早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

対地方税、訴状 令和4年(行ウ)第9号

            訴    状

 

 

                         令和4年2月2日

 

 横浜地方裁判所 御中

 

 

     原 告   Sakurahappy

     被 告   川 崎 市

 

課税処分取消請求事件

訴訟物の価額     1万2000円

ちょう用印紙額   1000円

 

第1 請求の趣旨

1  川崎市長が令和3年5月17日付けでした原告の令和3年度の市民税及び県民税の特別徴収税額の決定のうち,52万8100円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

 との判決を求める。

 

第2 請求の原因

1 事案の概要

 本件は,川崎市長(以下「行政処分庁」という。)から令和3年5月17日付けで,市民税及び県民税の特別徴収税額を54万100円とする旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けた原告が,地方税法において,令和2年12月31日時点で大学1年の子について,扶養親族が19歳から22歳の場合に認められる45万円の特定扶養控除が適用されず,16歳から18歳の場合に認められる33万円の扶養控除が適用されたことに関して,扶養する子が大学1年生に相当する場合にその子が4月2日から1月1日生まれであれば特定扶養親族となり,1月2日から4月1日生まれであれば一般の扶養親族として扱われる地方税法の規定は,税の公平負担原則に反しており,不合理な差別を禁止した憲法14条1項に反するから,原告について45万円の所得控除を認めず33万円の所得控除とした本件決定のうち,45万円の所得控除をした上で算定した税額を超える部分は違法であると主張して,行政事件訴訟法3条2項に基づき,被告に対し,本件決定のうち33万円に代えて45万円の所得控除をして算定した場合の税額である52万8100円を超える部分の取消しを求める事案である。

 

2 関係法令の定め

  1.  地方税法24条1項1号は,道府県内に住所を有する個人に対しては均等割額及び所得割額の合算額によって道府県民税を課す旨規定し,同法294条1項1号は,市県民内に住所を有する個人に対しては均等割額及び所得割額の合算額によって市町村民税を課す旨規定している。
  2.  均等割は均等の額により課する道府県民税及び市町村民税であり(地方税法23条1項1号,292条1項1号),令和3年における個人の均等割の標準税率は,県民税が1800円であり,市民税が3500円である(地方税法38条,310条,東日本大震災からの復興に関し地方公共団体が実施する防災のための施策に必要な財源の確保に係る地方税の臨時特例に関する法律2条,神奈川県県税条例(昭和45年神奈川県条例第26号,以下「県税条例」という。)11条,同条例附則7項,3項2号,川崎市市民条例(昭和25年川崎市条例第26号,以下「市民条例」という。)20条1項1号同条例附則22項)。 所得割は,所得により課する道府県民税及び市町村民税であり(地方税法23条1項2号,292条1項2号),所得控除後の前年総所得金額,退職所得金額,又は山林所得金額に標準税率を乗じて算定される(地方税法35条,314条の3)。 令和3年における所得割の標準税率は100分の2.025であり,市民税が100分の8である(地方税法35条1項,314条の3第1項,県民条例9条,同条例附則39項1号,市民条例23条)。
  3.  地方税法23条1項9号及び292条1項9号は,道府県民税及び市町村民税について,納税義務者の親族(その納税義務者の配偶者を除く。)でその納税義務者と生計を一にするもののうち前年の合計所得が48万円以下であるものを扶養親族である旨規定している。
  4.  地方税法34条1項11号及び314条1項11号は,道府県民税及び市町村民税の所得割の計算に関し,扶養親族の年齢が16歳未満であれば0円,16歳以上19歳未満であれば33万円,19歳以上23歳未満(特定扶養親族)であれば45万円,70歳以上(老人扶養親族)であれば38万円をその者の前年の所得について算定した総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額から控除する旨規定している。
  5.  地方税法34条8項及び314条8項は,扶養親族や特定扶養親族であるかどうかの判定は,前年の12月31日(前年の中途においてその者が死亡した場合には,その死亡の時)の現況によるものと規定している。
  6.  平成22年度等における子ども手当の支給に関する法律(平成22年法律第19号)第3条は,子ども手当の支給対象を15歳に達する日以後最初の3月31日までの間にある者と規定している。
  7.  高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成22年法律第18号)第3条は,高等学校等就学支援金が高等学校の生徒等に支給する旨を規定し,同第5条は,その者が高等学校等に在学する月について,月単位に支給される旨を規定している。

