早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

国の主張に反論

さて、前回の口頭弁論で国は立法目的を絡めた主張してきました。

要するに、子ども手当や高校無償化と関係なく、一定の年齢の親族を扶養している場合に扶養控除(特定扶養控除)を廃止して所得の再分配機能を回復することが目的だった旨を主張しているので、今回立法経緯を整理して反論しました。

いや、苦労しました。

なんでこんなに大変なんだろうかと考えた時に、国の主張がいろいろねじれているからだと思うようになりました。これもテクニックなんでしょうか・・・

 

さて、今回執筆した準備書面を掲載します。長いです。

 

 

令和4年(行ウ)第193号、同197号 

更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求事件

原   告 SakuraHappy

被   告 国(処分行政庁:川崎北税務署長)

 

 

原告第3準備書面

 

                         令和5年9月20日

 

東京地方裁判所民事第38部B1係 御中

 

              原        告   SakuraHappy

 

 

 原告は、本準備書面において、令和5年7月7日付け被告準備書面(3)に対し、反論と主張の補充をする。

なお、略語の使用については、従前の例による。

 

第1 平成22年度改正における扶養控除見直しの立法経緯

 はじめに、合理性の基準による憲法適合性の審査は、立法目的の正当性と立法目的と立法手段の合理的関連性、そして立法手段の相当性が問われるものであるので、立法目的の特定は非常に重要であることは言うまでもない。もし、立法目的の特定を誤ると目的審査も手段審査も意味をなさないことになるため、立法目的は、立法事実や立法経緯等を踏まえた上で特定すべきである。

 当書面では、被告の主張に対する反論の前に、平成22年度税制改正における扶養控除等の見直しについての立法経緯を整理する。

1 民主党マニフェスト

平成22年度税制改正における扶養控除等の見直しの起点は、民主党マニフェスト(甲21号証)である。当初マニフェストでは、特定扶養控除と老人扶養控除を除く扶養控除と、配偶者控除を「子ども手当」に転換すること(甲21号証3頁と19頁)、そして教育の無償化として特定扶養親族を変更せずに高等学校無償化をすること(甲21号証22頁)を公約としていた。

2 扶養控除が廃止されて子ども手当に転換された経緯

(1)平成21年11月6日第7回税制調査会での議論

 平成21年11月6日第7回税制調査会後の記者会見で、峰崎財務副大臣は「民主党の考え方は、所得控除から手当へと変わるということです。今回は子ども手当ができているわけですから、子ども手当に該当する扶養控除については、一応廃止をする。」と述べていた。(甲22号3頁)

(2)平成21年12月3日第18回税制調査会での議論

 平成21年12月3日の第18回税制調査会後の記者会見で、小川総務大臣政務官は「所得税で、配偶者控除も扶養控除も2つともなくす。それで、住民税は両方とも残すというのがそもそもの党の公約でした。これは相当、税体系からしても、税務手続からしても、非常に困難な選択だということを相当初期のころに申し上げたと思います。国税所得税の方で、配偶者控除子ども手当との関連でもかなり批判が強かったですから、判断なり結論を先送りにしたということを受けて、そこのいびつさを覚悟するよりは、むしろ扶養控除は扶養控除で(個人住民税と)そろえて廃止をし、配偶者控除についてはやや結論を翌々年度以降にするという方がいろんな観点から適切ではないかという議論をしたということです。その場合は公約の修正になります。」と述べていた(甲23号証10頁)。

(3)平成21年12月4日の第19回税制調査会での議論

平成21年12月4日の第19回税制調査会で、小川総務大臣政務官は「公約段階では、所得税配偶者控除と扶養控除を廃止をし、住民税については、両控除とも存続するというのが公約でございました。今般、大きな方向観として、所得税の方は予定どおり扶養控除は廃止をする見込みです。勿論、成年障害、今、議論をお聞きいただいたとおりですが、この部分の論点は残りますが扶養控除を廃止をし、配偶者控除については、結論が将来に先送られる方向でございます。」(甲24号証22頁)と述べていた。

そして峰崎財務副大臣が議論の整理として「15歳以下のところは、扶養控除は廃止して手当に変える。」(甲24号証32頁)と述べており、税制調査会後の記者会見で、小川総務大臣政務官は「扶養控除の方は、15歳までの扶養控除についての廃止は、当然これは決まりました。」(甲25号証1頁)と述べていた。

