早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

対所得税判決の感想

 敗訴してしまい応援してくださる方には申し訳ないですが、そうそう違憲判決はでないですね。

 さて、判決理由ですが、基本的に被告の主張を採用した文面になっています。被告の準備書面を読んだ時には、よくわからない文章でしたが、裁判官の取りまとめた文章はさすがですね。

 

以下、対所得税判決の感想を赤色もしくは緑色で書きます。黒色は判決文の理由(抜粋)です。

 

2 争点(2)(本件各通知処分の適法性(本案の争点))について

 

(1)判断枠組み

 

 憲法14条1項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら上記規定に違反するものではないと解される。

 ところで、租税は、国家の財政要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国氏の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とするから、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、親判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうすると、租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、憲法14条1項の規定に違反するものということはできない(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。

 

(原告のコメント)

これは定型文章です。租税法と平等権が争われる裁判の判断基準として必ず引用される大島訴訟の判例です。要するに合理性の基準で判断しますということが書かれています。

 

(2)平成22年改正の経緯等(乙8)

 

 扶養控除は、自己と生計を一にする一定の所得金額以下の親族(扶養親族)を有する場合に、その人数等に応じて納税者の担税力調整を行う趣旨で設けられているが、この扶養控除などの所得控除制度は、課税対象となる所得から一定額を差し引くものであり、この制度による税負担軽減額は、基本的には、この一定額に各々の納税者に適用されている限界税率を乗した額となる。

 したがって、累進税率を採用している所得税においては、高所得者に適用される限界税率が高いことから、所得控除制度による高所得者の負担軽減額は相対的に大きくなる一方で、低い税率の適用される低所得者の負担軽減は相対的に小さくなる。

 平成22年度税制改正大綱においては、このように高所得者に有利な面がある所得控除について、一律の税額控除に変えれば、限界税率の低い低所得者ほど所得比で見た負担軽減効果が大きな仕組みになり、あるいは、手当に変えれば、定額の給付であることから相対的に支援の必要な人に実質的に有利な支援を行うことができるとされ、所得税改革の方向性の一つとして、所得税所得再分配機能の回復等の観点から、所得控除から税額控除や手当等への転換を進めること(「控除から手当へ」)が挙げられた。

 平成22年改正においては、こうした所得税改革の方向性を踏まえ、支え合う社会づくりの第一歩として、子どもの養育を社会全体で支援するとの観点から、子ども手当の創設とあいまって、年少扶養親族に対する扶養控除が廃止されるとともに、公立高等学校の授業料の無償化等に伴い、16歳以上19歳未満の特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分が廃止された。

(原告のコメント)

税制改正の解説資料の転載です。私の主張でも引用していますし改めて感想はありません。

 

(3) 平成22年改正の立法目的について

ア 前記(2)のとおり、平成22年改正の立法目的は、高所得者に有利な面のある所得控除から、手当(又は税額控除)への移行(「控除から手当へ」)を進め、支援の必要性が相対的に大きい低所得者につき、実質的に有利な支援を行い、所得税所得再分配機能の回復等を図ることにあるといえ、この立法目的は、正当である。

イ  これに対し、原告は、平成22年改正の立法目的は、子ども手当の支給対象である扶養親族に対する扶養控除を廃止し、就学支援金の支給対象である扶養親族に対する扶養控除額の上乗せ部分を廃止することにあり、このように解しなければ、平成22年改正の立法目的は人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に適合せず、正当性を欠く旨主張する。

 しかし、平成22年改正の立法目的は、前記アのとおりであって、それ以上に、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。そして、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨に照らしても、前記(2)のような、「控除から手当へ」という、子ども手当制度や就学支援金制度の創設を伴う所得税改革の方向性を踏まえれば、かかる解釈が扶養控除の趣旨に適合しなくなるものではない。

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

(原告のコメント)

この裁判所が認定した立法目的には不備があるように思います。所得税の改正では増税になるだけで支援を行うのは子ども手当制度の創設と高校無償化制度の創設です。またこの立法目的ではだれを対象に増税するのか定まらず、年少扶養控除の廃止と高校生の特定扶養控除の廃止をした立法手段と関連性がありません。