 

3 提訴に至るまでの経緯

  1.  原告は,令和3年1月1日時点で肩書地に居住しており,平成14年2月〇日生まれの三男と生計を一にしていた。
  2.  原告は,令和2年の給与収入として〇万4834円を得ていた。
  3.  処分行政庁は,令和3年5月17日に原告の勤務先に税額決定通知書を送付した。(甲1号証)
  4.  原告の勤務先は,令和3年7月2日に原告に税額決定通知書を送付し,原告は7月3日に受け取った。(甲2号証,甲3号証)
  5.  原告は,令和3年9月24日,処分行政庁に対し,本件決定の取消しを求める審査請求を提起したが,3ヵ月経過しても裁決はされていない。(甲4号証)
  6.  原告は,令和4年2月2日,本件訴えを提起した。

 

4 原告の主張

 はじめに,一般的には1月1日から4月1日までに生まれた者を早生まれというが,本件において取扱いの差異があるのは4月2日から翌年の1月1日に生まれた者を扶養する納税者と1月2日から4月1日に生まれたものを扶養する納税者であるため,本書では4月2日から翌年1月1日に生まれた者を遅生まれと表し,1月2日から4月1日までに生まれた者を早生まれと表すこととする。

4-1 不公平税制の指摘

 地方税法における扶養控除は,昭和25年に生計を一にする親族を扶養している場合に税を軽減するために設けられた制度である。そして平成元年の改正では,教育費を含む種々の支出がかさむ世代の所得者の税負担の軽減を図る見地から,高校入学から大学卒業を念頭に,一定の年齢の扶養親族について扶養控除の割増控除を設けることとされ,扶養親族が16歳以上23歳未満の子は特定扶養親族として所得控除額を上乗せする制度となった。

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 その後,平成22年度の改正では,子ども手当の創設に伴い,15歳以下の年少扶養親族に対する扶養控除を廃止し,また高校の実質無料化に伴い,16歳から18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除額の上乗せ部分が廃止となっている(甲5号証)。

f:id:sakurahappy:20220201212658p:plainなお,子ども手当制度は平成24年より児童手当制度として引き継がれている。

 ところで,地方税法は前年の12月31日の現況から扶養親族を認定しているが,その扶養親族が15歳以下の年少扶養親族か,16歳から18歳の控除対象扶養親族か,19歳から22歳の特定扶養親族かについても,その年齢の判定を前年の12月31日の現況としているため,早生まれの扶養親族は,前年の12月31日の時点で高校1年生であっても15歳であるから控除対象扶養親族ではなく年少扶養親族となり,同様に大学1年生の時は18歳であるから特定扶養親族ではなく控除対象扶養親族となっている。

 そのため扶養する子が同じ学年であっても遅生まれと早生まれでは,扶養控除の扱いが異なるため,扶養者の課税額が異なっている。

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 具体的には,前年の12月31日時点で高校1年生の子を扶養しているケースでは,その子が遅生まれである場合には16歳であるため,33万円の扶養控除が適用されるが,早生まれである場合には15歳であるため,扶養控除が適用されず,課税額は概ね3万3000円高くなる。また前年の12月31日時点で大学1年生の子を扶養しているケースでは,その子が遅生まれである場合には19歳であるため,45万円の扶養控除が適用されるが,早生まれである場合は18歳であるため扶養控除額は33万円になるので,課税額は概ね1万2000円高くなる。

 等しきものを等しく扱い,等しからざるものを等しからざるように扱うというのが租税公平負担の原則であるが,同じ学年に属する子を扶養する親は,扶養に要する支出が同等であるのだから等しく扱うべきであり,子の誕生日の違いで異なる扱いをすることに合理性はない。