(4)小括

以上のとおり、当初は所得税の扶養控除と配偶者控除を廃止して子ども手当に転換するという公約であったが、批判の強かった配偶者控除の廃止は先送りとなり、子ども手当に該当する扶養控除を所得税と個人住民税について廃止することが税制調査会で決定されていた。

3 特定扶養親族の控除が高校無償化に伴って見直された経緯

(1)平成21年12月15日第22回税制調査会での議論

平成21年12月15日の第22回税制調査会議事録によると、中川文部科学副大臣から特定扶養控除についての提案がされていた。(甲26号証2頁)

 その中で具体的な制度設計の話(甲26号証4頁)があり、「特定扶養控除(16歳以上19歳未満)の見直し(試算)」(甲27号証)が示され、所得税と個人住民税の特定扶養控除を縮小することで、高校無償化による支給額から所得税と住民税の増額分を差し引いた金額が、収入の増加とともに徐々に逓減することになる旨と、どの所得層であっても負担が増加することがない旨を説明していた。

 また「更に付言すれば、大学生の子どもさんを持った家庭に対しては、これまでとおり、63万円の控除を維持していくということでありまして、高等学校の子どもにのみ限った形で特定扶養控除の調整をさせていただきたいということになります。」とも述べていた。(甲26号証4頁)

(2)平成21年12月22日第25回税制調査会での議論

平成21年12月22日の第25回税制調査会で平成22年度税制改正大綱案がまとまり、所得税と個人住民税の16歳未満の扶養控除の廃止に加え、16歳以上19歳未満の特定扶養親族の上乗せ控除の廃止が答申されていた。(甲28号証15頁)

(3)小括

以上のとおり、当初特定扶養親族を維持することになっていた公約を修正して縮小し、高校無償化による支給額から所得税と住民税の増額分を差し引いた金額が、収入の増加とともに徐々に逓減するようにすることで、高校生を扶養する納税者についても所得再分配機能の回復をすることが税制調査会で決定されていた。

4 立法経緯のまとめ

 当時政府は「相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、税額控除、手当、給付付き税額控除への切り替えを行い、下への格差拡大を食い止め(る)」(甲21号証19頁)という政策を掲げていた。また「高校生を扶養する納税者に対する支援として、高校無償化制度を創設するのに伴って、その支援が低所得者ほど手厚い支援になるようにする」ことを検討していたことも立法経緯から明らかである。そうすると、これら政策実現のために、子ども手当制度を創設してそれに該当する扶養控除を廃止し、高校無償化制度を創設して高等学校の子どもに対する特定扶養控除による上乗せ控除を廃止したことは明らかである。

第2 被告の主張する立法目的に誤りがあること

1 被告の主張する立法目的

(1)被告の主張の整理

 被告の主張する立法目的は、被告準備書面(1)と被告準備書面(3)に述べられているが、文面に若干差異があるので整理する。被告の主張した立法目的は以下、アからウに転載した通りである。

ア 被告準備書面(1)28頁に述べられた平成22年度改正の趣旨

 『平成22年度改正は、所得控除から手当へ変えることにより、「定額の給付であることから、相対的に支援が必要な人に実質的に有利な支援を行うことができ」ることから、「控除から手当へ」という考え方を採用するものであって、かかる考え方の下、子ども手当制度や高等学校等就学支援金制度の導入に伴い、一定の者に対し扶養控除を廃止又は減額することにしたものである。』

イ 被告準備書面(3)3頁に述べられた平成22年度改正の立法目的

 『平成22年度改正は、かかる扶養控除制度の創設当初からの立法目的を維持しつつ、「控除から手当へ」という考え方の下、高所得者に有利な面がある所得控除から税額控除又は手当への移行を進め、相対的に支援が必要な人(低所得者)に実質的に有利な支援を行い、所得税の再分配機能の回復を図るという目的を加えたものである。』

ウ 被告準備書面(3)4頁に述べられた平成22年度改正の立法目的

 『平成22年度改正は、一定の範囲内の年齢の同居の親族がいる納税者に控除を認め、その人的事情に基づく担税力の調整を行うという扶養控除制度自体の目的を根底に置きつつ、「控除から手当へ」という考え方を採用することを目的としたもの(である)。』

