早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

原告主張の要約

口頭弁論で被告からの反論や指摘を受けて、当初の主張からいくらか変更いたしました。直近の主張の要約を掲載しておきます。

 

1 事件概要

 本件は,所得税法2条1項34号の2に定められた控除対象扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢15歳の者」が含まれていない部分と,同法2条1項34号の3に定められた特定扶養親族の規定に「誕生日が1月2日から4月1日の間にある者で年齢18歳の者」が含まれていない部分は憲法14条1項に反していると主張し,早生まれの子を扶養する納税者は,不当に課税されているとして通知処分の取消しを求めた事件である。

2 本件各区別の不合理な部分によって不当な課税がされていること

 平成22年度の税制改正で「所得控除から手当へ」等の観点から,子ども手当の創設とあいまって年少扶養親族に対する扶養控除を廃するように対象年齢の規定を設置したが,子ども手当の支給要件児童が中学生以下相当であることから,中学生以下に相当する年齢の扶養親族の扶養控除を一律に廃止すべきところ,早生まれの子を扶養する納税者が不利になることを黙認したまま一定の年齢で判定することにしたため,早生まれの高校1年生に相当する扶養親族の扶養控除も廃された。その結果,中学校卒業相当の子を扶養する納税者のうち,早生まれの15歳の子を扶養する者はその子に対する扶養親族の扶養控除が適用されず不当に課税されている。

また同改正では,高校無償化制度の創設に伴なって16歳以上19歳未満の特定扶養親族の上乗せ控除部分を廃するように対象年齢を変更したが,高校生に相当する年齢の扶養親族の上乗せ控除部分を一律に廃止すべきところ,右と同様に一定の年齢で判定することにしたため,早生まれの大学一年生に相当する特定扶養親族の上乗せ控除も廃された。その結果,高校卒業相当から4年経過するまでの子(大学生相当)を扶養する納税者のうち,早生まれの18歳の子を扶養する納税者はその子に対する特定扶養親族の上乗せ控除が適用されず不当に課税されている。

3 憲法が要請する租税法律主義と公平負担原則について

 憲法は,租税法律主義について,国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(憲法30条),新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには,法律または法律の定める条件によることを必要としている(憲法84条)。ただし,憲法は国の最高法規であって憲法に適合しない法律は,全部又は一部が無効(憲法98条)であるから,国民は憲法に適合しない租税法の規定によって課された税については納税の義務を有さない。

また租税法も平等原則(憲法14条)が要請され,合理的理由のない区別によって不利益な扱いをすることは公平負担原則に反し違憲であり,租税法上の区別と法的取扱いの差異が憲法に適合するかは,昭和60年大法廷判決に照らし合理性の基準で判断されるべきである。

4 本件各区別

本件の法的取扱いの区別は以下のとおりである。

・控除対象扶養親族か否かの区別

扶養控除は,自己と生計と一にする一定の所得金額以下の親族を有する場合に,その人数に応じて納税者の担税力調整を行う趣旨で設けられたものだが,平成22年度の税制改正で,扶養親族の年齢が16歳以上か16歳未満かで区別され,16歳以上の者を扶養する納税者は人数に応じて一定額(所得税は38万円,住民税は33万円)の扶養控除が認められるのに対し,16歳未満の者を扶養する納税者は扶養控除が認められない扱いとなっている。

・特定扶養親族か否かの区別

特定扶養親族は平成元年の税制改正で教育費等の支出がかさむ世代の税負担の軽減を図る見地から高校入学から大学卒業を念頭に16歳以上23歳未満の親族を有する場合,人数に応じて一定額(所得税は25万円,住民税は12万円)を上乗せ控除する趣旨で設けられたもので,扶養親族の年齢が16歳以上23歳未満であるか否かで区別され,16歳以上23歳未満の者を扶養する納税者は1人につき一定額(所得税は25万円,住民税は12万円)の扶養控除の上乗せ控除が認められるのに対しそれ以外の納税者は上乗せ控除が認められない。そしてこの年齢の規定は,平成22年度の税制改正によって19歳以上23歳未満に変更されている。

5 立法目的の正当性

 平成22年度税制改正所得税法地方税法における扶養控除が見直された立法目的は,「所得控除から手当へ」の観点から,子ども手当の創設とあいまって年少扶養親族(15歳以下)に対する扶養控除を廃止することと,高校無償化に伴い16歳から18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分を廃止することである。(甲6号証)