 この扱いの差異は,後述する判断の枠組みに照らすと違憲違法であるほか「租税法律主義の当然の帰結である課・徴税平等の原則は,憲法14条の課・徴税の面における発現であると言うことができる。」とした大阪高裁判決(大阪高判昭和44年9月30日判時606号19頁)いわゆるスコッチライト事件判決を踏まえても,等しく扱うべきものを等しく扱うという租税の水平的公平負担原則に反しており,憲法14条1項に反するというべきである。

 

4-2 不公平な高等学校等就学支援金制度の指摘

 平成22年に創設された高等学校等就学支援金制度は,平成26年の制度改正によって所得要件が設けられ,市県民税の課税標準額から就学支援金の支給可否や支給額を決定している。具体的には,全日制高校の場合,課税標準額の6%から市町村民税の調整控除の額を引いた金額が30万4200円以上になると就学支援金は支給対象外となり,同金額が15万4500円以上になると私立学校等の加算金の支給対象外となる。算定の基礎となる課税標準額は,扶養控除が反映されたものであり,高校2年生の就学支援金の算定にあたっては,前年の12月31日時点で,遅生まれの子は16歳,早生まれの子は15歳となるため,遅生まれの子を持つ納税者の課税標準額は33万円の扶養控除が反映されることに対し,早生まれの子を持つ納税者の課税標準額は扶養控除がないため課税標準額が高くなり,その結果,支給の可否や支給額が不利となっている。

 これは,追加で設置された所得要件によって顕在化した不公平ではあるが,高等学校等就学支援金制度は地方税の賦課が当然に公平であることを前提に設計されたものであり,そもそも高等学校等就学支援金制度を創設することを前提として改正された地方税法が,遅生まれの子を扶養する納税者と早生まれの子を扶養する納税者で異なる扱いをしていることが原因である。

 このように高校2年生の生徒の親の収入や環境が全く同じであっても,生徒の誕生日の違いによって就学支援金を受けられなかったり,減額されたりすることは不合理であり,このような結果をもたらす地方税法の扶養控除の規定は,不合理な差別を禁止した憲法14条1項に反している。

 

4-3 区別と法的取扱い差異の明確化

 本件決定の憲法適合性を検討するにあたって,まず区別とその法的取扱いの差異を明確化する。

 まず,本件における区別は,地方税法34条8項及び314条8項で控除対象扶養親族か特定扶養親族かの判定を前年12月31日の現況によるものと規定していることにより,以下の①と②の2つが区別されている(以下,「本件区別」という)。

①前年12月31日時点で高校1年生に相当する親族を扶養している納税者を,その扶養親族が遅生まれか早生まれかで区別している。両者の親族は同じ学年に属し,扶養のための支出は同等であるにもかかわらず,前者が33万円の扶養控除を適用して課税額を算出するのに対し,後者は適用しないので,課税額は概ね3万3000円高くなる。

②前年12月31日時点で大学1年生に相当する親族を扶養している納税者を,その扶養親族が遅生まれか早生まれかで区別している。この両者も親族が同じ学年に属し,扶養のための支出は同等であるにもかかわらず,前者が12万円の扶養控除額の上乗せ部分を適用して課税額を算出するのに対し,後者は適用しないので,課税額は概ね1万2000円高くなる。

 以上の本件区別は,上記以外にも次のような不利益をもたらしている。

 ひとつは,扶養する子が高校卒業後に浪人や留年なしで4年制大学を卒業し社会人になった場合,遅生まれであれば,高校生から大学生の間の7年間が控除対象扶養親族となり,そのうち4回は特定扶養親族となるが,早生まれであると,高校生から大学生の間の7年間のうち6年間しか控除対象扶養親族になれず,更に特定扶養親族になるのは3回である。

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 もうひとつは,扶養する子が高校卒業後に浪人や留年をしたり大学院に進学したりするような場合,例えば1年浪人したケースを考えると,遅生まれであれば高校生・浪人・大学生の8年間が控除対象扶養親族となるが,早生まれであるとこの8年間のうち7年間しか控除対象扶養親族になれない。