(2)被告の主張する立法目的の要点

 被告の主張する立法目的の中で、「扶養控除制度の創設当初からの立法目的を維持しつつ」という点については扶養控除制度自体の立法目的であって変更を伴わないのであるから平成22年度改正の立法目的ではない。そうすると被告の主張する立法目的の要点は、①「控除から手当へ」という考え方を採用すること、②所得税の再分配機能の回復を図ること、③子ども手当制度や高等学校等就学支援金制度の導入に伴い、一定の者(一定の範囲内の年齢の同居の親族がいる納税者)に対し扶養控除を廃止又は減額することの3点であると解される。

(3)原告の主張する立法目的

 原告は平成22年度改正の立法目的を以下の通り主張してきた。

「所得控除から手当へ」の観点から、子ども手当の創設とあいまって子ども手当支給要件の年齢に相当する親族に対する扶養控除を廃止し、高校無償化に伴い高等学校就学支援金の支給対象の年齢に相当する親族に対する扶養控除の上乗せ控除を廃止することである。(原告第2準備書面6頁)

(4)立法目的特定の相違

 被告の主張する立法目的の要点①~③のうち、①「控除から手当へ」という考え方を採用することについては原告と争いがないし、②所得税の再分配機能の回復を図ることという部分についても、控除から手当へ転換によってもたらされるものであるから争わない。

被告と原告で争いがあるのは、扶養控除が廃止又は減額とする対象者であり、原告が「子ども手当支給要件に相当する年齢の同居の親族がいる納税者と高等学校等就学支援金の支給対象に相当する年齢の同居の親族がいる納税者」と主張するのに対し、被告は「子ども手当制度や高等学校等就学支援金制度の導入に伴い、一定の範囲内の年齢の同居の親族がいる納税者」と主張する。

(5)被告の示した立法目的は目的として適っていないこと

 この点に関して被告は、被告準備書面(3)6頁にて「平成22年度改正は、原告が主張するような、納税者の扶養する子が子ども手当及び高等学校等就学支援金の支給対象となるかどうかと、扶養控除額の適用(上乗せ)を廃するかどうかを関連づけて、個別の納税者にまで着目した租税負担の調整をすることを目的とするものではない」と主張しているから、被告の主張する「一定の範囲内の年齢の同居の親族」は、子ども手当及び高等学校等就学支援金の支給対象かどうかを勘案したものではないと解される。

 しかしながら、政策として控除から手当への転換を目指していたことや、手当等が支給される家庭の便益に着目した制度設計がされていたこと(甲27号証)からすると、被告の主張は当を得ないというべきである。

なにより「一定の範囲内の年齢の同居の親族の扶養控除を廃止、又は減額する」という目的では、どのような意図があるのか不明で、かつ「一定の範囲」は根拠を欠くものであり、この目的から扶養控除見直しの対象者を適切に定めることは不可能であるから、立法目的として適っていないというべきである。

(6)被告が前提として主張する立法目的に正当性がないこと

 仮に被告の主張するとおり子ども手当や高等学校等就学支援金の支給対象かどうかに関係なく扶養控除を廃止するとなれば、親族を扶養していながら手当て等の支給がなく扶養控除だけが廃止される納税者が生じることになり、扶養控除制度の創設当初の趣旨(人的事情に基づく担税力の調整を行うこと)を正当な理由もなく失する事になるので、被告の示した立法目的には正当性を欠く部分があるというべきである。

(7)被告が前提として主張する立法目的の内容には誤りがあること

 改めて述べるが、扶養控除等の廃止又は減額とする対象者は、「控除から手当てへ」の考え方を踏まえて、子ども手当の受給対象児童に相当する年齢の親族の扶養控除を廃止して子ども手当に転換し、高等学校等就学支援金の支給対象者に相当する年齢の親族の特定扶養親族の上乗せ控除を廃止して高等学校等就学支援金に転換することが立法経緯から明らかであるから、被告が対象者を一定の者として主張する立法目的は誤りである。

第3 立法目的と立法手段との関連性に係る被告の主張に対する反論

1 被告の主張

 被告は被告準備書面(3)5頁で『平成22年度改正に伴い、本件年齢規定の控除対象扶養親族(又は特定扶養親族)の年齢の範囲が変更された結果、18歳以下の子を扶養する子育て世帯についてみると、(特定)扶養控除の適用が受けられる納税者の総数が減り、扶養控除額が全体として縮減された一方で、子ども手当制度や高等学校等就学支援金制度の導入により、これらの世帯に対する定額給付の拡充が図られているから、特に所得控除の適用による減税効果が少ない低所得者にとって、定額給付の拡充による恩恵が大きくなっていると考えられる。』と述べ、『子ども手当の創設等に伴なって設けられた本件年齢規定は、「控除から手当へ」という」考え方の下、高所得者に有利な面がある所得控除から税額控除又は手当への移行を進め、相対的に支援が必要な人(低所得者)に実質的に有利な支援を行い、所得税の再分配機能の回復等を図るという平成22年度改正の目的に沿うものといえる。』と結論付けている。