まず年少扶養親族に対して扶養控除を廃止することの正当性であるが,所得控除から手当てへの観点で,中学生以下に相当する年齢の子の養育者に子ども手当を支給する制度を創設することに伴っての見直しであるから,子ども手当て支給要件児童を扶養する納税者の課税額計算において該当児童の扶養控除を廃することは正当であると言える。ただし子ども手当の支給要件でない扶養親族を扶養控除の対象外とすることになれば納税者に根拠のない課税を強いることとなり正当性を欠くから,扶養控除が廃止となる「年少扶養親族(15歳以下)」は,子ども手当支給要件の年齢に相当する親族と解することで立法目的は正当であるということができる。換言すると,一律に15歳以下の子の扶養控除を廃するのが目的とするならば,子ども手当支給要件の年齢に相当しない子に対する扶養控除を廃する部分は正当な根拠を欠いた税を課すこととなり,目的の正当性を欠くから憲法14条1項に反すると言わざるをえない。

そのため以降で立法手段の関連性を述べる際の立法目的は『「所得控除から手当へ」の観点から,子ども手当の創設とあいまって子ども手当支給要件の年齢に相当する親族に対する扶養控除を廃止すること』と解するものとする。

次に16歳から18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分を廃止することの正当性であるが,高校生に相当する年齢の子に高校学校等就学支援金を支給する制度を創設することに伴っての見直しであるから,高等学校等就学支援金の支給対象生徒を扶養する納税者の課税額計算において該当の子の扶養控除の上乗せ部分を廃することは正当であると言える。ただし高等学校等就学支援金の支給対象外に相当する扶養親族の上乗せ控除の対象外とすることになれば,該当する親族を扶養する納税者に根拠のない課税を強いることとなり正当性を欠くので上乗せ控除が廃止となる「16歳から18歳までの特定扶養親族」は,高等学校等就学支援金の支給対象の年齢に相当する親族と解することで立法目的は正当であるということができる。換言すると,一律に18歳以下の子の特定扶養親族の上乗せ控除を廃するのが目的とするならば,高等学校等就学支援金の支給対象の年齢に相当しない子に対する上乗せ控除を廃する部分は正当な根拠を欠いた税を課すことになり,目的の正当性を欠くから憲法14条1項に反すると言わざるをえない。

そのため以降で立法手段の関連性を述べる際の立法目的は『高校無償化に伴い高等学校等就学支援金の支給対象の年齢に相当する親族に対する扶養控除の上乗せ控除を廃止すること』と解するものとする。

6 立法目的と立法手段の関連性

平成22年度税制改正では,控除対象扶養親族の規定が新たに設けられ,一律で16歳以上の扶養親族を控除対象扶養親族として扶養控除を認めたが,16歳未満の扶養親族の扶養控除は廃止された。この中で子ども手当支給要件に該当する年齢が遅生まれであれば16歳未満,早生まれであれば15歳未満であるので,この部分は合理性が認められる。しかし早生まれで15歳の子は子ども手当支給要件に該当しないので,誕生日が1月2日から4月1日の間にある15歳の子が控除対象外となる部分は立法目的との関連で合理性がなく憲法14条1項に違反する。

また同改正では,特定扶養親族の最低年齢の規定が,それまで16歳以上から19歳以上に改められ,16歳以上19歳未満の扶養親族に認められていた扶養親族の上乗せ控除が廃止された。この中で高等学校等就学支援金の支給に相当する年齢が遅生まれであれば19歳未満,早生まれであれば18歳未満であるので,この部分は合理性が認められる。しかし早生まれで18の子は高等学校就学支援金の支給対象に該当しないので,誕生日が1月2日から4月1日の間にある18歳の子が特定扶養親族の対象外となる部分は立法目的との関連で合理性がなく憲法14条1項に違反する。

7 本件各区別のうち不合理な部分による課税には納税の義務がないこと

本件各区別のうち,早生まれの15歳の子の扶養控除を廃して不当に課税された部分と早生まれの18歳の子の特定扶養親族の上乗せ控除を廃して不当に課税された部分は,どちらも立法目的との間に合理的関連性がない年齢規定によってもたらされており,これらの規定は部分的に憲法14条1項に反するものである。そうすると憲法に反する規定によって課税された部分については納税の義務がないのであるから,原告が求めた更正の請求には理由があるので,更正すべき理由がない旨の各通知処分は取り消されるべきである。