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4-4 判断の枠組み

憲法14条1項は,すべて国民は法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において差別されない旨を明定している。この平等の保障は,憲法の最も基本的な原理の一つであって,課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶものである。しかしながら,国民各自には具体的に多くの事実上の差異が存するのであって,これらの差異を無視して均一の取扱いをすることは,かえって国民の間に不均衡をもたらすものであり,もとより憲法14条1項の規定の趣旨とするところではない。すなわち,憲法の右規定は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,何ら右規定に違反するものではないのである。

 租税は,今日では,国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについて,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがつて,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであるとすれば,租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である。(昭和55年(行ツ)第15号 最高裁判所大法廷昭和60年3月27日判決)」(以下「昭和60年大法廷判決」という。)とした昭和60年大法廷判決に照らすと,まず立法目的が正当でなければ違憲であり,また立法目的が正当である場合は,当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかであれば違憲というべきである。

 

4-5 立法目的の正当性について

 扶養控除が見直しされた件につき,その立法目的の正当性について検討する。平成22年度の地方税法改正における扶養控除の見直しは,同年に創設された子ども手当(現行の児童手当)制度と高校の実質無償化制度にあいまって行われたものであり,次の2つが改正の趣旨である。

 まず,創設された子ども手当制度が,15歳に達する日以後最初の3月31日までの者に子ども手当を支給するものであるため,扶養親族が子ども手当の支給対象である場合には,その子に対する扶養控除を廃止すること。そして,創設された高校の実質無償化制度が,高等学校を卒業する年の3月分まで支給するものであるため,扶養親族が就学支援金の支給対象である場合に,その者に対する扶養控除額の上乗せ部分を廃止することである。(甲5号証)

 このように平成22年度に改正された扶養控除の見直しに関する立法目的は,子ども手当が支給される親族を扶養する場合は,扶養控除の軽減措置を廃し,また高等学校等就学支援金が支給される親族を扶養する場合は,扶養控除額の上乗せによる軽減措置を廃して,租税負担を調整することと解され,正当なものといえる。

 

4-6 立法目的と立法手段との関連性について

 次に立法目的と立法手段の関連性について検討する。

 平成22年度の改正で所得控除対象外となったのは,前年の12月31日時点で15歳以下の者であるが,そのうち前年の1月1日から3月31日の間に15歳に達した者は,前年の12月31日の時点で子ども手当の支給対象外である。そうすると前年12月31日時点で15歳以下の者のうち,前年の1月1日から3月31日の間に15歳に達した者を扶養控除の対象外とする部分については「子ども手当の支給対象者の扶養控除の軽減措置を廃して租税負担を調整する」という立法目的との間に合理的関連性がない。

 また平成22年度の改正で特定扶養親族の上乗せ部分が廃止となったのは,前年の12月31日時点で16歳から18歳の者である。しかし,前年の1月1日から3月31日の間に18歳に達した者は,前年の12月31日の時点で就学支援金の支給対象外である。そうすると,前年の1月1日から3月31日の間に18歳に達した者を特定扶養親族と認めない部分については「高等学校等就学支援金が支給される親族を扶養する場合は,扶養控除額の上乗せによる軽減措置を廃して,租税負担を調整する」という立法目的との間に合理的関連性がない。

 このように,平成22年度に改正された地方税法の扶養控除の規定のうち,前年の1月1日から3月31日の間に15歳に達した者を扶養控除対象親族として扱わず控除対象外とした部分と,前年1月1日から3月31日までに18歳に達した者を特定扶養親族として扱わない部分は,立法目的と立法手段の間に合理的関連性が認められないのであって,立法手段の相当性(著しく不合理か否か)を検討するまでもなく,憲法14条1項に反するというべきである。

 

4-7 その他の観点について

 上記の通り昭和60年大法廷判決に照らすと本件区別が憲法14条1項に反することは明らかであるが、その他の観点からの考察を論じ、主張を補充する。

 

(1)本件区別が租税負担能力の差異に応じたものかについて

 租税公平負担原則は,租税負担能力が等しきものに等しい負担を,等しからざるものに等しからざる負担を課すこととされるので,本件区別が租税負担能力の差異に応じたものかどうかについて検討する。租税負担能力とは,租税を負担できる能力であり,その指標は,収入(所得)・支出(消費)・資産(財産)の3つであるので,前年の12月31日時点で高校1年生,あるいは大学1年生を扶養する納税者を,その子が遅生まれと早生まれで区別した場合について,それぞれの指標を比較する。