2 被告の主張には誤りがあること

 被告の主張する中で下線部の「18歳以下の子を扶養する子育て世帯」と「これらの世帯(定額給付の拡充が図られた世帯)」は一致しておらず同義ではない。

 「控除から手当へ」という考え方は、子育て世帯の家計に着目して、扶養控除等による税の軽減を手当等の支給に転換して低所得者に有利な支援を行うということであって、もし手当がなく控除だけが廃止されれば単なる増税になってしまうから、控除の廃止と手当の支給は対象者が整合しなければならない。

しかしながら、被告は「控除から手当へ」の考え方を、18歳以下の子を扶養する子育て世帯に対する増税額全体を、子ども手当等の定額給付に転換することというように解釈している。そうすると年齢が1年違う早生まれの子を扶養する納税者は手当等の支給対象から外れて単に増税になる年が生じてしまう。となると、手当てが支給されないものに対して控除を廃止することを忌避した立法経緯を踏まえれば、被告の主張は誤りであるというべきである。

第4 第5回口頭弁論における御庁からの質問に対する回答についての反論

1 御庁からの質問

 令和5年5月9日の第5回口頭弁論において、御庁から「平成22年度の税制改正において、所得税法2条1項34号の2に定められた控除対象扶養親族の規定に誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢15歳の者が含まれていない理由と、同2条1項34号の3に定められた特定扶養親族の規定に誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢18歳の者が含まれていない理由」についての質問があった。

2 被告の回答

 令和5年7月18日の第6回口頭弁論において、被告は裁判長からの問いに対し被告準備書面(3)8頁に記載した内容を指し、端的に「早生まれの子と遅生まれの子の間に区別(差異)が生じる場面がある理由は、徴税の便宜の要請の観点や、所得税法が採用する計算期間の原則との整合性から」である旨を口頭で陳述した。

3 被告の回答が判然としないこと

 御庁からの質問を換言すると、所得税法2条1項34号の2と3に定められた本件年齢規定が早生まれの者を考慮せず遅生まれの者に合わせて画一的となっている理由は何か、ということができる。

この点に関して被告は『平成22年度改正において定められた本件年齢規定では、控除対象扶養親族を年齢16歳以上の者と、特定扶養親族を年齢19歳以上23歳未満の者と画一的に定め、控除対象扶養親族(特定扶養親族)の年齢の範囲に含まれるかどうかを所得税法85条3項の規定する基準日(毎年12月31日)により一律に判定するという仕組みを採用しているところ、このような仕組みを採用しいているのは徴税の便宜の要請によるものであって、一定の合理性を有するものであるし、所得税法が、一律に暦年をもって課税年度としており、課税標準の計算は暦年単位で行うことを原則としていることからすれば、同法が定める扶養控除についても、暦年単位で判定するため「その年の12月31日の現況による」とすることが、所得税法が採用する計算期間の原則とも整合的である。』と述べている。(被告準備書面(3)5頁26行目)

 これによると、所得税法85条3項が基準日により判定する仕組みを採用している理由が、徴税の便宜の要請によるもので、同項が基準日を「その年の12月31日の現況による」と定めている理由が、所得税法が採用する計算期間の原則と整合的であるからと主張したものと解され、所得税法2条1項34号の2と3に定められた本件年齢規定が画一的となっている理由については論じられていない。

 被告は一応、質問の回答として、端的に徴税の便宜の要請と計算期間の原則との整合性である旨を陳述しているが、論理的な説明を欠いているため、本件年齢規定が画一的になっている理由は、結局のところ明らかにされていない。

4 原告の反論

 被告の主張は判然としないが、早生まれの子と遅生まれの子の間に区別(差異)が生じる場面がある理由(本件年齢規定が画一的である理由)は、徴税の便宜の要請と計算期間の原則との整合性から、と主張しているものとして反論する。

(1)徴税の便宜の要請の観点について

被告は、早生まれの年齢を考慮せず控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢を画一的に定めたことも徴税の便宜の要請の観点からだと主張しているが、徴税の便宜の要請が具体的に何なのか判然としない。もし本件年齢規定を画一的にすることが徴税上の利益になるのであれば具体的にその利益を明らかにすべきであるが、被告は何ら明らかにしていない。であれば徴税上の利益の存在は認められないから、本件年齢規定を画一的にする理由は存在しないというべきである。

