の不利益が「基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎない」として断ずるのは誤りであり、被控訴人(国)が同じ年の4月1日以前に出生した子に1年早い就学を義務付けていることに応じた措置が講じられていないことが不利益の原因であるというべきである。
また子ども手当についても付言すると、子ども手当の支給は「15歳に達する日以後の最初の3月31日まで」と規定されているから、同年に出生した早生まれは遅生まれよりも1年早く手当の支給が終わることになる。不利益の原因は、この扱いの違いに応じた措置を講じていないことであるから、この点からも原判決の不利益の認識は誤っているというべきである。
10.小括
以上のとおり原判決には立法目的の特定をはじめとして多くの誤りがある。そうすると誤った立法目的を前提にした結論は誤りであるから、見直されるべきである。
第4 控訴人の新たな主張
ここからは前提となる考え方を示した上で、新たな主張を述べる。
1.所得税法における年齢規定の考え方
平成22年改正前より所得税法における扶養控除等の年齢規定は、年齢からその性質や属性をみなす方式を採用している。例えば老人扶養親族の控除は老人を扶養する場合にかさむ費用の負担を軽減する目的であるが、実際にかかる費用で判定はせず、年齢が70歳以上の扶養親族は老人としてみなしているし、特定扶養親族の控除(改正前)は高校入学から大学卒業までを念頭に教育費がかさむ世代の負担軽減を目的としたものであるが、実際に学生であるかどうかではなく、その扶養親族の年齢から教育費がかさむ世代であるとみなしている。これは徴税効率の観点から採用されたもので、平成22年改正においても年齢からその性質や属性をみなす方式が採用されたといえる。
2.所得控除の廃止による格差是正とその正当性
累進課税制度である所得税において扶養親族に対する所得控除は富裕層に有利に働くものであるから、扶養控除の廃止は格差是正の効果(所得再分配機能の回復効果)がある。しかしそもそも扶養控除には人的事情に基づく担税力の調整という趣旨があるから格差是正のために扶養控除を廃止すると人的事情に基づく担税力の調整という趣旨を失することになる。
つまり親族を扶養している以上、扶養にかかる費用が発生することで減少する担税力の調整は必要であるから、税額控除や手当等に転換せずに扶養控除を廃止することがあれば、それは正当性を欠くというべきである。
3.所得控除から税額控除や手当への転換の考え方
扶養親族の所得控除から税額控除や手当等に転換する目的は、支援の拡充と格差の是正をねらったものであるが、扶養控除を廃止するにあたっては、扶養親族を有する場合の担税力の調整という趣旨を維持する必要がある。そうすると、控除を廃止する対象と税額控除にしたり手当を支給したりする対象は基本的に一致させる必要が生じる。
なぜならこの対象が一致していないと扶養控除も税額控除や手当もない扶養親族が生じることになり、その親族を扶養する納税者が必要な担税力の調整がされなくなるので、扶養控除の趣旨を欠くことになるからである。
もっとも背景の異なる制度で完全に要件を揃え対象を一致させることは困難であるが、一定の条件を合わせることで両対象の整合を図ることができなければ、そもそも転換自体が成立しない。なぜなら両対象を一致させることを前提とせずに控除から手当への転換が進められると、扶養控除の趣旨と適合しない部分が生じ不当なものとなるからである。
そうすると本件の「控除から手当へ」の転換は、扶養控除から子ども手当への転換が扶養親族の年齢から子ども手当支給要件児童をみなす方法で整合を図れること、そして特定扶養控除から就学支援金への転換も扶養親族の年齢から就学支援金の支給対象生徒とみなす方法で整合を図れること、これらが「控除から手当へ」の転換という考え方の前提となっているということができる。
4.扶養控除の見直しは上位政策実現のための施策である
平成22年改正は、本書第3の5でも述べたように所得税法単独で行われたものではなく、上位政策の実現のための施策として講じられたものである。
当時の政権与党である民主党のマニフェスト(甲21号)によると本件に関連する政策は3つある。
(1)政策とその目的
ア.政策1:子ども手当の創設
まずは子ども手当の創設である。公約では「次代の社会を担う子ども一人ひとりの育ちを応援する観点から、所得税の扶養控除や配偶者控除を見直し、子ども手当を創設する。」としているが、「所得税の扶養控除や配偶者を見直す」という部分は「所得税と個人住民税の扶養控除を見直す」に変更されている(甲24号22頁)。
イ.政策2:教育無償化
次に教育無償化である。公約では「高等学校は希望者全入とし、公立高校の授業料は無料化、私立高校などの通学者にも授業料を補助する。」としている。