 まず収入については,市県民税は前年の所得に対して課税される暦年課税制度であるため,前年の所得で比較することになるが,扶養する子が遅生まれの高校1年生か早生まれの高校1年生かによって扶養者の所得が影響されることはないため,収入面からは同等の租税負担能力を有するといえる。

 次に支出についても同様で,前年の支出が,遅生まれの高校1年生も早生まれの高校1年生も誕生日の違いによって扶養者の支出が変更になることはないのであるから,支出面からも同等の租税負担能力を有するといえる。

 最後に資産についてであるが,そもそも市県民税は暦年課税であり,前年の収入と支出から課税額が決定されるべき性格なので,資産の違いから課税額を変更することは道理ではない。が,その点をおいておくとしても遅生まれより早生まれの高校生や大学生を扶養する納税者の保有資産が大きいことを示す統計は存在しないので,資産の面からも同等の租税負担能力を有しているというべきである。

 なお,遅生まれのほうが養育にかかる期間が長いとの指摘が考えられるが,そのことが資産面にどう影響するかという観点から以下に検討する。

 遅生まれと早生まれでは学齢期の養育期間は同じである。また婚姻から出生までの期間が遅生まれと早生まれで変化することもないので,養育期間の違いはもっぱら乳児期から幼児期である。その間,遅生まれの養育期間が長く,かかる出費も多くなるが,収入を得る期間も同様に長くなるのであるから,その間の家計が赤字でない限り形成される資産は遅生まれの子を養育する者のほうが多いということになる。

 加えて,児童手当は誕生した月から支給されるので,遅生まれの子は児童手当を受ける回数が早生まれの子に比べて多くなる。そして「平成24年児童手当の使途等に係る調査報告書」(甲6号証)によると,0歳から3歳までの子の児童手当の使途として,子どもの将来のための貯蓄・保険料となるのが46.0%,特に使う必要は無く,全部または一部が残っているが24.9%であることを踏まえると,支給回数の多い遅生まれの子を持つ親のほうの貯蓄額が多くなるといえる。そうすると資産の観点から比較すれば,早生まれの子を持つ親のほうが遅生まれの子を持つ親よりも租税負担能力が低いということができるため,早生まれの子を持つ親を有利に扱う理由にはなるとしても不利に扱う理由にはなりえない。

 更に,「保活」の実態に関する調査の結果(甲7号証)をみると,早生まれであると4月の入園申し込みに間に合わず保育園に入園しづらい問題が指摘されている。保育園に預けることができなければ就業や収入に影響することになるため,結果として早生まれの子を持つ納税者の租税負担能力の方が低いということになる。

 これらを勘案すると,早生まれの親族を扶養する納税者の租税負担が重い現行の制度は,租税負担能力の差異に応じておらず,真逆なのであるから著しく不合理であるというべきである。

 

(2)租税の効率的徴収という観点について

 22歳以下の扶養親族の年齢判定の基準日を前年の12月31日から3月31日にした場合に,租税の効率的徴収を阻害することになるかという観点から検討する。

 まず市県民税は,前年1月1日から12月31日までの収入と支出を基礎に課税額を算出する暦年課税制度である。そして扶養控除は支出を考慮したものであるが,もし1年間のうち誰を何日間扶養していたかを基に扶養控除額を調整していたら税額決定は大変非効率である。そこで現行の制度は,1年のうち,12月31日を基準日として定め,その基準日における扶養関係を課税対象年の扶養関係とみなすことで効率化しているものと解される。一方,その基準日を何日にするかについては,例えば納税者の住所の確定は1月1日が基準日とされているように,12月31日である必然はないが,12月31日を基準日とすることは,その年の最終的な扶養関係を採用して税額算定の基礎にすることであり,その合理性は否定できない。

