早生まれ税金訴訟

父ちゃん、また小法廷に立つ(計画)

(税務訴訟資料)平成20年名古屋高裁判決

税務訴訟資料 第258号-128(順号10986) 
名古屋高等裁判所 平成●●年(○○)第●●号 所得税更正処分取消等請求控訴事件 
国側当事者・国(昭和税務署長) 
平成20年7月9日棄却・確定 


判示事項 
(1) 扶養控除の適用において、早生まれの子(1月1日から4月1日までに生まれた子)の扶養者は、遅生まれの子(4月2日から12月31日までに生まれた子)の扶養者と比較して、扶養控除の権利を1年分行使できないという不公平な扱いを受けるため、早生まれの子の扶養者は、その子が遅滞なく各教育課程を終え、かつ、各最終学年(卒業年の前年)における12月31日までに特定扶養親族の要件を満たす場合には、その翌年にこれまで短縮されてきた1年分の扶養控除の権利を行使できると解すべきであるとの納税者の主張が、所得税法85条3項(扶養親族等の判定の時期)は「特定扶
養親族(中略)に該当するかどうかの判定は、その年の12月31日の現況による」と定めており、ここにいう「その年の12月31日」を遅滞なく各教育課程を終えた早生まれの子については「卒業の前年12月31日」をいうものと解することはできないとして排斥された事例(原審判決引用) 
(2) 扶養控除及び特定扶養親族に係る扶養控除制度の趣旨(原審判決引用) 
(3) 同一学年に属する子であっても、その子の進学の有無、居住、就学状況、送金等の有無、収入の額等の諸事情により、特定扶養親族に該当するか否かについての判断に差異が生ずるのであり、そのこと自体、扶養控除制度が当然に予定しているのであるから、扶養親族に該当するか否かの判断基準日を「その年12月31日」とする所得税法85条3項(扶養親族等の判定の時期)は不合理であるとはいえないとされた事例(原審判決引用) 


判決要旨 
(1) 省略 
(2) 所得税法が規定する扶養控除制度は、自己と生計を同一にする扶養親族を有する納税者に対して、その税負担能力(担税力)を減殺する個別的事情を調整する趣旨から設けられたものであり、特定扶養親族に係る扶養控除は、扶養親族のうち教育費に多額の支出を要するものがある場合には、その教育費を負担する納税者の税負担能力への配慮が必要なことから認められたものである。 
(3) 省略 
(第一審・名古屋地方裁判所 平成●●年(○○)第●●号、平成20年3月5日判決、本資料258号-53・順号10911) 

 

判 決 

控 訴 人 甲 
被控訴人 国 
同代表者法務大臣 鳩山 邦夫 
処分行政庁 昭和税務署長 
 村木 正一 
被控訴人指定代理人 坂下 孝平 
同 竹内 寛和  
同 林 亮二 
同 竹川 徳行 


主 文 
1 本件控訴を棄却する。 
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 
事 実 及 び 理 由 
第1 当事者の求めた裁判 
1 控訴人 
(1) 原判決を取り消す。 
(2) 処分行政庁が控訴人に対し平成17年9月22日付けでした平成15年分の所得
税の更正処分のうち、税額7万4700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
処分を取り消す。 
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 
2 被控訴人 
 主文同旨 
第2 事案の概要 
1 本件は、控訴人の、平成15年3月に大学を卒業して就職したいわゆる早生まれの子(昭和56年1月30日生。平成15年分の所得金額は183万8800円)について、昭和税務署長(処分行政庁)が特定扶養親族としての扶養控除を認めず、控訴人に対して所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことが違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。 
 原判決は、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人がこれを不服として控訴した。
2 そのほかの事案の概要は、原判決「事実及び理由」欄の第2の1ないし3に記載のと
おりであるから、これを引用する。 
第3 当裁判所の判断 
1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりであるから、これを引用する 
2 原判決の補正 
(1) 原判決5頁8行目の「同一学年に属する子であっても、」の次に「上記の要件との関係において、」を加える。 
(2) 同5頁12行目の「とはいえない。」の次に、以下のとおり加える。 
「控訴人は、通常の場合、教育課程の修了する年において、いわゆる早生まれの子も同一学年の遅生まれの子と同じように就職して、一定額以上の収入を得るようになるとして、扶養控除を受けられる年数が遅生まれの子に比べて1年少なくなることを指摘するが、そもそも早生まれの子の方が遅生まれの子に比べて扶養期間が短いのであり、また、特定扶養親族としての扶養控除に関しては、毎年の12月31日の判断基準日において16歳以上23歳未満に該当する年数(回数)は、その誕生日がいつであっても同じであり、早生まれの子についても変わりはないのである。
ただ、上記のとおり、一定額以上の収入を有することとなった場合には、その扶養の実態に照らして、担税力の減殺措置の必要性が認められないことから扶養控除も認められないのであって、これをもって誕生日の相違を理由とした不合理な差別ということはできない。」 
(3) 同5頁15行目末尾の「明らかである。」を「明らかであり、これを4月1日にしないからといって違法とはいえない。」に改め、その次に行を改めて以下のとおり加える。 
「 早生まれの子については、教育課程を修了する前年において特定扶養親族の要件を満たしていれば、翌年の所得税について特定扶養親族としての扶養控除を認めるべきであるとの控訴人の主張は、扶養親族としての控除の要件や扶養の実態を無視した独自の見解であって理由がなく、したがって、本件各処分がその主張に反することを理由に違法ということはできない。」 
3 以上のとおり、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 
名古屋高等裁判所民事第2部 
裁判長裁判官 西島 幸夫 
 裁判官 福井 美枝 
 裁判官 浅田 秀俊