 ところで、私が注目した文は、こちらです。

個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。

この文は正しいのですが、文の前方にこんな言葉(緑色)が隠れているのではないでしょうか。

平成22年当時の政府の政策は、扶養控除等の廃止と子ども手当制度の創設・高校無償化制度の創設によって、扶養親族が中学校卒業後、高校を3年、大学を4年で卒業することを念頭に、中学生以下に相当する年齢の子の扶養控除と、高校生に相当する年齢の子の扶養控除額の上乗せ部分の廃止し、その部分を子ども手当や就学支援金の支給に転換することで所得再分配機能を回復させることを目的としているが、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。

この緑色の文の部分を立法目的として主張する予定ですが、これが認められれば、結論が変わるような気がします。なぜなら国は遅生まれの扶養親族が中学卒業後、高校を3年、大学を4年で卒業することを念頭に立法しているからです。

 

(4) 本年齢規定のうち早生まれ除外部分が平成22年改正の立法目的との関係で著しく不合理であることが明らかといえるかについて

 

ア  平成22年改正により、本件年齢規定に基づき共養控除がされるようになったことで、18歳以下の子を扶養する子育て世帯において、扶養控除の一部廃止に伴う不利益が生じることとなったが、その不利益は、低所得者高所得者に比して小さく(前記(2))、一方で、上記世帯において、子ども手当や就学支援金制度による定額給付拡充の恩恵を受けられることとなったから、本件年齢規定は、所得税所得再分配機能の向上に資するものといえ、前記(3)の平成22年改正の立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかであるとはいえない。

(原告のコメント)

裁判所が認定した立法目的が正しいのなら、こうなりますね。

ただし上記世帯の部分は「18歳以下の子を扶養する子育て世帯」ではなく「18歳の高校生以下の子を扶養する子育て世帯」ですよね。

イ  これに対し、原告は、本年齢規定のうち早生まれ除外部分について、早生まれの子につき、子ども手当や就学支援金の支給対象外にもかかわらず、一般の控除対象扶養親族や特定扶養親族に該当しない場合があることは、上記立法目的との間で合理的関連性がない旨主張する。

 

 しかし、前記(3)イのとおり、平成22年改正は、個別の納税者に対し、扶養控除又は扶養控除額の上乗せ部分の廃止と引き換えに、子ども手当又は就学支援金を支給することまで目的とするものではない。また、本件年齢規定の文言上、扶養親族が一般の控除対象扶養親族及び特定扶養親族に該当し得る回数につき、同一学年の早生まれの者と運生まれの者との間で差異を設けているものではない。すなわち、例えば、早生まれの者が高等学校卒業後、大学受験のために浪人をした場合や大学で留年した場合、大学卒業後、大学院に進学するなどしてすぐに就職せず、一定額以上の収入を得なかった場合などであれば、その者と同一学年の遅生まれの者が高校卒業後すぐに大学に進学し、留年せずに大学を卒業した後すぐに就職して一定額以上の収入を得た場合と、特定扶養親族に該当する回数は同じになるのであり、こうして見ると、原告が主張する早生まれの子を扶養する納税者の不利益は、所得税法85条3項の規定する基準日においてその扶養する子に一定額以上の収入があることが理由となって生じるものにすぎないといえ、かかる不利益は、人的事情に基づく担税力の調整という扶養控除の趣旨から当然に予定されているものといえる。

(原告のコメント)

比較するときは条件をそろえるのが鉄則ですが、条件を変えれば同じになるという理屈が通ってしまうのがこの世界らしいです。しかし抗っても無駄なことは経験済みです。

そして、所得税法においては、暦年を課税年度とし、課税標準の計算も暦年単位で行っていること、同法85条3項は、一般の控除対象扶養親族又は特定扶養親族に該当するかどうかの判定をその年の12月31日の現況により一律的に行う旨を定めており、これが特段不合理とはいえないことからすれば、本件年齢規定について、徴税の便宜や所得税法の各規定との整合性の観点から、暦年を基準として規定したことが、平成22年改正の立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかとまでは認められない