ウ.政策3:所得税改革の推進
3つめは所得税改革の推進である。公約では「相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、税額控除、手当、給付付き税額控除への切り替えを行い、下への格差拡大を食い止める。」としている。
(2)講じられた施策
上記政策を実現するための施策として、15歳に達する日以降の最初の3月31日までの子ども1人あたりにつき月額1万2000円の子ども手当を支給し、公立高校の高校生であれば月額9900円等の就学支援金を支給するとともに、「控除から手当へ」の考え方のもと、扶養控除の一部を子ども手当に切り替え特定扶養控除の一部を就学支援金に切り替えるための所得税法側と地方税法側の見直しが講じられている。
(3)扶養控除と特定扶養控除の見直しの目的
そうすると、平成22年税制改正の目的は、扶養控除から子ども手当への切り替えを実現するための所得税法側の措置として、子ども手当の支給要件児童とみなされる年齢の扶養親族を控除対象外とするように講じることと、特定扶養控除から就学支援金への切り替えを実現させるための所得税法側の措置として、就学支援金の支給対象とみなされる年齢の扶養親族を特定扶養親族の対象外とするように講じることである。
5.立法目的の正当性
平成22年改正は、前述したように子育て支援の拡充と教育費負担軽減そして格差の是正をねらいとした上位政策の施策である2つの転換(扶養控除から子ども手当への転換と特定扶養控除から就学支援金への転換)を実現させるための措置を講じることであり、子育て支援の拡充や教育費負担軽減、格差の是正はどれも正当な目的であるからその実現のための扶養控除の見直しも正当なものであるといえるし、従来の担税力の調整という趣旨を持つ扶養控除が廃止されることになっても、子ども手当や就学支援金に転換されることでその正当性は維持されているといえる。
6.立法目的と立法手段との関連性
(1)年少扶養控除の廃止について
まず年少扶養控除の廃止についてである。
子ども手当の支給要件は15歳に達する日以降の最初の3月31日まででと規定されている。そうすると同年に出生した者のうち4月2日以降に出生した者は(生まれた年を1年目として)17年目の3月31日まで支給されるのに対し、4月1日以前に出生したものは16年目の3月31日までしか支給されない。そうすると支給が終わる年の12月31日時点の年齢は、遅生まれが16歳であり早生まれは15歳である。(添付の図「同年に出生した早生まれと遅生まれの子ども(児童)手当と扶養控除の期間比較」参照)
そうすると子ども手当が支給されないとみなされる年齢は、遅生まれが16歳以上であるのに対し早生まれは15歳以上である。
しかし控除対象扶養親族の年齢規定は16歳以上であるから、遅生まれは子ども手当が終了した年から扶養控除が適用されるが、早生まれは手当が終了した次の年まで扶養控除を受けることができない。
このように早生まれの子については、子ども手当が支給されないとみなされる年齢が15歳以上となるから、所得税法2条34の2の控除対象扶養親族の規定に15歳の早生まれの子が含まれない部分は立法目的と関連性がなく憲法14条1項に違反するといえる。
(2)特定扶養控除の一部廃止について
次に特定扶養親族の一部廃止についてである。
就学支援金は高校生に支給されるものであるが、学校教育法の規定により同年に出生したとしても遅生まれの子と早生まれの子では中学校を卒業する年が1年早く、遅生まれの子は出生から17年目の3月31日で卒業させることを保護者に義務付けているのに対し、早生まれの子は16年目の3月31日で卒業させることを義務付けている。そしてほとんどの子が浪人することなく高校に進学するという事実を踏まえれば、高校生(就学支援金を受給している)とみなされる年齢(12月31日時点)は、遅生まれは16歳から18歳であり、早生まれは15歳から17歳である。
そうすると改正前に特定扶養親族とされていた年齢(16歳以上23歳未満)のうち、就学支援金が支給されないとみなされる年齢は、遅生まれが19歳以上であるのに対し早生まれは18歳以上である。
しかし改定された特定扶養親族の年齢規定は19歳以上23歳未満であるから、遅生まれは就学支援金の支給が終了した年から特定扶養控除が適用されるが、早生まれは就学支援金が終了した年に適用されず、1年後になる。
このように早生まれの子については、就学支援金が支給されないとみなされる年齢が18歳以上となるから、所得税法2条34の3の特定扶養親族の規定に18歳の早生まれの子が含まれない部分は立法目的と関連性がなく憲法14条1項に違反するといえる。
(3)租税公平負担原則の観点