なお被告が徴税上の利益を明らかにしていないため、以降は原告が考え得る範囲で徴税上の利益を想定して反論する。

まず徴税コストの観点である。扶養親族の年齢規定が早生まれの年齢を考慮するかしないかで、親族がどの扶養親族に当たるのかを判定する作業に差異が生じるが、現行では生年月日がどの範囲にあるかによって判定しており(甲20号証37頁)、早生まれの年齢を考慮してもしなくても生年月日がどの範囲にあるかで判定する方法に変わりはないから、画一的にすることで徴税コストを抑える効果はないということができる。

次に税収の観点であるが、早生まれを考慮すると浪人や留年をせずに社会人になった早生まれの子に対しても、扶養の実態に合わせ、遅生まれの子と同じ回数の控除対象扶養親族(特定扶養親族)を適用することになるので、全体として控除額が多くなり税収が減少するのは明らかである。しかしながら、早生まれの子を扶養する納税者からより多く税収を得ることが要請されたとすれば、それは明らかに不当な差別であるから、そのような要請があったとは考えられない。

このように、年齢規定が画一的であることによる具体的な利益は何もないので、徴税の便宜の要請というのは観念上の想定ですらないというべきである。

(2)所得税法が採用する計算期間の原則との整合性について

 本件年齢規定を画一的にすることと所得税法が採用する計算期間の原則との整合性の関係が明らかでない上、その整合性をとることによって誰にどのような利益があるのかを被告は明らかにしていない。そうするとこれも観念上の想定ですらないというべきである。

 そもそも暦年課税の考え方(所得税法が採用する計算期間の原則)の観点及び徴税の便宜要請の観点から所得税法85条3項が扶養控除等の判定につき基準日を設け、「その年の12月31日の現況による」と規定することで、暦年課税方式の要請と徴税の便宜の要請を満たしており、これらの観点は、所得税法2条34の2に定められた控除対象扶養親族や同法2条34の3の定められた特定扶養親族の年齢規定を画一的にすることまでを要請していないというべきである。

 また年齢規定を画一的にするということは、その年の1月1日から12月31日の間に達した年齢で扶養親族等の判定をすることと同義である。そうすると、それは「その年の12月31日の現況による」と定め基準日で判定するとした所得税法85条3項の趣旨を履き違えるものであり、被告の主張は失当というべきである。

(3)本件年齢規定は平成22年度改正の目的に沿わないだけでなく不合理であること

 被告は本件年齢規定を不合理とはいえないとも主張しているが、実質は早生まれが全体の約4分の1程度であることから、立法者が少数者の権利保護の責任を怠ったものと推認され、明らかに不合理であるので不合理が認められる例をあげておく。

ア 平成22年度改正によって扶養控除の適用回数に差が生じたこと

 被告は被告準備書面(6)12行目から「原告が前提としているようなケース(扶養する子が3年間で高校を卒業した後に、浪人や留年なしで4年制大学を卒業し社会人になり、その年に一定額以上の収入を得るような場合)においては、高校1年生及び大学1年生の時点で、早生まれの子と遅生まれの子との間で(特定)扶養控除の適用状況に区別(差異)が生じることがあり得る。」とし、その弁明をしているが、これ以外にも平成22年度改正の本件年齢規定によって早生まれの子の扶養控除の適用回数は更に1回少なくなっている。(甲29号証)

 例えば、原告の三男は平成14年の早生まれであるが、遅生まれである平成13年の4月2日から翌1月1日生まれの子と比較した場合、どちらも12月31日に22歳を迎えるまで扶養されていたケースを比較すると、控除対象の扶養親族になる回数は、遅生まれが平成13年分から平成22年分と平成29年分から令和5年分の計17回であるのに対し、早生まれは平成14年分から平成22年分と平成30年分から令和6年分の計16回になる。

一方、平成22年度改正で早生まれを考慮し、控除対象扶養親族の年齢を「遅生まれは16歳以上、早生まれは15歳以上」と規定していれば、両者とも回数は等しく17回となっていた。