(原告のコメント)

出ましたね「一律的」。所得税法の原文にそんな単語は書いてないですけどね。

前の寡夫控除の裁判で「一律的に所得制限を設けている」って言葉が平然と使われてて日本語的にどうなの?制限したら一律じゃないじゃんと思いましたけどこの世界では市民権を得ている言葉のようです。一律的って書いてあると公平・平等な感じがしますものね。

裁判は言葉遊びだよ by 法学部出身の息子

(なお、原告は、本件年齢規定に早生まれの者を含めなかったとしても徴税コストは抑制されるわけではない、本件年齢規定に早生まれの者を含めても所得税法85条3項との整合性は維持できるなどとも主張するが、所得税法における諸規定を暦年に基づいて規定することは、過誤の減少等につながり、徴税の便宜に資するし、本件年齢規定に早生まれの者を含めることによって所得税法85条3項が暦年を基準として規定されていることと整合しなくなるのは明らかであるから、原告の上記主張は理由がない。)。

(原告のコメント)

「暦年に基づいて規定することは、過誤の減少等につながり」って、前世紀ならともかくコンピューターが生年月日から自動判定する現在では間違う余地がないように思います。たぶんここは意味がないことを知りながらも控訴審で必要以上に噛みつきます。SEなので。

また原審では「整合しないと何か困るのか?」的な反論(正確には徴税上の利益が存在しない事を主張)をしたのですが裁判所としてはどうでもいいようです。裁判所の言うような「一律的」な年齢で早生まれ問題を対応する案も税理士会から提案されているので控訴審で提出しましょう。でもここは問題の本質ではないんだよなぁ。

裁判は言葉遊びかも by 私

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

 

 そのほか、原告は、本件年齢規定のうち早生まれ除外部分の合理性につき、扶養親族が19歳未満である間に平成22年改正が施行された場合、当該扶養親族が早生まれのときは、遅生まれのときと比較して、当該扶養親族が一般の控除対象扶養親族又は特定扶養親族に該当する回数が1回少なくなるとか、本件年齢規定のうち早生まれ除外部分は独立行政法人日本学生支援機構による給付奨学金の家計基準の審査にも影響を及ぼしているなどとも主張するが、かかる主張により、当裁判所の上記判断が左右されるものではない。

(原告のコメント)

早生まれの子を1年多く扶養するというように条件をそろえなければ適用回数が同じになることを判断の根拠にしていながら、早生まれの子を1年多く扶養するという条件であっても切替の影響により実際には1回少なくなっているのが事実であることは根拠にならないそうです。

長年温めてきたこの言葉を使う時がやってきました。「牽強付会である。」

まぁ高裁の裁判官がこの手の反論を聞くことはないんですけどね。

 

 

(5) 小括

 

以上のとおり、本件年齢規定のうち早生まれ除外部分は、憲法14条1項に反しないから、本件が、原告の平成29年分の所得税等との関係で一般の控除対象扶養親族に、令和2年分の所得税等との関係で特定扶養親族にそれぞれ該当しないとしてされた本件各通知処分は、いずれも適法である。

 

3  結論

 

 したがって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

(原告のコメント)

判決理由は大変勉強になりました。少しモヤが晴れたように思います。ありがとうございます。控訴審は一発勝負、頑張ります。

 

最後に、判決を受け、こんな気持ちが強くなりました。

 

「生年月日は、性別や人種と同じように優劣のない個人属性のひとつです。子の誕生日が1月2日から4月1日の間にあることは、親の不備でも過失でも欠陥でも不具合でもなく、早生まれであることだけを理由に、公平に扱うべき待遇の対象外になるのは平等原則に反していると考えます。」

 

ちなみに書いてませんが、争点(1)の本件通知処分の取消し訴訟の適法性については、国の主張は採用されず、原告の主張が採用されました。

これで通知処分の取消し訴訟の原告側に総額主義は採用されないという裁判例ができました。控訴審でこの点を国が覆しにくることはないと思っています。

この点は、税務関係者だと興味のあるところかもしれませんので、そのうち掲載します。