なお、原判決では「同一学年の早生まれの者と遅生まれの者との間で差異を設けているものではない(原判決12ページ1行目)」としているが、整合を図るべき制度が遅生まれと早生まれを区別して取り扱っている以上、その扱いの違いに合わせて必要な措置を講じないことは「同じものを同じように扱い、違うものをその違いに応じて扱う」という租税公平負担原則に反するというべきであり、平成22年改正はしかるべき区別を怠っているというべきである。
7 本件各区別のうち不合理な部分による課税には納税の義務がないこと
本書では立法目的の主張を変更したが、それでも早生まれの15歳の子の扶養控除を廃して不当に課税された部分と早生まれの18歳の子の特定扶養親族の上乗せ控除を廃して不当に課税された部分はどちらも立法目的との間に合理的関連性がないから、これらの規定は憲法14条1項に反するものである。そうすると憲法に反する規定によって課税された部分については納税の義務がなく、原告が求めた更正の請求には理由があるので、更正すべき理由がない旨の各通知処分は取り消されるべきである。
第5 予備的主張
原判決の「平成22年改正の立法目的は、・・・個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない」について控訴人はその解釈を固定できないので、控訴人はこの説示を様々な事情がある全ての納税者に対して控除による課税額の軽減と給付金を転換することまでは目的としていないと解釈し、これまで指摘や主張をしてきた。
その理由は、平成22年改正の目的として控除から手当への転換政策を実現するための措置を講じるという目的が否定できなかったからであるし、子を扶養する場合に必要な支援には継続性が欠かせないという観点もあったからである。
加えて、扶養控除の見直しと子ども手当創設の結果、早生まれの15歳の子を除き、実質的に子を扶養する個々の納税者の扶養控除が子ども手当に置き換わっているし、またそれが想定と違うという評価もないことから、国が税制改正と子ども手当制度の創設によって、実質的に扶養控除が子ども手当に置き換わることをねらいとしていたことを否定することはできないからである。
そうはいっても、原判決の解釈を誤った場合に備え、本章では、「子ども手当は扶養控除の廃止に置き換わるものではないから、平成22年改正にそのような目的はない」と解釈して予備的な主張をする。
1.扶養控除と特定扶養控除の立法目的とその正当性
扶養控除は、憲法25条の生存権を保証するための最低生活費控除であり、昭和25年に親族を扶養している場合に低下する担税力の調整が目的で設置されたものである。
そして特定扶養親族は、平成元年に教育費等の支出がかさむ世代の税負担の軽減を図る見地から、高校入学から大学卒業を念頭に、16歳から22歳までの扶養親族(特定扶養親族)に対して扶養控除に一定額の上乗せする目的で設置されたものである。
どちらも担税力に応じた課税が目的であり正当であることはいうまでもない。
2.立法手段と立法目的との関連性
扶養控除は、扶養している親族がいる場合に所得から一定額を控除し、特定扶養控除は扶養している親族が特定扶養親族である場合は控除額を上乗せするものであり、立法目的と合理的関連性が認められる。
3.平成22年税制改正
平成22年税制改正により、扶養控除の対象となる扶養親族が16歳以上の者になるとともに、扶養控除の上乗せがされる特定扶養親族が年齢19歳以上23歳未満の者となった。
4.失われた合理的関連性
16歳未満の親族の扶養控除がなくなるのは、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の目的を達成することができなくなることであるから、立法目的との合理的関連性が失われたといえる。ただし、「控除から手当へ」の考え方から子ども手当が支給されることにしたので、子ども手当の支給要件児童とみなされる扶養親族に対する扶養控除の廃止は正当な理由が認められる。
しかし、この子ども手当の支給要件児童は15歳に達する日以後の最初の3月31日までと規定されていることから、同じ年に出生しても4月1日以前に出生したものと4月2日以降に出生したもので子ども手当の終了が1年違う。これを12月31日時点の年齢に置き換えると遅生まれは15歳まで子ども手当の支給対象であるから15歳未満の扶養控除の廃止は正当な理由があると言えるが、早生まれは14歳までしか子ども手当の支給対象ではないから15歳の早生まれの子に対する扶養控除が廃止されたことに正当な理由がない。
そうすると平成22年改正で所得税法2条34の2の控除対象扶養親族の規定に15歳の早生まれの子が含まれない部分は、それまでの扶養控除の趣旨と適合せず、合理的関連性が失われたといえるので憲法14条1項に反したものというべきである。