 次に22歳以下の扶養親族年齢の判定であるが,この基準日を前年の12月31日にしていることで不合理な差別が発生していることは前述したとおりである。不合理な差別を解消するならば,例えば基準日を当年の3月31日とするか,あるいは前年の4月1日から当年3月31日に達する年齢を判定するようにすることになる。とはいうものの年齢の判定は,実質的に生年月日がどの範囲にあるかを判定するものであって,例えば,令和3年の課税額決定にあたり12月31日時点で扶養している親族が特定扶養親族かどうかを判定するには,その者の生年月日が平成3年1月2日から平成7年1月1日の間かどうかで判定されるのである。その点,仮に基準日を3月31日とするならば,扶養親族の生年月日が平成3年4月2日から平成7年4月1日の間かどうかで判定することになるが,判定に係る比較作業量は同じであって徴課税効率に差異はない。したがって、年齢判定の基準日を前年の12月31日から3月31日にしても,租税の効率的徴収を阻害することはないのであり、効率的徴収の観点からは12月31日が基準日である必要はないのである。

 ちなみに唯一比較作業効率が向上するのは12月30日を基準日とした場合であり,この場合は月日を比較する必要がなく,誕生年が平成3年から平成6年の間であるかを判定するだけである。

 ところで,租税法は個々の事情の変化を当然に予定しているのであるが,年齢という要素は事情の類ではなく,生年月日から導かれるものであり,生年月日は人種や性別のように生まれながらに定められた属性のひとつである。であるとすれば,租税法は同じ属性として扱うことや違う属性として扱うことに配慮が必要であるというべきである。そして,教育課程の子の扶養については,年の変わりではなく年度の変わりで性質が変化することが明らかであり,年齢判定の基準日を3月31日にすることで効率的徴収を阻害することもないのであるから,教育課程の子の扶養親族の判定にあたっては,基準日を3月31日とするのが必然というべきである。

 

(3)類似事例における名古屋高裁の判断について

 所得税法の扶養控除の適用において,早生まれの子の扶養者は, 遅生まれの子の扶養者と比較して,扶養控除の権利 を1年分行使できないという不公平な扱いを受けるため,早生まれの子の扶養者は,その子が遅滞なく各教育課程を終え,かつ,各最終学年(卒業年の前年)における12月31日までに特定扶養親族の要件を満たす場合には,その翌年にこれまで短縮されてきた1年分の扶養控除の権利を行使できると解すべきであるとの納税者の主張が,所得税法85条3項(扶養親族等の判定の時期)は「特定扶養親族に該当するかどうかの判定は,その年の12月31日の現況による」と定めており, ここにいう「その年の12月31日」を遅滞なく各教育課程を終えた早生まれの子については「卒業 の前年12月31日」をいうものと解することはできないとして排斥された事例があった。名古屋高等裁判所平成20年7月9日判決。(甲8号証,甲9号証)

 この事例では,早生まれの子の場合には社会人になった年に特定扶養親族として認めよという扶養の実状にそぐわない請求であるし,原告は憲法26条,憲法30条に反すると主張しており,判決は昭和60年大法廷判決に照らしたものではないことに加え,平成22年度の改正前の事案であるので本件とは事情が異なるものである。

 

(4)国会での議論について

 早生まれの子を扶養する納税者が不利益を受けていることは国会でも何回か議論されている。

 平成22年3月1日の財務金融委員会議録(甲10号証)によると,「早生まれの高校生だけが,子ども手当も扶養控除も受けることができない。同じ高校1年生でこういう差別が発生する理由を説明していただきたい。」という佐々木委員の質問に対し古谷政府参考人は次のように答えている。

「平成23年4月以降に高校1年生となる早生まれのお子さんにつきましては1年生になった時点で15歳ということでございますのでその年に年少扶養控除が適用されずに,一方で子ども手当は3月までに支給が終わるということで,4月以降,子ども手当の支給がないということではございます」と不公平であることを認めている。しかし「一方で,高校に入学されますと,高校の実質無償化による経済的利益を受けることも考慮いたしますと,必ずしも高校に入学された時に(略)急に負担がふえるということではないと思われます。」と説明しているが,就学支援金による経済的利益は遅生まれの子も受けるのであり,それによって差別が解消されるものではない。また「22年の子ども手当がそのまま続く前提で考えるとそういったことになるということで,23年以降の子ども手当の問題については今後検討されることになっておると承知しています。」と含みを持たせた答弁をしているが,10年以上たった現在も差別は解消されていない。