このように「扶養されている限りは1年おくれで適用されるということでございますので、扶養控除という観点から、生まれ年によって不公平が生じているということではない」(被告準備書面(3)8頁、甲11号証)とする説明は、平成22度改正前の事情であって、平成22年度改正による本件年齢規定は、早生まれの子の控除対象扶養親族の適用回数を1回減らしているので誤りであり、同じ年齢まで扶養されていても扶養控除の回数が少なくなることは不合理である。

イ 関連する制度に波及し、歪みを生じてさせていること

 同学年であっても遅生まれか早生まれかで扶養控除の区分が違うことで、関連する制度で不公平な扱いがされ歪みが生じている。例えば高等学校就学支援金は保護者の所得要件があって支援金の額が所得によって変わるが、遅生まれであれば高校1年時に控除対象扶養親族となって所得から控除されるのに対し、早生まれでは控除対象扶養親族にならず所得からの控除がないため、支援金の支給額に影響している(甲13号証)。また給付奨学金についても扶養控除の区分で家計基準審査の判定を左右することがあるので、遅生まれと同じ扱いになるように控除額を是正して審査している(甲30号証)。

 ただし、この是正は本人の分だけにとどまり、どちらも兄弟が早生まれかどうかの考慮ができていないため、未だ不公平の解消には至っていない(甲31号証)。

 このように税法だけでなく関連する制度で不公平が明らかになり、それぞれに是正が必要になっていることを踏まえれば、早生まれを考慮しない本件年齢規定は、関連する制度を含めると判定にかかる作業やコストが多く簡便性を損じており、しかも未だに不公平の解消には至っていないのであるから、明らかに不合理というべきである。

(4)立法作業における検討不足であること

 被告は平成22年度改正前の平成11年2月17日の大蔵委員会での議論を提示し早生まれに配意した制度の作成は困難であった旨を主張しているが、平成22年度の改正作業において、立法目的に沿うよう12月31日時点での早生まれの年齢を考慮して控除対象扶養親族と特定扶養親族の年齢を規定することで足りるから、特段困難であったとはいえない。これは単に立法作業において然るべき検討がされていなかったというべきである。

第5 区別(差異)の解消方法に係る被告の主張に対する反論

1 原告の主張

 原告の主張は以下の通りである。

 憲法は国の最高法規であって憲法に適合しない法律は、全部又は一部が無効(憲法98条)であるから、国民は憲法に適合しない租税法の規定によって課された税については納税の義務を有さない。

 平成22年度改正によって改正された規定のうち、誕生日が1月2日から4月1日の間にあって15歳の子を控除対象外の扶養親族に改正した部分と、誕生日が1月2日から4月2日の間にあって18歳の子を特定扶養親族から外すように改正した部分は憲法14条1項に違反して無効であるから、15歳(18歳)の早生まれの子について控除対象扶養親族(特定扶養親族)の控除をせずに課税された部分は納税の義務を有さない。そうすると控除されないことから発生した部分の税額について還付を求めた更正の請求に対し、更正すべき理由がない旨の各通知処分は取り消されるべきである。

2 被告の主張

 これに対して被告は「本件年齢規定を含む扶養親族に係る所得税法の各規程に当てはめれば、15歳(18歳)の早生まれの子は、高校1年生(大学1年生)に相当する学年であっても控除対象扶養親族(特定扶養親族)には含まれない結果となるのは明らかであり、明文の規定なくこれと異なる解釈をすることは租税法律主義に反することになるから、原告の主張のような解釈をすることは許されない。」と主張する。そして「仮に原告の主張のとおり、本件年齢規定を含む扶養控除に係る所得税法の各規程によって早生まれの子と遅生まれの子との間に生じ得る区別(差異)の解消が必要だとしても、それは立法によって達せられるべきものである。」と主張する。

3 原告の反論

 租税法律主義は、租税を賦課徴収する場合には、必ず議会の制定した法律に基づかなければならないとする考え方のことであるが、当然に制定された法律が憲法に違反していないことが前提であり、憲法98条の規定は租税法を例外としていない。

 また、違法だが事情によって棄却できることを定めた行政事件訴訟法第31条は、違法な処分がされた場合に「これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は請求を棄却することができる」と定めているが、租税法に特別な事情があるということはなく、本件処分が取り消されることにより公の利益に著しい障害を生ずることもなければ、公共の福祉に適合しないということもないから、違法な処分だが棄却されるべき取消し請求には該当しない。とすると区別(差異)の解消は立法によって達せられるべき、すなわち司法救済はすべきではないと解される被告の主張は根拠を欠くというべきである。

 

以上