同様に18歳未満の扶養親族の特定扶養控除がなくなるのは、教育費等の支出がかさむ世代の税負担の軽減を図る見地から創設された特定扶養控除の目的を達成することができなくなることであるから、立法目的との合理的関連性が失われたといえる。ただし、高校無償化制度の創設により就学支援金が支給されることとしたので、高校生とみなされる年齢の扶養親族に対する特定扶養控除の廃止は正当な理由が認められる。
しかし、学校教育法によって義務化された子どもの就学年は、早生まれと遅生まれとで異なり、同じ年に出生しても4月1日以前に出生した者と4月2日以降に出生した者で義務教育を終える年が1年違う。その後ほとんどの生徒が高校に進学することを踏まえると、12月31日時点で遅生まれが高校生である標準的な年齢は16歳から18歳となるが、早生まれは15歳から17歳である。そうすると遅生まれは12月31日時点で18歳の時に就学支援金の支給対象であるから18歳未満の特定扶養控除の廃止は正当な理由があると言えるが、早生まれは12月31日時点で18歳の時に就学支援金の支給対象外になるので18歳の早生まれの子に対する特定扶養控除が廃止されたことは正当な理由がない。
そうすると平成22年改正で所得税法2条34の3の特定扶養親族の規定に18歳の早生まれの子が含まれない部分は、特定扶養親族の創設の趣旨に適合せず、合理的関連性が失われたといえるので憲法14条1項に反したものというべきである。
5.原判決の釈明に対する指摘
原判決では上記について「人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に照らしても、前記(2)のような「控除から手当へ」という、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえれば、かかる解釈が扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではない」としている。
しかしながら、前記4で示した通り、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえても、それらが及ばない部分があり、15歳の早生まれの子に対する扶養控除と18歳の早生まれの子に対する特定扶養控除は子ども手当や就学支援金の給付がないにもかかわらず廃止されているのが事実であるから、その部分は扶養控除や特定扶養控除の趣旨に適合しなくなっているのは明らかである。
6.小括
このように扶養控除が子ども手当に置き換わったものでないとすれば、平成22年改正は、従来の扶養控除や特定扶養控除の趣旨に適合しなくなる部分があり、15歳の早生まれの子に対する扶養控除と18歳の早生まれの子に対する特定扶養控除は代替となる給付もないので正当な理由がなく廃止されたものであるため、この部分は明らかに不合理であり憲法14条1項に違反するというべきである。
7.原告の主張を採用しなかった理由
原判決で、原告の主張した立法目的を採用せず、所得税の所得再分配機能の回復等だけが目的であるとしたのは、その解釈で扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではないからとのことだが、前記4ないし5で述べた通り扶養控除や特定扶養控除の趣旨に適合しない部分が存在することは事実であり、かかる解釈では扶養控除の趣旨に適合しなくなるといえる。
そうすると、原告の立法目的を採用しなかった理由は誤りであることになるから、原判決は立法目的の解釈を誤っているというべきである。
おわりに
生年月日は、性別や人種と同じように優劣のない個人属性のひとつである。また子の誕生日が1月2日から4月1日の間にあることは、親の不備でも過失でも欠陥でも不具合でもない。そして子ども手当終了の年の差異も義務教育終了の年の差異も国が法律で定めたものであり、納税者の事情によるものは一切ないから、早生まれであることだけを理由に、公平に扱われるべき待遇の対象外になるのは理不尽である。
本件の不平等は、過去の国会でも何回か追及されているほか、毎年税理士会の建議書にも是正が提案されているが、一向に改善されない不合理であり、昨今SNSでも「早生まれ損」とか「早生まれバグ(不具合の意)」と呼ばれ不満や改善要望が強く叫ばれている。
少子化問題など子どもをめぐる問題が深刻さを増すなか、国民はいつ子どもを設けても平等に扱われることを当然のことと期待しているし、国もまたそれを保証する責務がある。また国民は、仮に誤って不平等な扱いとなる法律ができても、然るべき仕組みで正当に是正されることも当然に期待しているし、国もまたそれに応える責務がある。だからこそ国民に託された強力な司法の権力は国民のために行使されることを切望していることを述べる。
最後に裁判官をはじめとする裁判所の皆様と被控訴人の皆様に感謝の意を表して本書の主張を終わる。
以上