 令和3年3月24日の文部科学委員会議録(甲11号証)では高校実質無償化の所得制限について早生まれの子どもが不利益になっている点について質疑がされ,萩生田国務大臣は「おっしゃるとおりで,1月から3月に生まれたお子さんだけが,結果的に,所得制限の枠にあったとしてもその対象にならないというのは,これはもう極めて気の毒な話であります」と答弁している。この点について文部科学省は令和4年度から,早生まれの生徒の場合,扶養控除と同額の33万円を課税所得から差し引いた金額を基に支給可否を決定する方針(甲12号証)だというが,子ども手当制度と高等学校等就学支援金制度の創設にあいまって改正された地方税法上の扶養控除の見直しに歪みがあるのであって本来はその歪みを正すべきであり,税法上,遅生まれの子と早生まれの子の扶養控除を平等に扱っていれば,高等学校等就学支援金制度の側で課税所得を補正する必要はないのである。

 また平成22年度の改正以前の答弁ではあるが,平成11年2月17日の大蔵委員会議録(甲13号証)になぜ12月31日に特定扶養親族の判定を行うのかについて尾原政府委員から答弁がされている。会議録によると「この特定扶養親族の判定をどこでやるかといいますと,(略),年齢の判定はその年の12月31日にやります。なぜ12月31日かといいますと,年分課税でございますから,扶養親族かどうかの判定は1年のところでやらなきゃならぬ等々のことからそうなっているわけでございます。」と説明されている。しかしながら,扶養親族かどうかの判定を12月31日時点で行うことの説明をしているだけで,その扶養親族が特定扶養親族に該当するかの判定を12月31日時点の年齢で行う根拠を説明していない。結局のところ,年分課税制度の要求と,12月31日時点の年齢で特定扶養親族かどうかの判定をすることの関連性は,明らかにしていないのである。

 

4-8 本件区別の解消について

 本件区別は,憲法14条1項に反した差別であるため,解消する必要があるが,扶養控除を改正した趣旨を踏まえると,地方税法34条8項及び314条8項の「前年の12月31日の現況による」として扶養控除対象を判定する規定のうち,前年の1月1日から3月31日の間に15歳に達した者を扶養控除対象親族としない部分と,前年の1月1日から3月31日の間に18歳に達した者を特定扶養親族としない部分が違憲違法であるため,前年の1月1日から3月31日の間に15歳に達した者を扶養控除対象親族とし,前年の1月1日から3月31日の間に18歳に達した者を特定扶養親族として扱うことで課税額を算定するという方法によるべきである。なお,いわゆる国籍法違憲判決(最高裁平成19年(行ツ)第164号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁)を踏まえると,本件規定が憲法14条1項に違反するからといって規定全体を無効とするのではなく,区別を生じさせている規定の部分のみが無効になると解されるべきであり,また,いわゆる再婚禁止期間違憲判決(最高裁平成25年(オ)1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁)を踏まえると,条文を修正して解釈することによって憲法14条1項に違反する部分を取り除くことができると解される。そうすると,親族が扶養親族かどうかの判定は,前年の12月31日の現況によるものとしても,その親族が16歳未満の扶養親族に該当するか,16歳から18歳の控除対象扶養親族に該当するか,19歳から22歳の特定扶養親族に該当するかについては,前年の4月1日から当年の3月31日の間に達する年齢で判定すると解釈すべきである。

 そうであれば,原告の課税額は,別紙2に示した通り三男を特定扶養親族として算定した額である52万8100円となる。

 なお,地方税法は過誤納金を還付する制度を備えているため,行政事件訴訟法第31条を準用する必要はない。

 

5 結語

 よって,請求には理由があるので,川崎市長が令和3年5月17日付けでした原告の令和3年度の市民税及び県民税の特別徴収税額の決定のうち,52万8100円を超える部分の取消しを求める。

 

以上